死んだ姉の代わりなんて、できるわけが無い ～深窓令嬢嫁と無口夫～

タルド

泣き声

泣いていたラナにマナが声をかける。
なんでもないというラナが心配そうなまな。
そこにタルド
ラナに依存するなと
　そのまま、マナとタルドの初夜は最悪な状態で終わった。
　タルドは泣き喚いた後、そのまま何も言わずに部屋から去り、マナは一人ぼっちで部屋に取り残された。
　どれほどの時間が経ったのか。
　ようやくマナは震えた指で呼び鈴を鳴らした。
　部屋の外に控えていたメイドが現れ、先ほどのマナとタルドの怒鳴り合いを聞いていたからか、控えめにマナに話しかける。

「奥様、湯あみをなさいますか？」
「………ラナは？」
「あの子は、まだ仕事があるので――」
「呼んで、今すぐ」
「ですが」
「いいから！」

　マナは叫ぶようにメイドに言った。
　いつものおとなしいマナではないと察したメイドは、すぐさまラナを呼びに部屋から去っていった。
　ラナが現れたのはそれから少し経った後だった。
　いまだ昼用のメイド服を着ているラナにマナは他のメイドに紅茶を用意させ、ラナを机に座らせる。
　申し訳ない、自分がやるというラナにマナは無理やり椅子に座らせる。
　
「申し訳ありません、仕事が遅くて私」
「ううん、いいの」

　ラナの申し訳なさそうな顔にマナは笑みで返した。　
　ラナはマナの表情をみて尋常ではないと察したらしい。気遣う様にマナに話しかける。

「マナ様、目が腫れております。もしかして、なにかあったんじゃないですか？」
「……大丈夫よ」
「…けど」
「ミアナが何か言っているのかしら？」

　きっとミアナは先ほどのタルドとマナのやり取りを見ていたはずだ。
　ミアナはどれだけ悲しんでいることだろう。
　しかし、ラナの回答は意外なものだった。

「その、ミアナ様いないんです」
「えっ？」
「私がお屋敷から帰ってからミアナ様がいないんです」
「……そう」
「なにか言うことがあるんですか？　なら私」
「ううん、いいの。ごめんなさい」
「いいえ！　マナ様が謝ることではありません」

　勢いよく頭を横に振るラナをマナは見つめた。
　マナはラナの頬を触る。
　子供らしい柔らかな肌だ。
　澄んだヘーゼルの瞳が困惑の視線でマナをみた。
　
「ま、マナ様――？」
「ラナ、貴方はすごく、綺麗ね」
「ええっ！　私なんかより、マナ様の方が何倍も」
「きれいよ、ラナ」
「え、ええぇ！」

　慌てるラナをマナはおかしそうに眺めた。
　本当によく表情が動く子だ。
　初めてこの孤児院であったころはなんて表情のない子だろうと思っていたのに、こうやって子供らしくコロコロと替えるラナを見ていると先ほどの出来事の心の傷が少しずつ癒える気がする。

「ごめんなさいね、ラナ、お仕事中なのにこうやって呼んでしまって」
「いいんです！　私もマナ様に会いたかったのです」
「そう。ねえ、私これから湯あみをするのだけど、ラナ背中流してくれない？」
「はい！」

　ラナの元気な返事に、マナは微笑んだ。