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「あの子は随分不遇な生活をしていたようだぞ」

リュークが現れるまで烏と会話していたクロディクスはミシャルの境遇を聞き、見窄らしい格好をしていたミシャルに納得した。
烏によるミシャルの境遇は姿からも分かるほどにひどい扱いだった。
身体に傷をつけ、継ぎはぎだらけのドレスを着ていたミシャルがなぜそんな目に合うのかクロディクスは疑問に思いつつ聞いていた。

だが、それだけだった。
ミシャル以上に不幸な者はいるのだからとミシャルの境遇には全くクロディクスは興味を持たないで、本題を探るように烏に伝えた。

そんな矢先にリュークが現れ、場をかき乱した彼に嫌がらせのような夕食の準備を命じたクロディクスは1人物思いに耽る。

なぜミシャルがクロディクスの結界を通り抜ける事が出来たのか。

クロディクスの結界は条件の対象以外を通さない物だった。
たとえ神であっても条件から一つでも外れるものなら通る事は出来ないほど強力な結界の筈だっだ。

ミシャルが通り抜けてみせたこの時までは。

この屋敷に仕掛けた結界の条件は2つ。

一、呪いをもつものであること。
一、クロディクスに害をなさないということ。

つまり、この結界を通り抜けた時点でミシャルは呪いをかけられていて困ってここに来たのかとクロディクスは当たりをつけていたのだが、ミシャル自身は呪いをうけた形跡もなければ、困っている様子もないようだった。

ただ、人生に絶望して死を望む令嬢でしかなかった。

結界自体に綻びがあるのかと、クロディクスは一度結界を検分してみたが、問題は何ひとつ見つからなかった。
屋敷を覆う結界には誰かが通った痕もなければ、通り抜けた後に結界を繕った形跡もなかった。

そうなってくると答えはたった一つ、ミシャル自身が知らない間に呪いを受けている事になる。
だが、クロディクスの目に見える範囲では呪いの残滓を感じる事も出来なかった。
いつ死んでもおかしくないほど疲弊はしているものの、呪いは大なり小なり受けた者に負の要素を付加する性質があったが、ミシャルにはその様子がまったく見受けれなかった。

クロディクスの力を持ってしてもわからない、呪いを持っているのかはたまた別の力を持っているのか。

平凡な貧しい思いをしてきた令嬢にしか見えないミシャルにクロディクスはますます興味を抱いた。

もしや、この身を不死に追いやった呪いを解く手掛かりになるのではないかと、クロディクスはミシャルに期待をしていた。

胸に刺さる呪いの塊でもある弓矢はクロディクス以外に見える者は今までいなかった。
矢を見る事が出来る者がこの矢を抜けるのであれば、クロディクスはこの世から解放されて死ぬ事が出来る。

長年の願いが叶うかも知れない。
突然降って沸いた僥倖にクロディクスは頬を緩め、深くソファーに身を沈めた。

耳につけた飾りが音を立てて揺れる。

なにはともあれ、まずはミシャルの力を見極めるねばならなかった。
時間は掛かってもクロディクスには無限に時間はありあまっていた。
あの子がこちらに気を許して秘密の一つや二つを話してもらうのを待つか、ミシャル自身を隅々まで検分させて貰うのを待つか。

どちらにしてもクロディクスはミシャルを当分の間そばに置く事を決めていた。

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