上 下
33 / 65

32.聖女を取り戻しに-アスタside

しおりを挟む
帰還し、殿下への報告を終えた後、殿下は難し顔をする。
隣に居るリスタに関しては相変わらず何を考えているのか分からない無表情さだ。

「獣人達と仲良くするなんて、狂ってる!」

レイドワーク領土では獣人と共同生活のようなものを送っていると、悔しそうな顔をしたロイドから報告があった。

「そしてマユはルフィル国…か」

殿下が歯を食いしばりながら答えた。
僕はマユが居なくなったと聞いて、聖女の力を辿って探した末に見つけたのは、暴力的な獣人が住むルフィル国だった。
この国の成り立ちから考えても、人間であるマユが正当な扱いを受けているとは思えない。
すぐさま救出しなければと思っている。
レイドワークを視察したロイドが国王様に報告をした後、現地で合流するはずだったが、現状僕一人でルフィル国へ渡ってもマユを無事に取り返せるとは思えなかった為、王都へ戻ってきたのだ。
そこへロイドも報告へきていて合流となったのだが…。

「マユ…大丈夫かな」

僕が零した言葉に、殿下とロイドが勢いよく振り返る。
だってそうでしょう?
獣人達だよ?
そんな意味を込めて、二人へ視線を投げる。

「くそ!あっちもこっちも獣人達め!」
「まさか我が国を乗っ取ろうとでも言うのか!?マユだけでなく…許せん!」

ロイドも殿下も怒りで顔が赤く染まる。
ここまできてもリスタは相変わらず無表情だ。
マユの事が心配じゃないなんて、もはや人間の感情があるのかすら疑う。

「国王様は何と仰っていますか」

やっとリスタが口を開いたかと思えば、そんな一言だった。

「はっ!父上は、母上が出て行ってから常に震えて部屋にこもっておるわ!!あんな腑抜け、いくら父上と言えど知らん!」
「マユが戻れば問題ない!救い出せば良いだけだ!」
「王太子として…次期国王として決定する!ルフィル国と戦うぞ!」

殿下もロイドも、ちゃんと分かってる。
獣人に怯える必要なんてないし、マユが居れば大丈夫なんだ。
前のようにマユと皆で笑い合って一緒に過ごしてるのが平和なんだよ。

◇◆◇◆◇

王都に残っている騎士や兵士達だけでなく、腕に覚えのある者達も含め集まってもらった。
こんなに少ないものなのか?と思ったが、マユさえ取り戻せたら良い。
清らかな白い神官服に身を包み、騎士や兵士達の前に立つと僕は説いた。

国の安寧に必要な聖女、それは神が選びし異世界より降り立った少女。
荒れ果てた地でも植物が育ち、大地が潤い、天からは恵みの雨が降る。
獣人に虐げられた我々の先祖を守った、人々に平和をもたらす神に愛されし聖女。

「聖女を奪いし獣人達から取り返すぞ!」
「聖女は人々の味方なり!」

おおぉおおおおおおーーーーーー!!!

咆哮が轟く。
士気が一気に上がる。

「目指すはルフィル国だ!」

殿下の言葉が出発の合図となる。
殿下とロイドと僕はマユを取り戻す為にルフィル国を目指す。
王宮に残ると決めたリスタが、僕達の後ろで冷たい微笑みを浮かべていた事など知らずに———
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】『飯炊き女』と呼ばれている騎士団の寮母ですが、実は最高位の聖女です

葉桜鹿乃
恋愛
ルーシーが『飯炊き女』と、呼ばれてそろそろ3年が経とうとしている。 王宮内に兵舎がある王立騎士団【鷹の爪】の寮母を担っているルーシー。 孤児院の出で、働き口を探してここに配置された事になっているが、実はこの国の最も高貴な存在とされる『金剛の聖女』である。 王宮という国で一番安全な場所で、更には周囲に常に複数人の騎士が控えている場所に、本人と王族、宰相が話し合って所属することになったものの、存在を秘する為に扱いは『飯炊き女』である。 働くのは苦では無いし、顔を隠すための不細工な丸眼鏡にソバカスと眉を太くする化粧、粗末な服。これを襲いに来るような輩は男所帯の騎士団にも居ないし、聖女の力で存在感を常に薄めるようにしている。 何故このような擬態をしているかというと、隣国から聖女を狙って何者かが間者として侵入していると言われているためだ。 隣国は既に瘴気で汚れた土地が多くなり、作物もまともに育たないと聞いて、ルーシーはしばらく隣国に行ってもいいと思っているのだが、長く冷戦状態にある隣国に行かせるのは命が危ないのでは、と躊躇いを見せる国王たちをルーシーは説得する教養もなく……。 そんな折、ある日の月夜に、明日の雨を予見して変装をせずに水汲みをしている時に「見つけた」と言われて振り向いたそこにいたのは、騎士団の中でもルーシーに優しい一人の騎士だった。 ※感想の取り扱いは近況ボードを参照してください。 ※小説家になろう様でも掲載予定です。

浮気をした王太子はいりません。〜離縁をした元王太子妃は森の奥で、フェンリルパパと子供と共に幸せに暮らします。

にのまえ
恋愛
 王太子ルールリアと結婚をして7年目。彼の浮気で、この世界が好きだった、恋愛ファンタジー小説の世界だと知った。 「前世も、今世も旦那となった人に浮気されるなんて」  悲しみに暮れた私は彼に離縁すると伝え、魔法で姿を消し、私と両親しか知らない秘密の森の中の家についた。 「ここで、ひっそり暮らしましょう」  そう決めた私に。  優しいフェンリルのパパと可愛い息子ができて幸せです。  だから、探さないでくださいね。 『お読みいただきありがとうございます。』 「浮気をした旦那様と離縁を決めたら。愛するフェンリルパパと愛しい子ができて幸せです」から、タイトルを変え。  エブリスタ(深月カナメ)で直しながら、投稿中の話に変えさせていただきました。

お嬢様はお亡くなりになりました。

豆狸
恋愛
「お嬢様は……十日前にお亡くなりになりました」 「な……なにを言っている?」

王命を忘れた恋

須木 水夏
恋愛
『君はあの子よりも強いから』  そう言って貴方は私を見ることなく、この関係性を終わらせた。  強くいなければ、貴方のそばにいれなかったのに?貴方のそばにいる為に強くいたのに?  そんな痛む心を隠し。ユリアーナはただ静かに微笑むと、承知を告げた。

聖女の取り巻きな婚約者を放置していたら結婚後に溺愛されました。

しぎ
恋愛
※題名変更しました  旧『おっとり令嬢と浮気令息』 3/2 番外(聖女目線)更新予定 ミア・シュヴェストカは貧乏な子爵家の一人娘である。領地のために金持ちの商人の後妻に入ることになっていたが、突然湧いた婚約話により、侯爵家の嫡男の婚約者になることに。戸惑ったミアだったがすぐに事情を知ることになる。彼は聖女を愛する取り巻きの一人だったのだ。仲睦まじい夫婦になることを諦め白い結婚を目指して学園生活を満喫したミア。学園卒業後、結婚した途端何故か婚約者がミアを溺愛し始めて…!

殿下、あなたが借金のカタに売った女が本物の聖女みたいですよ?

星ふくろう
恋愛
 聖女認定の儀式をするから王宮に来いと招聘された、クルード女公爵ハーミア。  数人の聖女候補がいる中、次期皇帝のエミリオ皇太子と婚約している彼女。  周囲から最有力候補とみられていたらしい。  未亡人の自分でも役に立てるならば、とその命令を受けたのだった。  そして、聖女認定の日、登城した彼女を待っていたのは借金取りのザイール大公。  女癖の悪い、極悪なヤクザ貴族だ。  その一週間前、ポーカーで負けた殿下は婚約者を賭けの対象にしていて負けていた。  ハーミアは借金のカタにザイール大公に取り押さえられたのだ。  そして、放蕩息子のエミリオ皇太子はハーミアに宣言する。 「残念だよ、ハーミア。  そんな質草になった貴族令嬢なんて奴隷以下だ。  僕はこの可愛い女性、レベン公爵令嬢カーラと婚約するよ。  僕が選んだ女性だ、聖女になることは間違いないだろう。  君は‥‥‥お払い箱だ」  平然と婚約破棄をするエミリオ皇太子とその横でほくそ笑むカーラ。  聖女認定どころではなく、ハーミアは怒り大公とその場を後にする。  そして、聖女は選ばれなかった.  ハーミアはヤクザ大公から債権を回収し、魔王へとそれを売り飛ばす。  魔王とハーミアは共謀して帝国から債権回収をするのだった。

逆行令嬢は聖女を辞退します

仲室日月奈
恋愛
――ああ、神様。もしも生まれ変わるなら、人並みの幸せを。 死ぬ間際に転生後の望みを心の中でつぶやき、倒れた後。目を開けると、三年前の自室にいました。しかも、今日は神殿から一行がやってきて「聖女としてお出迎え」する日ですって? 聖女なんてお断りです!

【完結】辺境伯令嬢は新聞で婚約破棄を知った

五色ひわ
恋愛
 辺境伯令嬢としてのんびり領地で暮らしてきたアメリアは、カフェで見せられた新聞で自身の婚約破棄を知った。真実を確かめるため、アメリアは3年ぶりに王都へと旅立った。 ※本編34話、番外編『皇太子殿下の苦悩』31+1話、おまけ4話

処理中です...