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第1章:チュートリアル

1.初めてのダンジョン

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― 第1階層へ出国のお客様、おはいりになる色の通路にお並びになりお待ちいただきますようお願いいたします。ただいまの待ち時間は約一時間となっています ―

 天井のスピーカーから一定間隔で流れる館内放送が辺りの喧騒にかき消えていく。

「ええと、白エリア、白エリア、と…」

 天城 翔琉《あまぎ かける》は館内標識を頼りに辺りをきょろきょろと見渡した。

 翔琉が今いるところは岐阜県の九頭竜くずりゅうにある九頭竜異界出入国管理局くずりゅういかいしゅつにゅうこくかんりきょく、通称九頭竜異港くずりゅういこうと呼ばれる大型施設だ。



 今から20年前、地球上に突然ダンジョンが現れた。

 異世界へと繋がるそのダンジョンは地球上に存在しえない様々なアイテムや素材を人類にもたらした。

 人類の技術を一気に数世代も進歩させたそれらは当然のように金を呼び、金に引き寄せられた人々はこぞってダンジョンへと引き寄せられていった。

 そして日本に現れたダンジョンの入り口こそが翔琉のいる九頭竜異港くずりゅういこうなのだった。

 九頭竜異港くずりゅういこうは国際空港そのままの施設で、翔琉はパスポートを提示して出国ゲートを入って今はダンジョンへ入る人の列に並んでいる。

 興奮したように隣と話し込んでいる者、ガイドブックを読みふける者、一心不乱にスマホをいじっている者、辺りは翔琉と同じようにダンジョンを待っている人々の熱気に包まれていた。

「凄いな…」

 どこまでも続く人の頭に圧倒された翔琉は驚きと共に思わずため息を漏らしてしまった。

「お兄さんお兄さん」

 後ろから呼びかける声がしたのはその時だった。

 翔琉が振り返るとそこには小太りの中年男性が立っていた。

「お兄さん、その恰好ひょっとして稼ぎに来たんじゃないのかい?」


「え…ええ、まあ…その通りですけど」

 人懐こそうなその中年男性に翔琉は訝しげな顔を向けながらも言葉少なに答えた。

「やっぱりね!それだけの装備をしてるからそうだと思ったんだよなあ~!」

 その中年男性は笑顔を共にしたり顔で頷いてみせた。

 今の翔琉は登山用の大きなバックパックを背負っている。

 初めてのダンジョンということで思いつく限りありったけの道具を詰め込んできたのだ。

「だったらここは止めといた方がいいぞ?この列は観光客向けの白エリア行きなんだ。白エリアじゃ大した稼ぎにはならないぞ?せめて緑エリアにしないと。ほら、こっちだよ」

 そう言うと中年男性は半ば強引に翔琉を列から引っ張り出した。

「そういえば自己紹介がまだだったな。私はオットシといってレベルは八だ。よろしくな!」

 ペラペラと喋りながらオットシと名乗る中年男性は翔琉を同じフロアの少し離れた場所へと引っ張っていった。

「ど、どうも…僕は天城 翔琉と言います」

「あ~!駄目だよそれは!」

 翔琉の自己紹介を聞いたオットシは慌てて手を振った。

「ここで本名を言うのはマナー違反なんだ。君もダンジョンナビはもう入れてるんだろ?ユーザー名も設定してるんじゃ?」

「あ、い、入れてます。ええと…」

 翔琉は慌ててスマホを取り出した。

 ダンジョン用ナビゲーションアプリはダンジョン探索する者にとって必須となるスマホアプリだ。

 何社かが出しているが翔琉はその中でも最大手のダンジョンナビを入れている。

「ユーザ名は…カケルです」

「そのままか!」

 オットシは呆れたように上を見上げた。

「まあいいか。じゃあカケル君、これからは名前を聞かれたらそのユーザー名を言うんだぞ。異港から先は本名を聞くのは失礼にあたるからね」

「そうなんですか?すいません、何も知らなくて」

 謝る翔琉にオットシは手を振った。

「いいんだいいんだ、初めてはみんなそんなもんだよ。これは講義でも教えてくれない暗黙の了解みたいなものだからね。そういえばカケル君はダンジョン探索の講義はうけたんだろうね?」

「ええ、こればかりは必修ですから」

 そう言って翔琉はスマホのユーザー情報画面を見た。

 顔写真の横に認定済のアイコンが表示されている。

 日本でダンジョン探索をする者は事前に5時間の座学を受けてダンジョン探索者認定証を取らなくてはいけない。

 受講料は1万5000円、翔琉のようなフリーターにとってはなかなか痛い出費だ。

「とは言っても前日寝れなかったせいでほとんど講義は聞いてなかったんですけど」

「そんなもんだよ!私だってもう講義の内容なんてほとんど覚えてないからね!」

 オットシはひとしきり愉快そうに笑うと前方を指差した。

 指の先に淡く光る壁が見える。

「あれがダンジョンのゲートだよ。あのゲートは白から赤、橙、黄、緑、青、藍、紫、黒へとだいたい一分の間隔で変化しているんだ。入る時の光で飛ばされる場所が変化するんだけど、それがそのままその階層の難易度になっているんだ」

 翔琉は頷いた。

 それは講義でもやっていた内容だ。

「さっきも言った通り白が一番難易度が低いんだけど、逆に低すぎて今では観光客とか学校の遠足の目的地になってるくらいなんだ。当然目ぼしいものなんてほとんど見つからない」

 オットシはそう言って腕を広げた。

「だから冒険者はもっと難易度の高いエリアに行くんだ。あ、冒険者というのは金を稼ぐためにダンジョンに行く連中を指す愛称みたいなものだね。かくいう私もその冒険者の1人って訳さ」

 翔琉たちが今いる場所は床が緑に塗られている。

 ダンジョン第1階層の緑エリアへと向かう人が待機する場所だ。

 白エリアよりも圧倒的に人が少なく、辺りを覆う高揚感の中に攻撃性のような熱意が含まれていた。

 翔琉はごくりと生唾を呑み込んだ。

 背筋を汗が伝う。

「まあそうは言っても所詮は緑エリア、白エリアに毛が生えた程度のものだから出てくるモンスターも大したことないよ。それに私がついていってあげるから心配しなくていいよ」

 そんな翔琉の不安を感じたのかオットシが安心させるように翔琉の背中をどやした。

「い、いいんですか?」

「ああ!初めての冒険者を見過ごすわけにはいかないからね!私がカケル君のガイドを受け持とうじゃないか!」

 オットシはそう言って胸を叩いた。

「すいません、よろしくお願いします。なんせ初めてなもんですから実は不安で不安でしょうがなかったんです」

 翔琉は安堵のため息と共に額をぬぐった。

「初めては誰でもそんなもんだよ。じゃあこれからよろしく!」

 オットシがそう言って右手を差し出す。

 翔琉はその手をしっかりと握りしめた。
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