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エラリアがお茶会から帰ると、家の前に1台の見慣れない馬車が止まっていた。
「お父様のお知り合いかしら?」
馬が一匹しか繋がれていない小さな馬車に近づいてみても、エラリアには相手が誰か見当もつかなかった。
子爵以上の馬車であれば家名を表すイニシャルか紋章が入っている事もあって、エラリアは急ぎ足で屋敷の中に戻ろうと足を速めた。
「失礼、レディ」
馬車を通り過ぎてすぐ、エラリアの背中に声が掛かった。
年若い男の声に不審に思いながら振り返ったエラリアに男は小さく一礼すると言葉をつづけた。
「ここのお屋敷はタウンゼント侯爵家で間違っていませんか?」
問われてエラリアは自分の屋敷を見上げた。
お世辞にも綺麗とは言い難い門柱といい、手入れがされていない蔦や草だらけの庭といい人が住んでいるかも怪しい状態の我が家を客観的に分析するとエラリアは彼が尋ねるのも無理はないかと納得した表情を浮かべた。
「ええ、何かご用がおありですか?」
男に向きなおり、エラリアはようやくそこで男を視界に捉えた。
日に照らされて輝く少しウェーブがかったシルバーブロンド。
二重幅の切れ長い瞳から覗く青い瞳。
高い鼻筋から伸びる影に隠れるようにして厚めの唇が動くのをエラリアは茫然と見つめる。

――ライド・ギールグッド
先程お茶会で聞いていた特徴そのものの人物が突然現れた事でエラリアはぴたりと動きを止めて男を見上げていた。
「…レディ?聞いてらっしゃいますか?」
「え、ええ。」
「では、タウンゼント家当主にお会いできるのでしょうか?」
突然現れたライドに驚いていたエラリアはライドが何を言っているのか理解できていなかった。
今更聞き返す事も出来ずに話を合わせたエラリアにライドは詰め寄る勢いで言葉を重ねる。
「えっと、ご用をお伺いしても?」
「タウンゼント家の長女であられるエラリア嬢にお話があるのです」
まさか自分に用があってきたとは思っていなかったエラリアは突然呼ばれた自分の名前に目を見開いて驚いた。
貴族社会で時の人として扱われるライドが崖っぷちにいるエラリアにどんな話があるのか。
男爵家ではありながらも貴族のマナーを知らない男の不躾なアポイントの取り方に怒りよりも興味を惹かれてエラリアはライドを室内に案内することにした。

「中で詳しくお伺いいたします。どうぞこちらに」
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