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7.挟み撃ちのピンチ
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バァン!!
何度目かの体当たりで開いたドアから、転げるように出る。
いきなり大きな火にしたら寄ってくる魔獣もいるかもしれないと、小さい火にして離れて行ってくれたのが幸いした。
壁に少し火が付いてきた程度で抜け出せたのだ。
「さて、縄抜けね」
そう言っても、後ろ手な為、ナイフを取る事ができない。
手近に鋭利で丁度良い大きさの石がないか周囲を探す。
火の光がちょうど良い灯りとなっているが、いつまでも此処に居るのも危険だろう。
グァアアアアア
ズシンッと地面が揺れ、咆哮が聞こえた方へ視線を向けると、熊のような獣が居た。
確か…熊は火を怖がらないと言うけれど、熊のような魔獣もそうなのだろうか。
後ろ手で縛られたままでは、走る速度も出ないし、武器もない。
生きる事を諦めるつもりもないが、この状態を打破する方法が一切思いつかない。
せめてもの矜持として、真っ直ぐ見据えて姿勢を正す。
お前になんて怯えていない、というように。
今の私は、すでに餌の立場でしかないだろう。
マユに会えて良かった
お父様、お母様、ごめんなさい
走馬灯のように様々な感情が沸き起こる中、後ろに大きな気配が現れる。
ガルルルルルルル
振り向かなくても分かる、魔獣の唸り声。
挟み撃ちにされていることはスグに理解した。
え
なにこれ…
ストーカー王子と三馬鹿ぁあああああああ!!!!!!!
一気に恨みの心が募る。
ガァアアアアアアアッ
後方からの咆哮
すでに振り返る余裕もない
——終わった——
そう思った瞬間、前方に居る熊の魔獣が怯んだ。
視界の端に銀色の何かが過ぎ去ったかと思ったら、熊の魔獣に襲いかかる
喉元に噛みつき、少し蠢いた後、動かなくなる熊の魔獣。
勝負はほぼ一瞬だったけれど、私の現状はほぼ変わっていない。
より強い魔獣の餌になるだけの話だ。
だけど——
恐怖より、惹かれた
口元にある赤ですら、ただのアクセントのように
美しい銀の毛皮を纏う、狼のようで狼より大きな魔獣。
その立ち姿は神々しく、光り輝いているようで
「—綺麗—」
ポツリと、呟く。
それを聞き取ったかのように、大きい狼はピクリと身体を揺らし、ゆっくりと振り向いた。
その狼のような魔獣が持つ美しい金の瞳に吸い込まれそうになる。
ゆっくりと、狼が私に近づこうとするが、私は魅入られたように動けない。
一歩、一歩。
距離を縮め、そして……私の前で、伏せた。
…伏…え?
パーティの後から今に到るまで、色々なことがありすぎて、その情報量からすでに頭がパンクしそうだ。
何でこの狼は私の前で伏せって居るんだろう。
餌の前で伏せる儀式でもあるんだろうか。
そんな意味の分からない思考がよぎった時、更にパニックになる事態が私を襲う。
「…怪我はないか?」
低い響くような心地いいテノールの美しい声。
周囲に人はおらず、狼の口が言葉に合わせて動いたのを、なんとか頭で理解した。
つまり…狼が喋ったのだ。
それが意味するところは、このアズール国にはいない獣人という存在を示していることになる。
何度目かの体当たりで開いたドアから、転げるように出る。
いきなり大きな火にしたら寄ってくる魔獣もいるかもしれないと、小さい火にして離れて行ってくれたのが幸いした。
壁に少し火が付いてきた程度で抜け出せたのだ。
「さて、縄抜けね」
そう言っても、後ろ手な為、ナイフを取る事ができない。
手近に鋭利で丁度良い大きさの石がないか周囲を探す。
火の光がちょうど良い灯りとなっているが、いつまでも此処に居るのも危険だろう。
グァアアアアア
ズシンッと地面が揺れ、咆哮が聞こえた方へ視線を向けると、熊のような獣が居た。
確か…熊は火を怖がらないと言うけれど、熊のような魔獣もそうなのだろうか。
後ろ手で縛られたままでは、走る速度も出ないし、武器もない。
生きる事を諦めるつもりもないが、この状態を打破する方法が一切思いつかない。
せめてもの矜持として、真っ直ぐ見据えて姿勢を正す。
お前になんて怯えていない、というように。
今の私は、すでに餌の立場でしかないだろう。
マユに会えて良かった
お父様、お母様、ごめんなさい
走馬灯のように様々な感情が沸き起こる中、後ろに大きな気配が現れる。
ガルルルルルルル
振り向かなくても分かる、魔獣の唸り声。
挟み撃ちにされていることはスグに理解した。
え
なにこれ…
ストーカー王子と三馬鹿ぁあああああああ!!!!!!!
一気に恨みの心が募る。
ガァアアアアアアアッ
後方からの咆哮
すでに振り返る余裕もない
——終わった——
そう思った瞬間、前方に居る熊の魔獣が怯んだ。
視界の端に銀色の何かが過ぎ去ったかと思ったら、熊の魔獣に襲いかかる
喉元に噛みつき、少し蠢いた後、動かなくなる熊の魔獣。
勝負はほぼ一瞬だったけれど、私の現状はほぼ変わっていない。
より強い魔獣の餌になるだけの話だ。
だけど——
恐怖より、惹かれた
口元にある赤ですら、ただのアクセントのように
美しい銀の毛皮を纏う、狼のようで狼より大きな魔獣。
その立ち姿は神々しく、光り輝いているようで
「—綺麗—」
ポツリと、呟く。
それを聞き取ったかのように、大きい狼はピクリと身体を揺らし、ゆっくりと振り向いた。
その狼のような魔獣が持つ美しい金の瞳に吸い込まれそうになる。
ゆっくりと、狼が私に近づこうとするが、私は魅入られたように動けない。
一歩、一歩。
距離を縮め、そして……私の前で、伏せた。
…伏…え?
パーティの後から今に到るまで、色々なことがありすぎて、その情報量からすでに頭がパンクしそうだ。
何でこの狼は私の前で伏せって居るんだろう。
餌の前で伏せる儀式でもあるんだろうか。
そんな意味の分からない思考がよぎった時、更にパニックになる事態が私を襲う。
「…怪我はないか?」
低い響くような心地いいテノールの美しい声。
周囲に人はおらず、狼の口が言葉に合わせて動いたのを、なんとか頭で理解した。
つまり…狼が喋ったのだ。
それが意味するところは、このアズール国にはいない獣人という存在を示していることになる。
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