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第1章

第27話:銃弾

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「ハッハァーッ!」

 吐影の雄叫びが人で埋まった部屋に響き渡る。

 その手に握られているのはベレッタ・M9A1、アメリカの不良軍人から安く譲り受けた吐影の愛銃だ。

「バァーカ、がよぉ!だぁーれがてめえなんぞとまともに勝負するかよ!」

 そう叫ぶと地面にうずくまる森田に向かって再び引き金を引いた。

 被弾の衝撃で森田の体が小さく弾む。

 更にもう一発。

「ハンデだぁ?やれるもんならやってみろよ、おぉ?」

 続けて何度も銃弾を撃ち込んだ。

 森田の体を中心にゆっくりと血だまりが広がっていく。

「ハ、口ほどにもねえな。神那先の野郎が変な力を使うなんて脅してきやがったけどよぉ、銃に敵うわけねえだろうが!」

 吐影はピクリとも動かなくなった森田を前にヒステリックに笑い出した。

 周りにいた者たちもそれに合わせて引きつった笑い声を響かせる。

「おう、そこのゴミはお前らで片付けておけよ」

 ひとしきり笑って満足したのか吐影は銃を懐にしまうと踵を返した。

「……と、吐影さん……」

「なんだよ、いつも通りジャンクヤードに埋めておけばいいだろうが」

 煮え切らないような部下の言葉に吐影が苛立たしげに吐き捨てる。

「い……いえ……そうじゃなくて……その……」

 その時点で吐影は異変に気付いた。

 いつの間にか部屋の中が静まり返っていることに。

 あり得ない予感が吐影を総毛立たせる。

(そんなわけはねえ、あれで生きていける人間がいるわけがねえ!)

 そう己に言い聞かせる心を打ち砕くように背後から声がした。

「これが銃という奴か。なかなか大した威力だな」

「て……てめえ……」

 ギシギシと軋む音を立てそうな身震いと共に振り返った吐影の視線の先に立っていたのは……ゆうに十発は銃弾を浴びたはずの森田だった。




    ◆




 素直に認めよう、この世界の武器を舐めていたと。

 とは言え油断していたわけではない。

 凶龍連合のマンションに入る前にあらかじめ防御魔法だって張っていた。

 しかし銃声と同時に対物防御魔法が全て撃ち抜かれたのは予想外だった。

 即座に追い打ちをかけてきた吐影の判断力も見事だと言わざるを得ない。

 犯罪組織の頭を張っているのは伊達ではないようだ。

 倒れながら防御魔法を張りなおしていなかったら死んでいた可能性もあった。

 ともあれ肉体に届いた銃弾は腹と腰部の2発だけで、そのダメージも自動治癒オートヒールで既に回復済みだ。

「これが銃という武器か。火薬で鉛の弾を打ち出すというシンプルな構造ながらこれだけの攻撃力を持っているとはな。これが俺のいた世界にあったら支配されていたのは魔族の方だったかもしれないな」

 たかだかチンピラ風情が手に入れられる程度の武器でこの威力だ、本格的な兵器となると高等魔法でも防げるかどうか。

 これはこの世界に対する認識を改めた方が良さそうだ。

「てめえ……なんで立っていやがる!」

 吐影が化け物でも見るかのような目でこちらを見ている。

「そう驚くな。俺が不思議な力を使うというのは知っているのだろう?その力を使ったまでのことだ」

「ふ、ふざけんじゃねえ!そんな力、あってたまるかよ!」

 叫ぶなり吐影が再び銃を撃ってきた。

 音速を超える速度で銃弾が向かってくる。

「無駄だよ」

 先ほどは意表を突かれたがその身をもって体験した以上、もはや通用しない。

 銃弾はみるみる速度を落としていき、やがて目の前でポトリと落ちた。

「なっ!?」

 吐影が目を剥く。

 それでも続けて何度も撃ち込んできたが結果は同じ事だった。

 今回は高密度防御魔法を展開している。

 魔力消費量は大きいが吐影の持っている銃程度では肉体に触れることすらできないだろう。

「だから言っただろう、その銃はもう通用しないと」

「クソックソックソがあ!」

 吐影は持っていた銃をこちらに投げつけて部屋を飛び出したかと思うとすぐに戻ってきた。

「だったらこいつをくれてやらぁ!」

 その手に握られているのは……ロシアが作った傑作アサルトライフルAK-47だ。

 最近の半グレはこんな武器まで持っているのか。

 もはや半グレというよりもギャングに近いんじゃないだろうか。

「馬鹿が!俺たちがただの半グレだと思ったのか!俺たちはなあ、そこらのヤクザなんかよりも修羅場を踏んでんだよ!こっからは戦争だぁ!」

「ちょ、吐影さ……!」

「ヤベェ!逃げろ!」

 周りにいた男たちが恐怖に顔を引きつらせながら出口へと殺到する。

 吐影は逃げ惑う部下たちなど眼中にないかのように引き金に手をかけた。

「死ねやオラァ!」

 耳をつんざくような轟音と共に毎分600発の発射速度で銃弾の雨が襲い掛かってくる。

「どうだ!これならてめえの力でも敵わねえだろ!科学の力なめんじゃねえぞ、ボケ!」

 立ち込める白煙で部屋の中は何も見えない。

「どうだ……これならてめえだって……」

「良い銃だな」

「んなぁっ!?」

 煙が晴れた先で怪我1つ負っていない俺の姿に吐影が目を丸くしている。

「最初にその銃を持ち出していれば勝負は変わっていたかもしれないな。とはいえもう通用しないが。腐食禍動ラスト

「うぉっ!?」

 驚く吐影の目の前でAK-47が腐食魔法でボロボロと崩れ落ちていった。

「これでわかっただろう、お前たちの暴力や武器など俺には通用しないと。大人しく俺の条件を呑んだ方が身のためだぞ」

「て……てめえぇ……」

 吐影がギリギリと歯ぎしりをする。

「龍、諦めた方が良い。君じゃあこの人に勝てない」

 その時吐影の背後から声がした。

「神那先?」

 神那先は吐影の肩に手を置いてこちらを向いた。

「森田くん、ここは君の言い分を全面的に認めることにするよ。僕らは今後君には手を出さない、それで良いかな?」

「神那先ィ!てめえふざけてんじゃねえぞ!」

 吐影が激昂する。

「仕方ないだろう。君では森田くんに太刀打ちできない。ここは素直に引き下がった方が良い」

「馬鹿野郎!そんなことできるわけねえだろ!だいたいなんでてめえが仕切ってやがる!てめえ如きが出しゃばってんじゃねえぞ!」

「……てめえ如き?」

 神那先の声のトーンが低くなった。

「それは君のことだよ」

「ハガッ!」

 その瞬間、吐影が白目をむいて悶絶した。

「な……神那……」

 そのまま糸が切れたように床に崩れ落ちる。

「ここは君如き凡人が入っていける領域じゃあないんだよ」

 昏倒した吐影を一瞥すると神那先はあらためてこちらに顔を向けてきた。

「さ、邪魔者はいなくなったし改めて話をしようか、森田くん。いや……」

 相変わらず穏やかなその顔に笑みが浮かんでいる。

「魔王バルザファルと言った方が良いかな?」
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