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第3章:南海の決闘
第145話:村の朝
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オステン島に着いて2日目の朝は雲1つない快晴だった。
朝霧で橙色に染まった村の中はまだまどろみの中だったが、それでも籠を手にした子供たちが通りを歩いているのが見える。
「お兄ちゃんとお姉ちゃん本土から来たの?」
「本土って人が空を飛んでるって本当?」
「ちげーよ!魔族との戦争でみんな塀の中で暮らしてるんだって!」
「魔族と会ったら舌を切り取られるんでしょ?」
「2人は夫婦なの?」
子供たちが興味津々といった様子でルークとアルマの周りに群がってきた。
「こらこら、いっぺんに聞かないの。お兄ちゃん困ってるでしょ」
どうしたものかと戸惑っているところへキールがやってきた。
「あ、キール姉ちゃん、今日は早いじゃん」
「ねえねえ、キール姉ちゃんこのお兄ちゃんと知り合いなの?」
「ひょっとして恋人?」
「ばっか、キール姉ちゃんにはエラントさんがいるだろ」
「キール姉ちゃんエラントさんと結婚するの?」
「黙れっての。このマセガキが。あんたたちこそこんな早くにどこに行くのさ」
目の前の少年の頭にグリグリと拳をこすりつけるキール。
しかし言葉とは裏腹にそこには昨晩見せた顔とは打って変わって穏やかな表情が浮かんでいる。
「痛えなあもう。貝採りだよ。今日は本土から商人が来るから買い取ってもらうんだ」
「そうかい、朝はまだ魔獣が浜をうろついてるかもしれないから気を付けんだよ」
「わかってるって!キール姉ちゃんこそ浮気してるとエラントさんに叱られっぞ!」
「やかましい!さっさと行け!」
子供たちは軽口をたたきながらキールに手を振りながら浜に向かって駆け出して行った。
「まったく、あのガキどもときたら……どうかした?あたしの顔に何かついてるかい?」
苦笑を漏らしながら子供たちを見送ったキールが不思議そうな顔でルークに振り返る。
「いえ、元気になったみたいでよかったなと思って」
「……昨日は悪かったね。せっかくの歓迎会を台無しにしちゃって」
キールが申し訳なさそうに頭を下げた。
「それは別に気にしてないよ。それよりもこの島はかなり深い問題を抱えているみたいだね。昨日はエラントばかり話をしていたけどよかったらキールの話も聞かせてもらえないかな」
別に昨日のエラントの言葉が気になっていたというわけではなく、今はいろんな角度からこの島の様子を聞くのが重要だと判断したのだ。
「昨日のエラントの話を気にしてるのかい?それなら心配しなくても大丈夫だよ。島のことは島のみんなで解決するからさ、ルークたちは気にしないで楽しんでおくれよ」
キールは朗らかに笑うとルークに振り返った。
「今日は島を案内しようと思ってきたんだよ。小さな島だけど歴史があるし結構いい景色もあるんだよ」
◆
ルークとアルマはキールに連れられて島の様々な名所を案内してもらっていた。
常に虹がかかった美しい滝、何百何千という色鮮やかな発光くらげが泳ぐ湖、樹齢数百年を超える巨大な木々と極彩色の鳥や不思議な獣たち、どれもルークには初めて見るものばかりだった。
「凄いな……どれも見たことがないものばかりだ。それに本土で見たことある草木もここでは大きく形を変えてるみたいだ」
ルークは目の前に生えている木から拳ほどの大きさの果実をむしり取った。
「これはツルイチジクだよ。アロガス王国だと大きくなっても親指ほどにしかならないのに、こっちだとこんなに大きくなるんだ」
感心したようにそう呟くと口を開けて大きくかぶりつく。
「それに甘さも全然違う。セントアロガスまで持っていったら大人気になるんじゃないかな」
「本当だ、凄く美味しい!ツルイチジクは子供の時によく食べたけどこんな味じゃなかったよ。シシリーに教えてあげたらきっと喜ぶだろうな」
アルマも一口食べて驚いたように目を見張っている。
「そうなのかい?こっちだと子供のおやつくらいにしかなってないんだけどね」
「本当だよ、こんなに美味しいものなら絶対に引く手あまたになると思う。昨日の宴会の時も思ったけどこの島で採れる果物はどれも凄く美味しかった。商品にしたらきっと人気が出るよ」
「そうだと嬉しいんだけどねえ。この島に来る商人たちはみんな魔石にしか興味がないからさ、そういうものに注目する人が全然いないんだよ」
キールは肩をすくめながら森の中を歩いていく。
3人は山に向かって進んでいた。
「良かったら興味を持ちそうな人を紹介しようか?セントアロガスで商人をしているんだ」
「ぜひ頼むよ。魔石以外で収入を得られるんなら大歓迎だからね……っと、さあ着いたよ。ここが島で一番神秘とされる場所なんだ」
キールが案内したそこは森を抜けた断崖の麓だった。
上は切り立った崖がそびえ立ち、目の前には色鮮やかな無数の布で飾られた洞窟が口を開けている。
「ここはクランケン氏族にとっての聖地なんだよ。ここはかつて女神が神獣クラーケンを封じた場所といわれているんだ。この奥は禁足地になっていて村でも族長しか入れないことになってるの」
「神獣クラーケン……」
ルークは知らず知らずのうちに固唾を飲みこんでいた。
幾本もの触手を持ち、ドラゴンすら捕食することもあると言われる伝承にも登場する恐るべき神獣だ。
そのクラーケンを封印したと言われる洞窟が目の前に口を開けている。
「ルーク、何か感じるの?」
「いや……よくわからない」
恐る恐る聞いてくるアルマに首を振るとルークは足元に落ちていた小石を拾い上げた。
「この島で高純度の魔石が採れるのは本当のことなんだね、ここら一帯はこんな石にも微量の魔石が含まれている。でもそのせいか魔力の探知が難しくなってるみたいだ」
キールも足元の小石を拾い上げると崖に向かって放り投げた。
「そう、この島が魔石を産出し続けているのはここに眠る2体の神獣が今も魔石を生み出してるからと言われてる。そしてあたしはその神獣を封じる役目を持った巫女なんだ」
朝霧で橙色に染まった村の中はまだまどろみの中だったが、それでも籠を手にした子供たちが通りを歩いているのが見える。
「お兄ちゃんとお姉ちゃん本土から来たの?」
「本土って人が空を飛んでるって本当?」
「ちげーよ!魔族との戦争でみんな塀の中で暮らしてるんだって!」
「魔族と会ったら舌を切り取られるんでしょ?」
「2人は夫婦なの?」
子供たちが興味津々といった様子でルークとアルマの周りに群がってきた。
「こらこら、いっぺんに聞かないの。お兄ちゃん困ってるでしょ」
どうしたものかと戸惑っているところへキールがやってきた。
「あ、キール姉ちゃん、今日は早いじゃん」
「ねえねえ、キール姉ちゃんこのお兄ちゃんと知り合いなの?」
「ひょっとして恋人?」
「ばっか、キール姉ちゃんにはエラントさんがいるだろ」
「キール姉ちゃんエラントさんと結婚するの?」
「黙れっての。このマセガキが。あんたたちこそこんな早くにどこに行くのさ」
目の前の少年の頭にグリグリと拳をこすりつけるキール。
しかし言葉とは裏腹にそこには昨晩見せた顔とは打って変わって穏やかな表情が浮かんでいる。
「痛えなあもう。貝採りだよ。今日は本土から商人が来るから買い取ってもらうんだ」
「そうかい、朝はまだ魔獣が浜をうろついてるかもしれないから気を付けんだよ」
「わかってるって!キール姉ちゃんこそ浮気してるとエラントさんに叱られっぞ!」
「やかましい!さっさと行け!」
子供たちは軽口をたたきながらキールに手を振りながら浜に向かって駆け出して行った。
「まったく、あのガキどもときたら……どうかした?あたしの顔に何かついてるかい?」
苦笑を漏らしながら子供たちを見送ったキールが不思議そうな顔でルークに振り返る。
「いえ、元気になったみたいでよかったなと思って」
「……昨日は悪かったね。せっかくの歓迎会を台無しにしちゃって」
キールが申し訳なさそうに頭を下げた。
「それは別に気にしてないよ。それよりもこの島はかなり深い問題を抱えているみたいだね。昨日はエラントばかり話をしていたけどよかったらキールの話も聞かせてもらえないかな」
別に昨日のエラントの言葉が気になっていたというわけではなく、今はいろんな角度からこの島の様子を聞くのが重要だと判断したのだ。
「昨日のエラントの話を気にしてるのかい?それなら心配しなくても大丈夫だよ。島のことは島のみんなで解決するからさ、ルークたちは気にしないで楽しんでおくれよ」
キールは朗らかに笑うとルークに振り返った。
「今日は島を案内しようと思ってきたんだよ。小さな島だけど歴史があるし結構いい景色もあるんだよ」
◆
ルークとアルマはキールに連れられて島の様々な名所を案内してもらっていた。
常に虹がかかった美しい滝、何百何千という色鮮やかな発光くらげが泳ぐ湖、樹齢数百年を超える巨大な木々と極彩色の鳥や不思議な獣たち、どれもルークには初めて見るものばかりだった。
「凄いな……どれも見たことがないものばかりだ。それに本土で見たことある草木もここでは大きく形を変えてるみたいだ」
ルークは目の前に生えている木から拳ほどの大きさの果実をむしり取った。
「これはツルイチジクだよ。アロガス王国だと大きくなっても親指ほどにしかならないのに、こっちだとこんなに大きくなるんだ」
感心したようにそう呟くと口を開けて大きくかぶりつく。
「それに甘さも全然違う。セントアロガスまで持っていったら大人気になるんじゃないかな」
「本当だ、凄く美味しい!ツルイチジクは子供の時によく食べたけどこんな味じゃなかったよ。シシリーに教えてあげたらきっと喜ぶだろうな」
アルマも一口食べて驚いたように目を見張っている。
「そうなのかい?こっちだと子供のおやつくらいにしかなってないんだけどね」
「本当だよ、こんなに美味しいものなら絶対に引く手あまたになると思う。昨日の宴会の時も思ったけどこの島で採れる果物はどれも凄く美味しかった。商品にしたらきっと人気が出るよ」
「そうだと嬉しいんだけどねえ。この島に来る商人たちはみんな魔石にしか興味がないからさ、そういうものに注目する人が全然いないんだよ」
キールは肩をすくめながら森の中を歩いていく。
3人は山に向かって進んでいた。
「良かったら興味を持ちそうな人を紹介しようか?セントアロガスで商人をしているんだ」
「ぜひ頼むよ。魔石以外で収入を得られるんなら大歓迎だからね……っと、さあ着いたよ。ここが島で一番神秘とされる場所なんだ」
キールが案内したそこは森を抜けた断崖の麓だった。
上は切り立った崖がそびえ立ち、目の前には色鮮やかな無数の布で飾られた洞窟が口を開けている。
「ここはクランケン氏族にとっての聖地なんだよ。ここはかつて女神が神獣クラーケンを封じた場所といわれているんだ。この奥は禁足地になっていて村でも族長しか入れないことになってるの」
「神獣クラーケン……」
ルークは知らず知らずのうちに固唾を飲みこんでいた。
幾本もの触手を持ち、ドラゴンすら捕食することもあると言われる伝承にも登場する恐るべき神獣だ。
そのクラーケンを封印したと言われる洞窟が目の前に口を開けている。
「ルーク、何か感じるの?」
「いや……よくわからない」
恐る恐る聞いてくるアルマに首を振るとルークは足元に落ちていた小石を拾い上げた。
「この島で高純度の魔石が採れるのは本当のことなんだね、ここら一帯はこんな石にも微量の魔石が含まれている。でもそのせいか魔力の探知が難しくなってるみたいだ」
キールも足元の小石を拾い上げると崖に向かって放り投げた。
「そう、この島が魔石を産出し続けているのはここに眠る2体の神獣が今も魔石を生み出してるからと言われてる。そしてあたしはその神獣を封じる役目を持った巫女なんだ」
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