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ラナ

幸せ

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「ラナ、お仕事はどうかしら?」
「とても皆さん良くしてもらってます。お掃除に時間かかっちゃうんですけど」
「そう。無理はしないでね」

 マナはラナの茶色の髪を撫ぜた。
 ラナがこの屋敷にメイドとして雇われ二週間が経とうとしていた。
 魂のミアナはラナが自分の姿が見えることをわかると、ラナつてに自分が伝えたいことをマナやタルドに伝えるようになっていた。
 タルドとの食事は変わらず行われ、それをミアナは嬉しそうに眺めているらしい。
 タルドとの会話も増え、知らない彼の一面も知ることができた。

「ミアナは今ここにいるのかしら?」
「今はいません。おそらく屋敷内を歩き回っているかも」
「ふふっ、ミアナらしいわ」

 ラナ曰くミアナは様々なものに興味深く眺めているらしい。
 マナやタルドのどちらかに着いてくることもあり、先日はマナの髪留めが似合っていないとラナに訴えていたらしい。
 新入りのラナがマナの髪を結う年配のメイドに口答えをできるはずがなかったが。

「じゃあ、私にはどんなものが似合うかしら?」

 マナは持っている髪留めを見せた。
 中には嫁入り前からそろえられていたものもあり数は多い。
 幾分かの沈黙の後、ミアナの答えを聞いたラナが答えた。

「ええっと、しいて言えばこちらの髪留めだけど、マナ様にはもっと似合う物があるって言っています」
「じゃあ、この中にはないのね。たしかに、ミアナの方が似合いそうな髪留めばっかりだもの」

 ピンクや暖色系の色味の髪留めは紺色の髪をしているマナより金髪だったミアナが似合う。
 マナはミアナにそれをつけてあげられないのが残念だった。

「ねえ、ラナ。ミアナはどんな格好をしているの?」
「ええっと、ピンク色のドレスを着ています」
「へえ、ミアナはピンクのドレスが好きだものね」

 美しいミアナには派手なピンクのドレスがとても似合った。
 マナが着ても浮いてしまう派手なドレスを華麗に着こなしていたミアナを思い浮かべた。

「本当にあのタルド様とミアナが歩いている姿は本当に美しかったわ。二人は幼いころからよく会っていて、私もときどきお話に入れてもらった。ミアナがしゃべるのをタルド様は幸せそうに見ていたわ」

 マナはその二人を見るのがなにより好きだった。
 ミアナの喋る姿をタルドは無口ながらもうれしそうに見ている姿がなによりもマナは好きだった。

「わ、私も」

 ラナは遮るようにマナに言う。

「私も、マナ様とお話するの、好きです」

 ラナの真摯な目線と合わさって送られたストレートな言葉にマナは思わず黙った。
 ラナはさらに言葉を続ける。

「その、お名前で呼ぶのを許してもらって、変なものが見える私に優しくしていただけますし、文字も教えてもらっていますし、とても感謝しているんです。マナ様も、旦那様も」
「……ラナ」

 マナはラナの頬を触る。
 興奮して喋ったせいかラナの顔は赤くなっている。

「ありがとう。とてもうれしいわ」
「ほ、本当ですか?」
「ええ。とっても」
「わっ!」

 マナはラナの体を抱きしめた。
 まだ小さいラナの体はマナの腕の中に収まる。

「…ありがとう。ラナ」
「マナ様…」
「貴女がミアナの存在を教えてくれたおかげで私に生きる目的が生まれたわ。タルド様もきっとそう思っているはず」
「本当ですか…?」
「ええ」

 マナはラナの体をさらに強く抱きしめた。
 マナの右肩が濡れている感覚をマナは静かに感じていた。
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