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第1章

第32話:最終決戦

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穿光弾ピアッサー!」

 空中に発生した光の弾が軌跡を描きながら神那先に向かっていく。

「土鬼!疾くきたりて護れ!」

 コンクリの床がめくれ上がって光弾を防ぐ。

「もらった!」

 舞い上がる土埃を目くらましに上空から影が降ってくる。

「甘い!」

 神那先が切り払うとその影は霞のように消えていった。

「これは?」

「幻影だ」

 魔法で土埃を集めただけの簡易的な囮にすぎないがこういう照明の乏しい空間では効果的だ。

岩石破衝ロックブラスト

 神那先が作り上げたコンクリの壁が砕け散り、指向性の衝撃となって襲い掛かる。

「グランセーバーが魔法を切り裂くなら対応できない速度の魔法を、召喚獣が攻撃してくるならそれを上回る速度で攻めてやればいいだけの話だ。岩柱槍ロックスパイク

 吹き飛ばされた神那先に壁や床、天井から生み出されたコンクリ製の巨大な槍が殺到していく。

「とどめだ。岩石衝潰ロックスタンプ

 天井が丸ごと崩れて神那先を圧し潰した。

 眼も開けていられないほどの土埃で地下駐車場は濃霧に覆われたようだ。

 ここまでやれば少しは足止めに……

斬り裂く光スレイ・ラスター

 土埃を切り裂く光と共に視界が傾く。

 斬られた?足を?

 考えるよりも先に床に転がる左足を拾い上げて物陰に飛び込んだ。

 幾条もの閃光が土埃を貫いてくる。

 あれはグランセーバーが持つ特技の1つ、斬り裂く光スレイ・ラスターだ。

「クソ、あいつグランセーバーを完全に使いこなしているのか」

 斬り落とされた左足を治癒しながら知らず識らずのうちに歯噛みをしていた。

 グランセーバーは魔法を含めてあらゆるものを切り裂く通常技に加えて特定の手順を踏むことで発動する特技を持っている。

 先ほどの斬り裂く光のその1つだ。

 発動からタイムラグなしで発射される光はこの世界のレーザー兵器にも似ている。

 そしてあの特技を使いこなしているということは……神那先がさほどのダメージも受けていないことを意味している。

 あれだけの質量攻撃を食らえば屈強な戦士はおろか強力な魔導士であってもただでは済まないはずなのだが……

「救急如律令、風鬼よ疾く来りて大気を清めよ」

 その言葉と共に一体の鬼が現れて大きく息を吸い込んだ。

 地下に充満していた土埃が見る間に消えていく。

 白煙の晴れた先には……平然と立つ神那先の姿があった。

「驚いたな、あれだけの攻撃を受けても傷一つないとはな」

「そうでもないよ。シャツが破けた。お気に入りの1枚だったのに」

 神那先が肩先を手で軽く叩いてみせる。

「これでもう終わりかい?だとしたらちょっと失望だな。君がやったことは駐車場の一部を解体工事したに過ぎないじゃないか。魔王だったらもう少しやるもんだと思っていたんだけどね」

 言うなり神那先の姿が消えた。

「この様子じゃ本気を出す必要もなさそうだ」

 背後から聞こえてきた声に頭を下げたのはほとんど反射だった。

 0.1秒でも遅れていたら頭と胴体が泣き別れしていただろう。

「殺すつもりはないと言っていたのは嘘だったのか!」

 バク転で距離を取りながら火球を撃つ。

「この程度の実力なら協力し合う必要もないからね!」

 その全てを斬り落としながら神那先が距離を詰めてくる。

 後ろには先ほどの魔法でできた瓦礫が迫っている。

 逃げ道はなかった。

「だったらほんの僅かであっても脅威の芽は摘んでおかないとね」

「同感だ」

 その言葉のすぐ後で剣に体を貫かれた。

 

「なっ!?」

 神那先の眼が驚きに見開かれる。

 背後から貫いた剣はそのまま神那先へと飛んでいき、肩口に深く突き刺さった。

「ば、馬鹿なっ!」

 肩を抑えながら神那先が大きく飛び退る。

「そんなに驚くことはないだろう。先ほどお前が鬼でやった方法だぞ」

 地下駐車場まで逃げてくる間に武器庫にあった剣を1本くすねておいたのだ。

 そして魔法で攻撃している隙に瓦礫の中に忍ばせておいた。

 あとはその剣を魔法で操り、自分の体を囮にして刺突したというわけだ。

「どうだ、一矢報いてやったぞ。いやこの場合は一太刀浴びせたと言った方が正しいか?」

「ハハ、なかなかやるじゃないか。自分の体を犠牲にするとは思いもしなかったよ。流石は魔王だね、一筋縄じゃいかないわけだ……でもこれで勝ったとは思わないことだね!」

 額に汗を浮かべた神那先が胸元で素早く印を結ぶ。

「金鬼よ、その身を挺して我が敵を止めよ!重ねて呼び寄せる、疫鬼よ、疾くと来りて我が身の傷を引き受けよ」

 神那先の呼びかけに応えるように虚空から赤銅色の鬼と痩せこけた青白い鬼が現れた。

 赤銅色の鬼が金棒を振り上げながらこちらへ向かってくる。

 一方で痩せこけた鬼は神那先の傷口に手を伸ばしていた。

 肩に手を触れるとその傷がゆっくりと鬼の方へと移っていく。

 あの鬼は神那先の傷を肩代わりする役目というわけか。

「治癒魔法を使えるのは君だけじゃないってことさ」

 鬼が消えた頃には神那先の傷は完全に癒えていた。

「どうやらその通りのようだな……

「?」

 その言葉に神那先が怪訝そうな顔を浮かべる。



 言葉と同時に掌に光球を生み出した。

「エレンシア!」

 その名を聞いた神那先が驚いたように顔を上げたがもう遅い。

「フニャアアアアッ」

 上げたその顔にエレンシアが降ってきた。

 触れあったエレンシアと神那先の額が放電のようなまばゆい光を放つ。

「ぐあああああああっ!!!」

 光に包まれた神那先が絶叫をあげた。

 光は始まったのと同じように唐突に止んだ。

「あ……ああ……」

 軋むような声で神那先がこちらを向く。

「ま……魔王バルザファル……わ……私を……私を殺してください」

 それは勇者エルティアの声だった。
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