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「ミシャル様、本日のご夕飯はクロディクス様が共にと申されております」

扉をノックしてからミシャルに招き入れられたリュークがまだ扉を掴んだままのミシャルに告げた。
ぽかん、とミシャルはリュークの言葉に口を開いてまじまじとリュークを見つめている。

自分と食事を望んでいると聞かされて驚いたと同時に困惑をしていた。

「えっと、クロディクス様が私と食事を?」

屋敷に置いてもらえると決まっただけで満足していたミシャルにとって、クロディクスが食事を共にすると言うとは微塵も思っていなかったミシャルはリュークの言葉が信じられないでいた。

今まで誰かと食事をとった記憶もないミシャルには自分のテーブルマナーが人にどんな風にうつるのかも想像ができない。
誰かと比べることも教育を受けたこともないミシャルは本の世界に載っている言葉を想像して実行するしか学ぶ手段がなかった。
それに、家族は常々食事は好意のあるもの意外と取りたくないとミシャル自身を遠ざける事をよく言っていた。

人に好かれた記憶が生まれた時からないミシャルにとって食事を共にしたいというクロディクスの言葉が考えれば考えるほどリュークの冗談ではないかと感じていた。

「はい、ミシャル様と是非にと。ミシャル様の食べたいものを用意するように仰せつかっております」

リュークはミシャルが喜ぶだろうと思って告げた言葉に困惑した表情で返されて、戸惑っていた。
よからぬ噂が飛び交っているクロディクスであるが、社交に出れば話は変わる。

この国でクロディクス以上の美貌と知識を持つ男はいないとリュークの贔屓目なしにいえるほどのスペックと、老若男女問わず人気を持つクロディクスからの申し入れである。
喜びこそすれ、困ったような表情をされるとは想像もしていなかったリュークは、ミシャルが何か面白い生き物のように思えて仕方なかった。

「食べたいもの…ですか」

リュークの言葉をひとまず受けれてから、ミシャルは食事の内容を考えることにした。
食べたいものと聞かれてもミシャルには好き嫌いを言える環境ではなかった影響で、口に出来るものであればなんでも食べることが出来る自信があった。
好みなど考えてしまえばとっくにこの世からいなくなっていてもおかしくない環境にいたミシャルは食べたいものと言われても何一つ料理名が思い浮かばない。

「特にご指定がないのであればこちらでご用意します」

長いこと考えていたミシャルにリュークはしびれを切らしたように告げたが、ミシャルにとっては願ってもない助け舟だった。

「本当ですか!ありがとうございます、リューク様!」

想像とは真逆の反応にリュークは驚きを隠せないまま、請け負って部屋を退室することにした。
今まで出会ったことのないミシャルの令嬢らしくない反応はリュークの目には好ましく映って、少しミシャルを信用してもいいかもしれないと、考えながら夕食を作る事にした。
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