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第3章:南海の決闘

第188話:島のこれから

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「そのようなことでしたら是非ともおまかせください」

 フローラが柔らかな笑みを返す。

「我が国きっての銘酒をご用意させていただきます」

「そうこなくちゃね!」

「他に何かご要望はございませんか?僭越ながら申し上げますと私は国の政策に対して微力ではありますが影響を及ぼすことも可能だと自負しております」

 イリスがフローラの顔を見つめた。

 相変わらずフローラの顔からはなんの意図も読み取れない。

 やがてイリスは肩をすくめながら頭を横に振った。

「うーん……とりあえずは良いかな」

「よろしいのですか?国内のことでしたら多少なりとも貴女あなたの望みを実現させるよう尽力させていただきますが……」

「こう見えてあたしは今の環境に結構満足してるんでね。それにあたしの願いに関してはもう先約がいるんだ」

 イリスがルークの頭を抱えるように肩を組んだ。

「そうなのですね」

 フローラがほほ笑む。

「それではこれ以上の慫慂しょうようはかえって失礼というものでしょう。心惜しくはありますが今は引き下がらせていただきます」

 軽く頭を下げるとフローラはルークの方を向いた。

「申し訳ありませんが今後の処理のために一旦戻らせていただきます。私はしばらく碧蒼宮へきそうきゅうに滞在していますので、ルークもこちらが落ち着いたら是非いらしてくださいな」

「わかりました、フローラ様もお気をつけて。僕にできることがあれば何でも言ってください」

「ありがとうございます。期待していますね」

 フローラは微笑むとバルバッサの方に頭を下げた。

「バーランジー様、お久しぶりにお会いできて光栄です。挨拶の遅れたご無礼をお許しください」

「こちらこそこうして再びまみえたこと誠に重畳。変わりないようで安心したぞ」

 バルバッサはフローラと挨拶を交わすとちらりとルークの方を見た。

其方そなたが来なかったことを懸念していたが、あの者をここに遣わしたのはこれが理由だったというわけか。相変わらず空恐ろしい御仁だな」

「とんでもございません。やむにやまれぬ所用でどうしても離れるわけにはいかなかった故、彼の者を代理として赴かせたのですがまさかこのような事態になるとは」

 にこやかに会話を弾ませる2人だったが言葉の端々に交渉の応酬が含まれている。

「して、例の件に関しては……」

「申し訳ありません、事態が事態ですのでまた日を改めてということでお願いできないでしょうか」

 フローラの言葉にバルバッサが頷く。

「うむ、こちらとしても其方らがあのお方と所縁あると知った以上対応を改める必要がある。しかし今回の件はこちらとしても望外の結果であった。やはり其方との協働は間違いではなかったようだ。それではまたの再会を楽しみにしているぞ」

 バルバッサはそう言うとイリスの前で再び膝をついた。

「女神様、誠に申し訳ございませんが今はこれにて失礼いたします。本来であれば我が領地をあげておもてなしするのですが恥ずかしながら今は反逆者共によって混乱をきたしており、とても女神様をお迎えできる状況ではありません。早急に平定させたのちに改めてお迎えいたしますのでそれまでお待ちいただきたく存じます」

「いいっていいって、そういうのは。気が向いたら行くからさ、そっちはそっちで好きにやっててよ」

 イリスが面倒くさそうに手を振る。

「寛大なるお気遣いに感謝の言葉もございません。それではまた、再びお会いできることを願いつつ今はこれにて失礼いたします」

 バルバッサは深々と首を垂れるとダンデールの私兵部隊を引きたてながら去っていった。

 フローラもイリスの前で頭を下げる。

「それでは私もこれで失礼いたしますね。イリス様、いつでも訪ねに来てくださいね。心より歓迎いたします」

 フローラとその護衛はオミッドの私兵ともども島を去り、辺りは打って変わって静寂に包まれた。


「……これで……終わったのかな」

 キールがぽつりとつぶやく。

「そうだね、これからまだしばらくは混乱が続くだろうけど、今までのような危機はもうやってこないはずだよ」

 ルークは辺りを見渡した。

 兵士たちが去って島の住民が徐々に海岸に集まりつつある。

「キール」

 振り返るとそこにはクランケン氏族の長老たちが立っていた。

 みな沈んだ顔で立ち尽くしている。

 やがて1人の老人が意を決したように顔を持ち上げた。

「すまなんだ、お前の言う通り人族の甘言に乗せられた儂らが間違いだった」

 周りの長老がその言葉に頷く。

「族長は殺され、神獣によって鉱山もメチャクチャになってしまった。傷つき、家を失った者もいる。もはや何の言い逃れもできまい、これはエラントの言葉を信じた儂らの責任じゃ」

 そう言うと長老たちはキールの前に両手をついた。

「キール、それもこれも全ておぬしの言葉をないがしろにしてきたからじゃ。いまさら許してくれなどと虫のいいことは言わん。しかしこれから我ら氏族を任せられるのはお主しかおらんのじゃ」

「その通りじゃ。儂らクランケン氏族だけじゃない、リヴァスラ氏族もお主の言葉なら聞くはずじゃ」

「頼む、島を導いてくれ」


「そんな……謝りたいのはこっちの方だよ」

 キールが片膝をつく。

「あたしは何もできなかった。全部ルークがやってくれたことなんだ。島のことを考えていたなんて、本当はそんなことないんだ。あたしはただ我を通したかっただけ。エラントだってあたしが意固地になってなかったらあんなことはしなかったかもしれない」

「キール……」

「だからさあたしはまだまだ島を導く資格なんかない。それでもあたしにできることは精いっぱいやるよ。今度こそ島のみんなが納得できる道を探してみせる。だからみんなも助けてくれないかな」

 そう言って上げたキールの顔には晴れ晴れとした笑顔が浮かんでいた。

「も、もちろんじゃとも!みなで力を合わせて復興させようぞ!」

「そうとも!みなで協力すれば魔石に頼らずとも豊かになれるはずじゃ!」




「……どうやらもう大丈夫みたいだね」

 肩を抱き合うキールと長老たちを見てルークは微笑みながら頷いた。

「師匠、僕らはしばらくこの島に残って復興の手伝いをするつもり……あれ?師匠はどこに?」

 ルークは不思議そうにあたりを見渡したがイリスの姿はどこにも見えなかった。
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