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今日もダンスホールは

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 ここは富裕層の淑女だけが集まるダンスホール。
 夜な夜なこのホールは男女の秘密の恋が繰り広げられるーー。



ーーーーーーーーー

『皆様、ラストワルツの時間になります。名残惜しいですが、今宵の最後のパートナーをお決め下さい』

 司会の浮ついた声を合図にホールに溢れかえった人間は我先にと自分がラストワルツを踊るパートナーに声をかける。

「ロイ様。私とラストワルツを」
「いえ、私と」
「違うわ。私よ」
「何言ってるの! 私に決まっているじゃない」
「あなたはさっき踊ったじゃない!」

 ロイの目の前に差し出された手は5つ。
 これでもいつもより少ない方だった。
 ロイは少し悩んだ振りをしてから5人の中で背筋が真っ直ぐ伸びた女性に手を取った。

「マダム。私と踊ってくれませんか?」

 手を取ったマダムは頬を赤く染め、まるで生娘のように恥じらう。
 もうそんな歳ではないだろう。とロイは心の中で呟いた。

「他の皆様、大変申し訳ありません。次の機会に」

 選ばれなかった他の4名の女性達は残念そうな顔をしながらすぐさま別のパートナーを探しにいく。
 ラストワルツであぶれることはしたくないのだろう。
 散り散りに探しにいく女性をロイは見送った。

「ロイ様…。なぜ私を選んだのですか?」
「貴女が一際美しかったからですよ」
「まあ」

 本当は1番背筋が伸びてて一緒に踊ってても疲れにくそうなのが彼女だったからなのだが、そんなことは言う必要もない。
 嬉しそうに笑うマダムをロイは見つめていた時、背後に気配を感じた。
 後ろを振り返ると、金髪を左右に分けた青年がロイと背中合わせになるように並んでいる。

「レディ。そろそろ音楽が鳴ります。準備はよろしいですか?」

 金髪の青年はラストワルツの相手とにこやかに話している。
 ちらりと相手を見るとこれはなかなか動きにくそうなホール慣れしていないレディを相手に選んだようだ。

「……下手糞」
「ロイ様? なにか言いましたか?」
「いえ。ほら、音楽が鳴ります」

 マダムの気をそらす。
 ホールはほとんどの人間がラストワルツの相手を決め、音楽を今か今かと待っている。

『皆様。ラストワルツの相手はお決まりでしょうか? では、音楽を』

 頃合をみた司会の合図でオーソドックスな三拍子のリズムがなる。
 ロイは手を広げマダムを向かい入れる。
 その後ろで、金髪の青年もレディを向かい入れているのを横目でみる。
 
 マダムがロイの懐に入り、手を握る。そしてロイは左足を出した。
 ほぼほぼ金髪の青年と同じタイミングで出たことに気がついたのは誰もいないだろう。
 基本的なワルツのステップを踏み、音楽が鳴り終わるまで踊り続ける。 
 
 ここに来る淑女に夢を与えるのがロイの仕事だった。


ーーーーー

「では、またお会いしましょう。マダム」
「ええ。とても楽しかったわロイ」

 上機嫌で帰るマダムをロイはにこやかな笑みで見送った。  
 長話に付き合わされてもう見送りをしていたのはロイしかいない。
 クタクタになり、シャワーを浴びたいとロイは自室に戻った。
 そのベットにはロイの自室のはずなのにベットの上に1人。あのロイの背後で踊ってた金髪の青年がいる。
 すでにシャワーを浴び終え、左右に固く固められた髪は本来の癖毛が揺れている。

「随分時間がかかったじゃないか」
「……うるせぇ」

 皮肉げに笑う影をロイは蝶ネクタイを外しながらそれを無造作に椅子に投げた。
 
「お前こそなんでいるんだ。家に帰れ」
「恋人にむかって酷い言い草だな」
「恋人じゃねえ」
「恋人さ。俺が決めたからな」
「……っ」

 ベッドから降りてロイの腰を抱く。
 それだけで腰が揺れるのが嫌だった。
 1ヶ月でここまで自分が変わってしまうことも。

「……ワムナール」
「なんだい? ロイ」
 
 ロイが名を呼んだことに青年ーー、ワムナールが嬉しそうに笑みを零す。
 そのまま深い口付けをワムナールがするのをロイはただ受け入れる。
 ロイより慣れているのが無性に腹が立つ。

「んっ……、や、め…」
「なぜだ?」
「シャワー、浴びてない」
「後でにしよう。俺が洗ってやろう」

  ワムナールのグリーンの瞳はただロイを見つめている。 
 それがロイにとってどれほどの刺激になるのかまだワムナールは分かっていないのだろう。
 それを感じたくなくてロイは瞳を閉じた。

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