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サシェは小さな村でひとり暮している孤児でした。
父の暴力から逃げるようにこの村に現れた母は随分と衰弱していて、サシェを産んですぐに亡くなりました。

村の人々はサシェをどうするか3日話し合い、あまりにも美しい顔立ちから、神様への捧げ物として育てる事にしました。
この子供を気に入った暁には村がもっと繁栄するかもしれないと、下心があったのです。

それからサシェは供物の意味を持つ名をつけられて、村の外れで育てられる事になりました。

最初こそ遠巻きに扱われていましたが、歩くようになるとサシェは村の用事を朝から晩までこなす事になりました。

地頭がいいのか、教えられる事全てをこなすサシェを疎ましく思った女達に食事を抜かれたりと嫌がらせを受けるようになったのです。

親がサシェを好きに扱っているのをみて、子供も「みなしご!」「穀潰し!」とサシェを虐めて嘲笑うのです。

サシェは毎日泥に塗れて少ない食事を食べ、また朝早くから仕事をする生活を送っていました。

そんなある日の事、神に嫁げと村長に言われたサシェは身綺麗にされた後村から放り出されました。

私は捨てられた。
サシェはすぐに理解をして、腹いせに頭に乗せられた綿帽子を取りその場に捨てました。

山頂の家はサシェの目には見えないほど遠く、一歩筋が薄く続いた道をサシェは登り始めました。

どうせ逃げた所でサシェをみつけた村人に連れ戻されるか、殺されるならば、何もしていないサシェがどうしてこんな目に遭う事になったのか文句も一つでも言ってやろうと、神様に会いに行く事にしたのです。

山頂には本当に家があり、サシェはおどろきました。
門戸を叩いてみるとまさか神様が出てくると思わなかったのです。

会って間もないながら、サシェはこの神様が人のいい神様である事に気がついていました。


「………私は要りませんか?」

サシェは神様が嫌いそうな言葉をあえて選び尋ねました。

「うーん、そうきたか。」

やはり、神様はサシェを困った子を見る瞳でみつめ、軽薄な笑みを浮かべました。

「神様も要らないと言うのでしょう、?」

村に捨てられた事を示せば神様はここに置いてくれるのではないか。
そんな淡い期待を抱いてサシェは神様をじっと見上げていました。

長い長い沈黙が落ちました。



「…大きくなったらまたおいで」

神様はそう言ってサシェの頭を撫でました。
それは神様からの断りの言葉だと気づいたサシェは慌てて縋ります。
村に戻りたくなかったのです。

「今、と言っても?」
サシェの顔に思うところがあった神様でしたが、気持ちは揺るがない物でした。
サシェの肩を掴んで向きをかえると、とん、とサシェの背をたたきました。
慌ててサシェが後ろを振り返ってみても、屋敷はおろか神様も見えなくなっていてただ山が広がっているだけでした。


「……帰り方は導いてあげるから」

神様の声が風に乗って聞こえます。
サシェはしばらくその場に佇んでいましたが、諦めて村に帰ることにしました。
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