よくある令嬢転生だと思ったら

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「さあお嬢様はお食事にされますか？」
ソレイユが出て行って、ナーサは乱れたベッドを整えてエルシャールに改めて謝罪をした後、そう言ってエルシャールに声を掛けた。
言われてからエルシャールは自分が何も食べていない事を思い出すと、途端に空腹感を感じる。

（そういえば、ここに来てから何も食べてない……）

「お願いします」
「持ってくるのですこしお待ち下さいね」

ナーサはそう言って、エルシャールにコップを渡してから部屋を出ていく。
その背中を背中を見送ってからエルシャールは、転生してからエルシャールの身に起こった怒涛のイベントだらけの一日を振り返る。

（姉でありながら妹に虐められる令嬢に転生したと思ったら……ソレイユが現れて……何故か彼のお屋敷に置かれることになった。起きたら賑やかな朝で……今はこんなに穏やかなお昼を過ごしてる）

言葉にするだけでも展開の速さに驚きつつ、エルシャールは窓から差し込んでくる日の眩しさに目を眇めた。

（こんなに静かなお昼の時間をすごす事があるなんて……）

エルシャールは暗闇で見つけた本の中に書かれていたエルシャールの一日と、紘子としての一日の両方を思い出しながら物思いにふける。

どちらの人生も、誰かの怒声で起床し、昼間は休む暇もなく働かされた。休む暇があれば暴力と言う名の折檻をうけ、夜は残飯をかすめてお腹を満たす。
そんな惨めで仕方ない人生から一転。
柔らかいベッドで１日眠った身体は信じられない程軽く、新しい傷をつけられなかった日は初めてのようだった。

ソレイユが身体を動かすだけで痛むエルシャールの身体が必要と言うのであればエルシャールはどんなことでもするつもりだった。

理由がわからない転生に、知っているはずの全然知らない世界に飛ばされた。
自分ではどうしようも出来ない事態に巻き込まれる運命を受け入れたエルシャールにとって、生き残るという目的はエルシャールの過去を断片的に見た事で、次第にエルシャールに課された宿命を変える事に目的が変わりつつあった。