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第1章:ルーク・サーベリーの帰還

第17話:決着

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「ルーク!!」

 アルマの悲鳴が響き渡る。

「僕なら大丈夫!」

 部屋に立ち込める煤煙の中からルークの声が聞こえてきた。


「防御魔法か、少しはできるようだな」

 階段の上から声がした。

「魔導士がいると思っていましたが、どうやらあなたがそのようですね」

 薄れていく煙の中から現れたルークがケープを叩きながら答える。

 その姿は傷一つ付いていない。

 上階の踊り場に1人の痩せた男が立っていた。

「なかなかやるようだが魔導士相手の戦いは先に手の内を晒した方が負けだ。そして貴様は既に己の固有魔法を見せている。貴様の雷撃魔法への対処は既に済ませているぞ」

 男の周りを膜のようにうっすらと覆っているのはおそらく雷系の魔法に特化した防御結界なのだろう。

 男が両手を振り上げた。

 両手の間に魔力が集まり、巨大な炎の塊が出現する。

「我が最大の魔法であの世に送ってやる!見よ!劫炎雹塊パイロヘイル!」

「こちらもあなたの魔法は既に見ました」

 ルークの言葉と同時に男の生み出した炎の塊が消えた。

 無効化魔法の力だ。

「は?」

 呆気にとられた魔導士に向かってルークが左手を突き出す。

「今度はこちらの番です」

 空中に出現した水の塊が猛烈な勢いで魔導士に襲い掛かった。

「ば、馬鹿な……水魔法だと!しかも顕示宣言コーリングなしで!?ありえな……ぐわあああっ!」

 ルークの放った水弾をかわした弾みに体勢を崩した魔導士が階段を転げ落ちる。

「うぐぐ……ぬうっ!?」

 よろよろと起き上がった魔導士だったが、左手を向けたルークが目の前にいることに気付いてその動きを止めた。

 恐れと困惑が混ざった瞳でルークを睨みつける。

「……何故だ、何故貴様は固有魔法を2つも使える!そんなことはありえないはずだ!」
 魔導士の困惑はもっともだった。

 体内に固定できる魔法は1つのみというのが魔法学会では定説となっている。


「いや……あれは本当に固有魔法なのか?……まさか!」

 何かを思いついたのか魔導士は信じられないものを見るようにルークを見た。

「まさか……挿植魔法インプラントなのか?いや、そんなはずは……あれは禁忌として数百年前にその技術は……失われた……はず……」

 魔導士の頭ががくりと垂れ、そのまま昏倒する。

「察しが良いですね。まさにその挿植魔法インプラントなんですよ。とは言っても埋め込んでいるのは義手ですけどね」

 意識を失った魔導士にルークが話を続けた。


 固有魔法のように即時発動できる魔法の開発は千年以上前から研究が続けられている。

 人為的に体内に魔法式を埋め込む挿植魔法インプラントもその1つだったが、被験者の精神と肉体に著しい負担がかかり、1つの魔法が使えるようになるのすら1万人に1人というあまりにも低い成功率からいつしか禁忌として忘れ去られていた。

 しかし無尽蔵ともいえる魔力を持つルークと強力な魔法生命体を材料に魔神イリスが作った義手にはそれが可能だった。

 現在ルークの義手には数百を超える魔法式が埋め込まれており、思い描くだけで即座に発動させることができる。

 そしてその中には複合魔法のように現代では失伝していたものをルークの解析によって再現した古代魔法も含まれていた。

「あまり人に知られたくないので直前の記憶ごと忘れてもらいました。目が覚めた時にはおそらく僕のことも覚えていないでしょう」




    ◆




 食糧庫の扉を開けるとボロボロの階段が闇へと続いていた。

「ライティング」

 アルマの魔法が照らした地下室には10名ほどの若い女性たちが監禁されていた。

 みな恐怖にひきつった表情を浮かべ、中にはこちらを見上げることすらできない者までいる。

「私たちはセントアロガス衛兵隊のものです。あなた方を助けに来ました!もう大丈夫です!」

 アルマの声に女性たちが微かに反応する。

 やがて本当に自分たちが助かったのだと実感したのか、ゆっくりと階段を上がってきた。

「ありがとうございます!」

「もう助からないかと思っていました……本当にありがとうございます」

 涙を流しながらアルマとシシリーにお礼を言う。

 中にはしがみついて離れようとしない者までいるくらいだった。

 攫われていた女性たちが地上に上がり終えた頃に2階へ行っていたルークが戻ってきた。


「どうだった?」

 アルマの問いにルークは首を横に振る。

「目ぼしいものは何も見つからなかったよ。これだけの規模だから単独で行っているとは思えないんだけど、摘発された時のために繋がりを限りなく少なくしてるんだと思う。おそらく彼らを尋問しても何も出てこないだろうね」

 ルークはそう言って広間を一瞥した。

 捕まえた男たちはみな拘束して床に転がしてある。



「そうなんだ……」

 アルマがため息をつく。

「彼女たちにも少し話を聞いてみたけど何も知らないみたい。いきなり攫われてずっとあそこに閉じ込められていたって」

「でも証拠なら他にあるよ」

 気落ちするアルマを励ますようにルークが手に持っていた瓶を見せた。

 瓶の中身はほとんど空になっていたが、底の方に淡い緑の液体が微かに残っている。

「それは?」

「2階に転がっていたんだ。魔力を増強するための魔法薬だね。ただし密造薬だ」

 治療や魔力の増強に使われる魔法薬は貴重であると同時に繊細でもあるためにその製造も流通も国が厳重に管理している。

 しかし裏では違法に作られた魔法薬が流通しており、犯罪組織の重要な資金源となっていた。

「おそらくだけど、彼らの組織は密造薬にも関わってるんだと思う。だとしたらこの瓶と残った魔法薬を追えば何かわかるかもしれない。ただ……」

 ルークは微かに眉をひそめた。

「これ以上深追いするのは危険かもしれない。これだけのことをやっているということは相当な組織力を持っているはずだよ。続ければ命を狙わることもあるかも……そんな危険に2人を晒すわけには」


 その言葉に2人が固唾を飲む。

 2人にもルークの言葉の意味はわかっていた。

「それでも……」

 アルマが呟く。

「それでも見過ごせないよ。ここみたいなところが他にもあって、今も苦しんでる人がいるなら許せることじゃない。ここだけ助けて終わり、ということにはしたくない」

「まあそうだよね~それが衛兵隊の仕事だしね~」

 シシリーが同意する。

 ルークが頷いた。

「わかった。それでもこれは流石に僕らの手には余ると思う。まずは衛兵隊に報告してくれないかな。それから今後どうしていくのか考えよう。どうするか決めるのはそれからでも遅くないと思う」

 アルマとシシリーが頷く。

 その時、遠くから騎馬隊の足音が近づいてきた。

「どうやら援軍が来たみたいだね」

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