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転機

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 「ひ、ぁ、……!」

  服をはぎ取られ、裸体のままコルドに体のすべてをさらけ出しているファルを目にし、コルドは一歩後ずさった。
 ファルはコルドの視界からどうにか逃れようと体をくねらせている。それをマラジュが片手のみで抑えファルの抵抗を無いものにしている。
 服をはぎ取られたファルだが、その首元には首飾りがかけられていた。
 青い、宝石。
 間違いない。
 ファルが首に着けていたのはコルドが無くしていたはずの首飾りだった。

ー-----------------

 ファルが首飾りを付けている。
 それがわかった瞬間、コルドは王の前であることを忘れ脱兎のごとく、ファルに飛び掛かった。
 どんなに探しても見つからなかったあの首飾り、それが今、ファルに汚されているのがコルドは我慢ならなかった。
 首飾りめがけて飛び掛かったコルドの前に、コルドの顔を覆うほどの大きな手が現れた。
 それが誰の手なのか理解する間もなく、コルドの体は床に叩きつけられる。

「――っ!」

 とてつもない力で床に押さえつけられ、コルドは身を捩った。
 指先一つ動かせないほどの巨大な力だ。
 それでもどうにか立ち上がろうと全身に力をこめるが、コルドの体は床に縫い付けられたままだった。

「……う、ぐ……っ…!」
「待て」

 どうにか立ち上がろうとするコルドに先ほどの大きな手がコルドの頭上に翳される。
 その手の主であるマラジュにまた顔を焼かれるのかと思い、恐ろしさからコルドの動きは止まった。
 コルドが落ち着いたと判断したマラジュは手を引っ込ませ、コルドに言った。

「愚かだな。子が親に、民が王に敵うと信じているのか?」
「ッ………!」

 マラジュのあざ笑う声に構っていられる余裕はコルドにはなかった。
 コルドの視線の先は、マラジュではなくファルの首元にある首飾りのみだった。
 コルドは声を絞りだし、マラジュに叫んだ。

「返して、返して……ください!」
「なぜだ?」
「その首飾りは、父のものです!」
「そうだったか?」

 言葉をはぐらかしたマラジュはおかしそうに首飾りを触る。青い宝石がマラジュの手で汚されているように感じ、コルドは叫ぶ。

「返してください!」
「これは、こいつのベッドの中にあったものだ」
「……!!」
 
 マラジュはそう言いながらファルの顔をコルドに向けさせた。
 ファルの顔は赤い。群青の瞳が揺れ、動揺している。
 コルドはマラジュではなくファルに対し言った。

「なぜ、なぜ盗んだのですか!?」

 コルドが多少治療したとしてもファルが言葉を発することはないことはわかっていた。
 問われたファルは唇を固く嚙んでいる。

「多方、この城から逃げる時の資金にするつもりだったのだろうな。こいつはそういう奴だ」

 ファルの顔が歪む。自分の目論見を王に知られた悔しさからだろうか。
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