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墓標

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レベッカとようやく2人になれたのはそれからそれなりの時間が経ったころだった。
レベッカの母親が眠る墓標を眺めながらレベッカはモニカにしか聞こえない声で言った。

「別に、嫌いじゃないのよあの人たちは」
「ええ、とても良い方達でした。身分もない私にも丁寧に接して頂いて」

辺境の地方の領主だってモニカのことは新聞やら何かで知っているだろう。
やろうと思えばモニカをはずかしめることも出来たのに、彼らはモニカに対しての敬意を解くことは無かった。

「…良い方たちでした。本当に」

モニカの言葉にレベッカは黙って頷いた。
 だが、善人だけがこの先の激動の時代を生きていけないことはモニカは『前』の記憶からも分かっていた。
複雑な思いに駆られたモニカの心はレベッカには分かるはずがないだろう。

「お母様もそうだった。お祖母様お爺様のように優しい心を持っていたわ。私が幼い頃に亡くなってしまったけど」
「ええ」
「けどね、私、お母様は生きているような気がするの」

 レベッカの緊張を孕んだ声が今のモニカには不思議なほど耳に馴染んだ。
 モニカの方を振り向いたレベッカの顔は真剣そのものだ。
恐らく、母親が亡くなってから目の前の少女はずっと感じていた感覚だったのだろう。
幼い頃、口にだしたら周囲の人間から否定されてもずっと思っていた思いを意を決してモニカに行ってくれたという思いがモニカにはとても嬉しく思った。

「レベッカ様、私はレベッカ様の味方でいます…、ずっと」

ナッシュから依頼を受けてはや半年が経った。
モニカとレベッカの間には、依頼を超えた感情があることを両者は理解していた。
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