デカルトはオカルトを証明したい

甘糖むい

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幸せになれる水族館

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デカルトをご存じだろうか。
ルネ・デカルト(仏: René Descartes、1596年3月31日 - 1650年2月11日)は、フランス生まれの哲学者、数学者。合理主義哲学の祖であり、近世哲学の祖として知られ、中でも彼が残した命題「我思う、ゆえに我あり」は哲学を語るうえで最も有名な命題の一つである。

その彼――デカルトの再来と呼ばれる男、それが倫理学者でありながら論文の命題は常に倫理と真逆のオカルト話を選ぶ変わり者、芦屋鴎外。
人は皆、彼を変わり者のデカルトとそう呼ぶ。

♢♢♢

横浜の閑静な住宅街を抜け、緩やかな坂道を登ること約40分。
視界が開けた先に、その家は静かに佇んでいた。
大正時代に建てられた洋館。
今では数少なくなったその独特な建築は、周囲の近代的な住宅街とまるで異質な空気を漂わせている。
重厚な木の扉に、蔦が絡む古びた外壁は赤かったレンガが煤で黒く色を変えている。
まるで100年ほど前の時空からその家だけ、飛び出してきたかのようだった。

そこには、平岡鶴戸の取材相手でもある一人の男が暮らしていた。

――芦屋鴎外。

倫理学者としての肩書を持ちながら、彼が取り上げる研究テーマは常に倫理とは真逆の「オカルト」だった。
揺れる家に住む幽霊、神秘の森の妖精、呪われた帽子
常識的な学者であれば避けるような題材ばかりを彼は徹底的に研究し、そのすべてが「存在しない」と結論づけられて終わるオカルトマニアの敵ともいえる論文を取り扱う変人。
それが芦屋鴎外だった。

奇妙なのは、それでも彼の研究がオカルト界隈で高く評価されていることだった。
彼の名前が雑誌に掲載されると、その雑誌は必ずと言っていいほど増版される。
学会でもオカルト愛好家たちの間でも、彼は熱烈に支持をえる有名人だった。

その理由はただ一つ
芦屋鴎外自身が「自他ともに認めるオカルトマニア」だったからだ。
彼の論文は、奇妙な現象や物語の背景を徹底的に調べ上げたうえで、時に愛情を込めるような筆致で書かれていた。
その熱量と説得力は他の人達とは一線を画すほど的確で美しい。

「オカルトを語る上で芦屋鴎外を避けることはできない」。
そんな評判がつくほど、彼は界隈で知名度を誇る存在だった。

しかし同時に、彼の姿勢や発言は風変わりすぎるとして皮肉を込められることも多く、界隈では彼をこう呼ぶ者も多かった。
「変わり者のデカルト」
哲学者デカルトのような冷徹な論理を持ちながら、その情熱は常にオカルトに向けられている男。

その芦屋鴎外の密着記事を書く。
それが新人編集者・平岡鶴戸に突然課せられた仕事だった。
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