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シナリオは動き出す
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しおりを挟むジョージの侵入したオペラハウスの出入り口。もうすでに、ここまでたどり着けた。
「この先が出口だ。だが、油断するなよ。まだ信徒がいる可能性はある」
信徒の指揮系統はもはやめちゃくちゃだ。少なくとも過半数を失い。今頃てんやわんやしているころだろう。
すると、道中ミイナが短い悲鳴を上げる。それは、先ほど跨いだビジネススーツに身を包んだ男を見てだった。
「ヴェ、ヴェイグさん…そんな」
「知り合いか?」
「…私の、秘書の人で」
「運が無かったんだよ。それだけだ」
ジョージはそう言い残し、興味が失せたように先へと進む。ミイナもそれに追従した。
扉を出ると、夜間という理由もあるが薄暗い植樹園にでる。
「ミイナ。先にあそこに行け。追撃が無いか見たのち、ここを出るぞ」
そういうと、ジョージは扉の前に張り付いた。ミイナも「わかりました」と頷き、言われた通りにする。
ミイナがそこで隠れたことを確認すると、ジョージは携帯電話を取り出しある電話番号にかける。
それは、檀上に立っていた祭司への社用携帯だ。彼の表の顔である『貧困者たちによる集会』の物である。
数回コールしたのち、応答した。
『何かね!今取り込み中なんだ!また後でかけなおしてくれ!』
「血塗られた舌のボスか?」
『な、何者だ貴様!』
ただでさえせわしない声から、さらに声音を変え、威圧した様に祭司は返答をする。
「何者でもない。だが、忠告を言いたい。もう引け。PIPDが来るぞ。それに、化け物を退治できたのか?早めに決断しなければ、死ぬぞ」
しばらく黙ったのち、観念した様に祭司は答える。
『ぐ、そうするほかあるまい。どのみち演説は上手くいった。お前は侵入者の一人だろう?何がしたかったのかしらんが、VIPを誘拐したのち、姿をくらませる』
「はん。所詮は金だな。本当は『くそったれな神』に遣えるつもりもなければ、利用する気もないんだろう?演説を聞いている限り、神の名前を借りて金儲けをたくらむ、哀れな連中にしか思えなかった。違うか?」
祭司は自嘲気味に笑い、答えた。
『ああ。そういうビジネスだよ。ただ、実際に血塗られた舌教団は実在するがね。私は上からの命令を受けるが、あくまでも信徒を増やす為に活動しろと言われただ。そこに少しのアクセントを加えた。この街で、それは当たり前だろう?』
「そうだな。だが…」
ジョージは一間隔開けて、強めな口調で言う。
「お前らのやった事実は、死に値する。今回は別件が優先でな、見逃してやる。だがいつか貴様らを望み通り神のもとに送ってやる。俺は、そういう仕事をしているんだよ」
『は、はは…肝に銘じておこうか…』
そう言い残し、祭司は電話を切ったようだ。ここからどう動くのか、現状ジョージの知ったことではなかった。
――さて、早い所、脱出した方がいい。PIPDにここで絡んでいたとバレたら色々面倒だ。
ジョージは扉から離れると、ミイナに指示した場所まで向かった。
ミイナは足音に気が付いたのか、ジョージを見るなり安堵した表情を見せる。だが、すぐに表情を曇らせた。
「またか。脱出できたんだ。それでいいだろう」
面倒くさそうにジョージは言うが、ミイナは苦い笑みを見せてきた。
「違うんです。ヴェイグさんが…私の所為で…」
知り合いの死は、彼女にとって堪えただろう。年端もいかない少女にとってはあまりにも過酷な現実だ。
だが、ジョージはそれが癇に障った。
「お前な…さっきもそうだが、自分がどうとか言うが、お前が生死を決める神だとでも言いたいのか?思い違いも甚だしいな」
すると、ミイナはぼそぼそとつぶやくように言う。
「あなたには…わかりません。私には、そういう力があるので…」
「力だと?じゃあなんだ。お前は自分がバケモンだと言いたいのか?」
その問いに、ミイナは口を噤んだ。
どのみち、ここで言い合いをしていても意味がない。ジョージはもう行くぞと、声を掛けようとする。このミイナと言うガキと、これ以上話したくもなかった。さっさと保護をして、ハングドマンに引き渡す。それで、この馬鹿けた依頼とはおさらばだ。
ジョージたちは木陰からその場を離れ、いよいよ裏口へと向かおうとした。
だが、この依頼の山場は、まだ終わりではなかった。
甲高く響いたのは、ガラスが割れた音。ジョージは反射的に、二階を見た。
「なっ!」
思わず立ち上がると、その光景がまるでスローモーションのように見えた。
人間だ。白髪の女性が牧師服の男に飛び蹴りを入れ、宙に浮いている。
やがて、牧師服の男と共に、白髪の女性が降りてくる。割れたガラスが煌びやかに輝き、まるで演出のように彼女の登場を際立てていた。
先に、牧師服の男が地面に落ちた。鈍く背中を強打した音が聞こえる。
そして、それに追撃を掛けるように、ロングスカートを捲し上げながらシルバーに輝く足先が、祭司の腹部へと思い切り叩き込まれる。
祭司は確実に絶命しただろう。体を『くの字』に曲げたのち、こと切れたのが分かる。
「…見つけた」
ふわりとスカートが揺れたのち、重力にあらがうことなく下がっていく。そして、まっすぐジョージたちを見つめてきたのだった。
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