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「あ、アンヌ嬢! 今日はおめでとう」

 初めてこの目で見るブリジット嬢の姿。
 正面から見れば、見事なマーメイドドレスで自身のスタイルを引きだたせている。首元には豪華なパールのネックレス。二の腕は細かいレースと花で彩られており、髪も白いバラとパールで飾られている。
 そして、後ろから見れば、素晴らしい程に細かい刺繍とリボンで飾られたロングトレーンドレスなのだ。侍女もおらず、どうやって一人移動したのだろうと思うのだけれど、そこはクレシー侯爵とジャンが何とかしたのだろう。
 確かに、ここまで凝ったドレスを着たブリジット嬢と並べば、どちらが新婦なのか分からない。というか、私の方が地味すぎる。
 流石に、こうもされると、怒りや呆れすら通り越してしまう。

「……どういうつもりですか」
「どういうつもりって?」

 もぅ、そんな事はさておき状態だ。
 とりあえず現状に対して抗議をしているという事実を残す為に、私は単刀直入に問うたのだが、ブリジット嬢は首を傾げ、何を言っているのか分からないといった状態だ。
 とぼけているのか、世間を全く知らないのか。クレシー侯爵が望みを叶えすぎている所を見れば、確実に後者だろうけれど。

「まぁ良いじゃないか」

 ブリジット嬢に腕を組まれながらヘラヘラと笑ってクレシー侯爵は言う。
 その言葉にいち早く反応したのは、お父様だ。

「何が良いと言うんだ?」

 鋭く反論するお父様は珍しい。
 そのせいか、クレシー侯爵の肩がビクリと上がる。けれど、ブリジット嬢は、そんなクレシー侯爵に全く気が付く事なく、腕をひいて扉の方へ行く。

「ブリジット嬢」

 短く、鋭く、声を上げて名前を呼ぶ。
 これが最後通告と言わんばかりに。
 けれど、そんなのに気が付くブリジット嬢ではない。隣に居るクレシー侯爵は身体を小さく震わせているというのに。

「お父様が良いと言うのだから、私がバージンロードを歩いても良いでしょう? 侯爵と子爵、どちらの家格が上かしら?」

 結局、それか。
 自分自身ではなく、親……否、家の力でしか何事も図れないのか。
 ブリジット嬢は、それだけ言うと私達へ振り返る事もなく、神官見習いの子達に扉を開けろと言い放った。
 子爵と侯爵……その言葉だけで、神官見習いの子達は、侯爵を伴った令嬢の言う事を聞くべきだと判断したようで、すぐさま扉を開けた。

「……契約書、覚えておいでですよね」

 呟いたお父様の言葉に、慌てて振り返ろうとしたクレシー侯爵だが、ブリジットに腕を引かれ、そのまま会場に入って行った。

「帰りましょうか」

 ざわつく会場。
 しかし、それを見届ける気も、最後を知る気もなく、私達は邸へと帰った。勿論、クレシー侯爵の家に行く事はない。
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