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ここの庭は代々皇后が大切に守ってきた白薔薇が咲き誇る美しい庭だった。
「例え陛下であってもこの薔薇を手折る事は許されていないのに」
ジェニエルはオリヴィアの髪に差し込まれていた白薔薇が手折られたであろう場所を見つけて一人呟いた。
上皇后から唯一許された皇后、ジェニエルだけに所有を許された大切に守っていた領域を荒らされた事に怒りよりも悲しみが押し寄せる。
この庭がどれほど大切な場所か知っているはずのセオドールがオリヴィアにせがまれたのだとしても簡単に許せるものではなかった。
「今日の午後の予定を1時間ほど送らせたいと伝言を頼んでもいいかしら?」
「わかりました皇后陛下」
小さくお辞儀をしたメイラードがエレナを伴って居なくなると、ジェニエルは溜息をついてから手折られた白薔薇の傍に寄ると辺りを見渡してから口づけを落とした。
ほわりと、仄かな灯りが灯って、無理矢理おられた枝が修正されると、ジェニエルはほっとしたような表情を浮かべて崩れ落ちるようにして倒れそうになった。
「大丈夫ですか、皇后陛下」
「……ゼツィオード様どうしてここに?」
ジェニエルが地面に倒れかけた所に現れ、彼女の身体を支えたのはゼツィオードだった。
彼はセオドールの叔父で、前国王の年の離れた弟だった。
王位継承を早々に捨て今は王宮から離れた場所で暮らす彼は、国内を飛び回っている忙しい人だった。
こちらに戻ってくることは聞いてはいたものの、ジェニエルが思うより随分早く表れたゼツィオードは自分の名前に様をつけるジェニエルに苦笑いを零してから王宮に現れた理由を話した。
「何やら嫌な噂を耳にしたので、馬を走らせてきました……またひとりで力を使ったのですか?」
「お恥ずかしい所をお見せしました」
支えるようにしてベンチに座ったジェニエルの前に跪いてゼツィオードが尋ねると、ジェニエルは謝罪だけして否定も肯定もしなかった。
「薔薇の為に力を使うとは、貴方は本当に……」
「私にとってこの薔薇達は私の命以上ですわ」
ゼツィオードがひとり言のように呟くと、顔色を死人のように白くしたジェニエルは彼の言葉を否定した。
今は亡き、上皇后からセオドールと共に任せられた白薔薇の内庭。
国の国花でもある薔薇を守る事は、ジェニエルにとって国を守る事に等しかった。
「例え陛下であってもこの薔薇を手折る事は許されていないのに」
ジェニエルはオリヴィアの髪に差し込まれていた白薔薇が手折られたであろう場所を見つけて一人呟いた。
上皇后から唯一許された皇后、ジェニエルだけに所有を許された大切に守っていた領域を荒らされた事に怒りよりも悲しみが押し寄せる。
この庭がどれほど大切な場所か知っているはずのセオドールがオリヴィアにせがまれたのだとしても簡単に許せるものではなかった。
「今日の午後の予定を1時間ほど送らせたいと伝言を頼んでもいいかしら?」
「わかりました皇后陛下」
小さくお辞儀をしたメイラードがエレナを伴って居なくなると、ジェニエルは溜息をついてから手折られた白薔薇の傍に寄ると辺りを見渡してから口づけを落とした。
ほわりと、仄かな灯りが灯って、無理矢理おられた枝が修正されると、ジェニエルはほっとしたような表情を浮かべて崩れ落ちるようにして倒れそうになった。
「大丈夫ですか、皇后陛下」
「……ゼツィオード様どうしてここに?」
ジェニエルが地面に倒れかけた所に現れ、彼女の身体を支えたのはゼツィオードだった。
彼はセオドールの叔父で、前国王の年の離れた弟だった。
王位継承を早々に捨て今は王宮から離れた場所で暮らす彼は、国内を飛び回っている忙しい人だった。
こちらに戻ってくることは聞いてはいたものの、ジェニエルが思うより随分早く表れたゼツィオードは自分の名前に様をつけるジェニエルに苦笑いを零してから王宮に現れた理由を話した。
「何やら嫌な噂を耳にしたので、馬を走らせてきました……またひとりで力を使ったのですか?」
「お恥ずかしい所をお見せしました」
支えるようにしてベンチに座ったジェニエルの前に跪いてゼツィオードが尋ねると、ジェニエルは謝罪だけして否定も肯定もしなかった。
「薔薇の為に力を使うとは、貴方は本当に……」
「私にとってこの薔薇達は私の命以上ですわ」
ゼツィオードがひとり言のように呟くと、顔色を死人のように白くしたジェニエルは彼の言葉を否定した。
今は亡き、上皇后からセオドールと共に任せられた白薔薇の内庭。
国の国花でもある薔薇を守る事は、ジェニエルにとって国を守る事に等しかった。
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