老人病院

長谷川 ゆう

文字の大きさ
上 下
2 / 9

第2話 風向き

しおりを挟む

   15秒間、目を閉じて脳内に埋め込まれたマイクロチップの中のネットにアクセスして、仕事を探す。

   正社員、月給50万から、学歴不問、面接のみ、年齢不問、週休2日制、誰でも出来る事務職。


  ため息をつき、安田みかこは瞳を開けた。

  これで57件めの仕事の求人だが、みかこはどれも乗り気ではない。

  

  そこに広がるのは、バイトを週3ですれば誰でも入居出来る3LDKのセキュリティー付きのアパートだ。

  二百年前の曾祖母の時代では、考えられない広さと贅沢だ。


   みかこは、22歳、両親共存命だが不明、高卒。この時代では珍しい生き方をしている。

   二千二百年後半から、世界では産婦人科では人口の子宮が開発され、その中で子供は育ち両親の遺伝子から子供は産まれるも、人間からは産まれず、病院で産まれ、産まれた子供は両親に引き取られる。

  人間から産まれる子供は1%を切るほど、珍しい。

  病院に引き取りにこない親もいるため、子供達が養子縁組または、正社員として就職出来る中卒まで子供を育てる教育現場と疑似家庭が併設された施設に預けられる。

   日本では、百年前には年金制度も廃止され、働いていた時の老後は貯蓄でまかなえ、三大義務も廃止されたが、その代わり犯罪など罪を犯せば、どんな軽い罪でも刑務所で一生終身刑となる。

  みかこの両親は、母方の祖父母と暮らしていたがみかこは人生で、2度しか両親の顔を見たことがない。

  三世代が当たり前のこの時代には、よくある話だが、みかこは祖父母に育てられた。


  中学を卒業と同時に、祖父母は亡くなり就職をしたものの、みかこはとある事から仕事が続かない。

  それでも、この社会は仕事が山ほどあふれている。

  同級生もバイトばかりをして就職をしないみかこを不思議に思うほど、恵まれた社会だ。

  みかこに欠落があるのではないかと去って行った友人もいる。両親も含まれる。

  「上等よ」
  吐き捨てるように、みかこは毒を吐いた。何も自分の頭で考えず社会に流されている去って行った人達の方が欠落して見えた。

  人間から産まれた最後の世代、ロストヒューマンの祖父母に育てられ、マイクロチップを国に返上していた祖父母に昔話を聞かされて育ったみかこにとって、この社会は異様に見える。

   だからといって、みかこが生きているのはこの時代だ。逃げることも避けることも出来ない

  息苦しい。

  祖父母が亡くなってから、みかこの人生の風向きは変わらない。

  そろそろバイトで蓄えた貯金も底をつく。みかこはまた15秒瞳を閉じて、脳内にあるマイクロチップの中のネットと接続し、求人をさがした。

  老人病院「ゼイタク」、正社員、ヘルパー募集、学歴不問、年齢不問、月給五万、保証無し。

  思わずログインしたまま、瞳を開けたみかこは驚いた。今時、自分の祖父母以外の老人を見ることは一生にない。そのうえバイトより月給が安い。

  みかこは、殺風景な部屋に唯一テーブルに置いてある祖父母のデジタル写真を見た。

  風向きが、変わった。

 



   

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい

白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。 私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。 「あの人、私が

JKがいつもしていること

フルーツパフェ
大衆娯楽
平凡な女子高生達の日常を描く日常の叙事詩。 挿絵から御察しの通り、それ以外、言いようがありません。

就職面接の感ドコロ!?

フルーツパフェ
大衆娯楽
今や十年前とは真逆の、売り手市場の就職活動。 学生達は賃金と休暇を貪欲に追い求め、いつ送られてくるかわからない採用辞退メールに怯えながら、それでも優秀な人材を発掘しようとしていた。 その業務ストレスのせいだろうか。 ある面接官は、女子学生達のリクルートスーツに興奮する性癖を備え、仕事のストレスから面接の現場を愉しむことに決めたのだった。

[R18] 激しめエロつめあわせ♡

ねねこ
恋愛
短編のエロを色々と。 激しくて濃厚なの多め♡ 苦手な人はお気をつけくださいませ♡

願いを叶えるだけの僕と人形

十四年生
SF
人がいいだけのお人よしの僕が、どういうわけか神様に言われて、人形を背中に背負いながら、滅びたという世界で、自分以外の願いを叶えて歩くことになったそんなお話。

性転換タイムマシーン

廣瀬純一
SF
バグで性転換してしまうタイムマシーンの話

170≧の生命の歴史

輪島ライ
SF
「私、身長が170センチない人とはお付き合いしたくないんです。」 そう言われて交際を断られた男の屈辱から、新たな生命の歴史が始まる。 ※この作品は「小説家になろう」「アルファポリス」「カクヨム」「エブリスタ」に投稿しています。

処理中です...