旦那様、最後に一言よろしいでしょうか？

11

「何よ！いい子ぶって！」
シェリーは声を荒げるとエラリアを心配するライドとエラリア両方に罵声を投げつけた。
その大声にザルノスは我に返るとすぐに怒りに顔を真っ赤に染めた。
「何をしようとしてた！」
ザルノスはシェリーに負けない大声を出してエレノアを怒鳴りつけた。
そんなザルノスに驚いたのはエレノアもシェリーも同じだった。
普段からシェリーを怒鳴りつけるザルノスがエレノアに同じことをした。
その衝撃は凄まじいもので、シェリーはみるみるうちに涙を零しはじめる。
噓泣きだわ。と、エレノアが思うよりも早くザルノスの怒声がまた響く。
「そんなものが通用すると思ってるのか！」
いつも猫かわいがりするザルノスが言ったのかと驚いたエレノアはザルノスを凝視した。
父親と言う皮を被った偽物かもしれない。
そんな思いを抱いたのはシェリーも同じだったらしい。
嘘泣きをしようとしていた事も忘れて、ザルノスをぽかんと見つめていた。
「お父様が私に…？」
エレノアが驚くよりもさらに衝撃的だったとわかる声音でシェリーは独り言のように怒鳴られた事を何度も呟く。
その姿はさながら亡霊の様でライドは突然始まった親子げんかに戸惑っている様子だった。
「申し訳ございませんライド様…」
「いえ。問題ありませんよエレノア嬢。頬は大丈夫ですか？」
二コリ。
そう音が付きそうなほど貼り付けられた笑顔と相反するようなエレノアを心配する声。
人生の殆どを罵倒と蔑みで過ごしたエレノアにとってライドの優しさは喜びよりも戸惑いの方が強く、差しだされた手を無意識で避けてしまった。
「あっ、ごめんなさい」
「いいえ、驚かせてしまいましたね」
怒られてしまうだろうかと怖がるエレノアにライドは優しい笑顔を向ける。
そんなライドの態度にシェリーはエレノアをにらむ。
どちらも離れてほしい。
そうエレノアが思った時だった。
「まだ居座るつもりか！」
シェリーの肩を掴み、ザルノスは広間に響く大声をだすと彼女を押しだそうとした。
それに対してシェリーはザルノスを信じられない物を見る目で見た後、わっと大声を上げて広間から駆け出して行った。
「お母様に言いつけてやるんだから！」
そんな陳腐な捨て台詞と共に。