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「これはクロディクスも喜ぶだろうな」

ハンカチを広げて、ヴァイスはしみじみと呟いた。

「どうしてクロディクス様だと……?」
「誰が見てもわかるさ、イニシャルにダフニーの花、それからこれは……矢か?どうしてこれを?」

イニシャルに刺さった一本の矢は一見するとわかりにくい色で刺されていたが、ヴァイスは目ざとく気が付いたようでミシャルは問いかけられてすぐには答えられなかった。

「クロディクスは書庫に居る。それを持って一緒に行こう」

答えないミシャルに何かを悟ったのか、ヴァイスはそう言うと尋ねてきた要件を言わずにミシャルを誘った。
その口調は優しいものの嫌とは言えない空気にミシャルは差し出されたハンカチを受け取ってヴァイスの後をついて行くしかなかった。


「おい、ミシャルを連れて来たぞ」
「入ってくれ」

ミシャルが書庫に入ると、そこは初めて入った時と違って雑然としていた。
強盗に遭ったのかと思うほどあらゆるところに本や紙が投げ出されていてクロディクスは立ったまま分厚い本を広げてミシャルを出迎えた。

「適当に腰かけてくれ」

クロディクスが指を振ると魔法によって本達が自動で書庫に戻っていく。
その不思議で神秘的な様子を口を開けたまま入口近くで見ているだけだったミシャルはクロディクスのすすめるがまま一番近くにあった椅子に腰を掛けた。

「ミシャルと話があると言って出て行ったのにそのミシャルを連れて戻って来るとは……どうした風の吹き回しだ?」
「いや……な。ミシャルが君にプレゼントを用意していたようだから連れて来たんだ」

まるで行進のように本があるべきところに収まっていく所に気を取られていたミシャルは話しかけられて自分がヴァイスに連れてこられた事を思い出した。

「プレゼント?」
「そうだ、ミシャル嬢!見せてやってくれ」

ヴァイスを止める間もなく進んでしまった会話の流れでミシャルは握りしめたままのハンカチをクロディクスに差し出すほかなくなった。
躊躇いがちに手中のハンカチを見せるミシャルにクロディクスは驚きに目を見開いた。

「これは……」
「見事だろう?一目見ただけで君だとわかる」

ヴァイスはそう言ってミシャルに微笑みかける。
その笑顔が何か、含みを持っているとはしらず、ミシャルは純粋に頬を染めて褒められた事に舞い上がっていた。
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