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第2章:2度目のダンジョン

29.第6階層藍エリア - 3 -

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「えーと…」

 ナナとオットシは何が起きたのかわからず呆然としている。

「それどころじゃない!みんなはそこで待っていてくれ!」

 翔琉は慌てて立ち上がると走り出した。

 先ほどの少女は姿を消しているけどなんとなく方角はわかる。

「やれやれ、あの子割とやるもんだね」

 翔琉の真横にダイゴが現れた。

「あれは隠形に加えて姿を消すアイテムを使ってるな。しかも隠形スキルを増幅させるタイプだ」

「早いところ見つけないと!」

「そうは言っても相手は隠れるのが得意なタイプらしいからなあ。見つけられるかどうか」

(あの角を曲がっていったぜ)

 リングの声が響いてくる。

「あっちだ!」

 翔琉はそう叫んで目の前の角に飛び込んだ。

「よくわかるな」

 ダイゴが感心したように呟く。



「キャアアアッ!!」

 その時、前方から絹を裂くような悲鳴が聞こえてきた。

 同時に巨大なモンスターの気配が襲ってくる。

「これはやべえぞ!」

 ダイゴが突然速度を上げた。

 あっという間に翔琉を追い越して小さな点となっていく。

 まだ本気じゃなかったのか!

 翔琉は内心舌を巻きながらダイゴの後を追っていった。


「これは…」

 ダンジョンの角を曲がった翔琉はその光景を見て目を丸くした。

 そこにいたのは…石でできたような巨大なモンスターだった。

 全長は7~8メートルくらいだろうか、ぱっと見は巨大なカタツムリと言うか太古の昔に生息していたアンモナイトのように見える。

 そのモンスターは石でできた巨大な殻を背負い、その口には数十本もの触手が蠢いていた。

 そしてその触手が先ほどの少女に巻き付いている。

「放せ!放せってば!」

 少女は必死にもがいて手に持った小刀で切り付けているが巨大なモンスターには全く効いていないようだ。

「不味いな、あれは石喰いだ」

 ダイゴがロングソードを構えながら呟いた。

「石喰い?」

「ああ、普段なら別段脅威になるモンスターじゃないんだけどとにかく魔石が大好物で魔石を持ってる人間もろとも食われることもあるくらいなんだ」

 そう言うとダイゴは石喰いに向かって切りつけた。

 一振りで数本の触手を切り落とし、そのまま石でできた殻へと突き立てたが硬い響きと共に弾かれてしまった。

 石喰いは全く動じることもなく、相変わらず少女を締め上げている。

「く…苦し…」

 少女の顔が苦痛に歪んでいる。


「やっぱり駄目か。こいつは内臓が全部殻の中に守られているからなかなか倒せないんだ。殻を砕こうにも触手が邪魔して簡単にはいかないしな」

 ダイゴは翔琉の隣に着地しながら軽くため息をついた。

 その時翔琉の頭にひらめくものがあった。

「少しでいいから時間を稼いでくれないか?俺が突破口を開くから、合図で攻撃してほしいんだ」

「ん?ああ、まあいいけど」

 一瞬不思議そうな顔をしたダイゴだったが、その直後に面白そうだと言わんばかりに笑顔を見せた。

「じゃあよろしく頼むぜ!」

 叫ぶなり飛び出して行き、襲い掛かってくる触手を次々と切り落としていく。

「ひょっとして俺がいなくても倒せるんじゃ…」

 その様子を驚いたように見ていた翔琉だったが、気を取り直してバックパックから買ってきたスレッジハンマーを抜き出した。

「ひょっとしてこのことが分かってたのかな?」

(運び屋ってのは物を届けるのが仕事だからな。トラブル予測は当然の能力だっての)

 頭の中でリングが得意そうに話しかけてくる。

「まあなんでもいいや、とりあえずこいつなら!」

 翔琉はそう叫ぶと大きくジャンプした。

 ダイゴとの戦いで石喰いはこちらに気付いていない。

(感覚拡張!)

 スレッジハンマーが翔琉の意識と一体化する。

 そしてそのままスレッジハンマーを石喰いの巨大な殻に叩きつけた。

 ゴシャッという鈍い響きと共に石喰いの殻が砕け、その体全体が地面にめり込む。

 打撃の衝撃で石喰いの全身から力が抜け、絞められていた少女がだらりと地面に落ちた。

「今だ!」

 翔琉の合図でダイゴのロングソードが石喰いの体内を貫く。

紅蓮刃ぐれんじん

 ダイゴの持つロングソードが真っ赤に赤熱して石喰いを内部から焼いていく。

 ダンジョン内に貝やタコが焼けるような匂いが充満し、石喰いはしばらくもがいて動かなくなった。


「やったな!」

 石喰いが完全に死亡したのを確認するとダイゴは片手をあげて翔琉とハイタッチした。

「正直俺が止めを刺さなくてもカケルの一撃でもうやられていただろうな。普通だったらこいつは5~6人のパーティーじゃなきゃ倒せないんだぜ。大したもんだよ」

 巨大な石喰いの骸を見上げながら感心したようにダイゴが呟いた。

「そっちこそ俺が小細工を使わなくても勝てたんじゃないの?」

「まあな、なんてったって俺は強いからな」

 翔琉の言葉を否定することなくダイゴが胸を張る。

 全く虚勢に聞こえないところが恐ろしいね、と翔琉は苦笑いした。


「それにしても…」

 翔琉はそう言って足下を見下ろした。

 そこには魔石を盗んでいった少女が横たわっている。

 どうやら石喰いに締め付けられて気絶しているらしい。


「この子は一体何者なんだ?」
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