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第3章:新たな冒険

44.第10階層紫エリア

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「連中の隠れ場所が分かったよ。どうやら10層から来ているみたいだ」

「10層…」

 繰り返す翔琉に美那が頷く。

「おそらくマーカー石を編集できる魔導士がいるのだろう。それで10層と8層の間を移動しで略奪を繰り返しているのだろうね」

「悪どいことを考えやがりますね」

「だが上手いやり方だよ。追跡もされずピンポイントに襲撃をかけることができる。地上からマーカー石で移動できる範囲外となる8層をターゲットに選んでいるのも犯罪者ながらあっぱれなものだ」

 美那は感心すると同時に呆れたようにため息をついた。

「その努力をダンジョン探索に向けていればひとかどの冒険者になっていただろうに…」

「感心している場合ではないのでは?」

「もちろん私たちの目的はあくまでラットライダーズの討伐だ。そこで今から襲撃をかけようと思う」

「今から?準備とかしなくていいんですか?」

「先ほどの男が私たちのことを伝えに向かっているはずだ。逆襲しに来るにせよアジトを変えるにせよ連中の動きは早いだろう。打って出るには今しかない。なに、あの程度の連中なら準備などするまでもないよ」

 そう言って美那はにやりと笑った。

「カケル、君にはその手伝いをしてもらいたいのだがいいだろうか?君の運び屋というジョブが必要になると思うんだ」

「それは…構わないですけど」

「決まりだな。それでは早速行くとしよう」

 そう言って美那が立ち上がる。

「待って!あたしも行く!」

 その時ナナも立ち上がった。

「私も!」

 灯美もそれに続く。

「いいのかい?相手はレベル10以上の者ばかりだ。しかも今回はレベルアップする時間もないのだよ?」

「それでもいいです!2人の帰りを待ってるだけなんて嫌だしあたしの治癒の力が何かの役に立つかもしれないから!」

 若干の恐れで顔は強張っているけどナナの決意は固かった。

「侵入するなら私の能力が役に立てると思う」

 灯美も同じだった。

「…分かった。では一緒に来てくれないか。数は多ければ多いほど良いのだしね」

 美那が2人を見て頷いた。

「ちょ、ちょっと、良いんですか?流石に危険すぎるんじゃ!?」

「この位の危険はダンジョンでは当たり前のことなのだよ。冒険者を目指すのであれば避けられないと言ってもいいだろうね」

 心配する翔琉に美那が頭を振る。

「安心したまえ。私と君がいれば2人は安全なはずだ。だが2人には念のためにこれを渡しておこう」

 美那はそう言ってナナと灯美にマーカー石を渡した。

「これは高レベルの魔導士が魔力を込めたマーカー石だから8層からでも地上に出ることができる。いざとなったら躊躇わずそれを使ってくれ」

 美那の言葉に2人は緊張した面持ちで頷く。

 それを確認した美那は振り返ると持っていた追跡球を翔琉の前に出した。

「それでは早速10層へ向かおう。その前にカケル、これに触れてみてくれないか?」

「はあ…」

 何のことかわからないままその球体に手を当てると翔琉の頭の中に地図が流れ込んできた。

 男に取り付けたマーカーの位置がまるで立体図を見るようにはっきりとわかる。

「どうだ?あの男が今どこにいるかわからないか?」

「え、ええ…わかります。あいつは今…10層の紫エリアにいます」

「そこまでの行き方もわかるかい?」

「はい…どうやら秘密の通路を使っているみたいです」

「やはりな」

 翔琉の答えに美那が満足そうに頷く。

「この追跡球の中にはダンジョンの地図データが入っているから運び屋である君との相性がいいと思っていたよ」

 そこまで言って面白そうに翔琉を見つめた。

「もっともこの追跡球を扱えるのはレベル95以上じゃないと無理なのだがね」

「そ、そんなことよりも早く連中を追いかけましょう!先にアジトに着かれたら厄介ですよ!」

「それもそうだな、それでは早速向かうとしよう。カケル、すまないが道案内は任せたよ」

「もちろん!こっちに隠し通路があるんです!」

 なんとか話題をすり替えられたことに胸をなでおろしながら翔琉は男の去っていった方へと足を向けた。




    ◆





「ここがラットライダーズのアジトか」

 第8清水町を出て2時間、翔琉たちは10層の紫エリアへと来ていた。

 ダンジョンの通路の影に隠れたように開いた洞窟、それがラットライダーズのアジトだった。

 洞窟の入り口にはごついナイフを腰に下げた2人の男が立っている。


「しかし思ったよりも早く着いたものだね。流石は運び屋だ」

 物陰からアジトを窺いつつ美那が感心したように翔琉を見上げる。

「それで、これからどうするんですか?」

「無論連中を懲らしめてやるのさ」

 美那はそう言うとまるでコンビニにでも行くかのような何の気ない足取りで洞窟へと向かっていった。

「んな!?ちょ、ちょっと2人はここで待っていてくれ!」

 仰天した翔琉は慌てて美那の後を追った。



「なんだあ?手前らは?」

 美那とカケルを見て男たちがナイフを抜きながらドスの利いた声を張り上げた。

「あ~、ちょっと確認したいのだけど、ここがラットライダーズのアジトで間違いないのかな?」

 そんな男たちに構わずに美那が道でも聞くかのように尋ねる。

「ああ!?だったらどうだってんだ!つーかてめえらは何もんなんだよ!ちょっとこっち来いや!おおっ!?」

 ラットライダーズの名前を聞いた男たちの敵意が一気に増大する。

「どうやら間違いないようだね。だったら君たちにもう用はないから眠っていたまえ。レベル100睡眠」


 美那の言葉と共に男たちがクタクタと地面に倒れ伏した。

 見れば気持ちの良さそうな顔で高いびきをかいている。

「さ、中に入ってしまおうじゃないか」

 美那が屈託のない笑みで答えた。
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