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小屋の前で

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「ここだ」

 案内された老人の小屋を見る。
 漏れ出た小屋の光とユーリの顔を交互に見た。
 
「俺は、何もしらねぇ。だから、あとはこの中にいる爺さんに聞けよ」
「……」
「じゃ、俺は行くからな」
 
 役目は終わったと背を向けるユーリにコルドは後ろから叫ぶ。

「ユーリ」
「……なんだよ?」

 ユーリは振り返る。
 暗がりで表情が見えないユーリにコルドは悩みながら口を開いた。

「その……すまない」
「なんで謝るんだ?」
「……」

 謝ったコルド自身もなぜユーリに謝ったのかわからなかった。
 子供のように立ち尽くすコルドにユーリは小さくため息をつく。

「コルド、お前は、これからどうするんだ?」
「どうって……」
「あんな監禁された状態じゃ、お前は餓死を待つしかないだろう。爺さんから何か言われるかもしれないが……」
「……」

 どうするか。
 確かにユーリの言う通り、あのままではコルドはあの牢屋で飼い殺しされるかもしれなかっただろう。
 マラジュはコルドに何を求め、どうしたいのか読めない今、コルドは自分で行動をしなくてはいけないのだ。
 それでも、コルドが何をしたいか――、

「……俺は、なにもわからない」
「……」
「俺はただ、父と共に歩んでいければよかった。父に手を取られ、一緒に歩んでいければよかったんだ。父が死んだ今、今の人生はただのおまけでしかない。だから、あのまま餓死でもおれはよかったんだ」
「お前が言うならそうなんだろうな。だが」

 ユーリは言葉と言葉の間に少し間を開けた。
 
「お前と一緒にいるの、俺は楽しかったんだ。だから、俺はお前に世話を焼いてきた。お前にとっちゃ有難迷惑だっただろうがな」
「……そんなこと」
「もう少し、お前考えてみろよ。お前はどうしたいのか。どうなりたいのか」

 自分がどうしたいか。初めてそんなことを考えた気がした。
 いままでにとっては父がすべてだった。その父はもういない。だから、その後の人生は何の価値のない。それが今までのコルドだった。
 悩むコルドを慰めるようにユーリは言った。
 
「どうしたいかなんて、わからねぇよな。俺もお前と同じだよ。俺も、血も繋がっていないやつに手を引かれこの城に来た。それからずっとこの城にいる。元の家に帰りたくても、場所なんて覚えちゃいない。自分がどうしたいなんて分からねぇ」

 黙り込むコルドをユーリが抱きしめる。
 ユーリの暖かな体温がコルドに伝わる。
 
「お前は、そうならないでくれよな」
「……ああ」

 ユーリは離れ、再度コルドに背を向けた。
 その後姿がどうも惜しくなり、コルドはユーリにもう一度言う。
 
「ユーリ! その、俺……、普通の人間では、ないんだ」
 
 藪から棒に、とユーリはあきれるだろう。
 だが、振り向いたユーリは違った。
 笑っていた。コルドかおかしいことを言ったのかと不安になる。
 ユーリはコルドの顔をしばらく楽しんだあと、笑いながら言った。

「知っていたよ」

 そう言って、ユーリはコルドの元を去っていった。
 
 
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