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第2話 風向き
しおりを挟む15秒間、目を閉じて脳内に埋め込まれたマイクロチップの中のネットにアクセスして、仕事を探す。
正社員、月給50万から、学歴不問、面接のみ、年齢不問、週休2日制、誰でも出来る事務職。
ため息をつき、安田みかこは瞳を開けた。
これで57件めの仕事の求人だが、みかこはどれも乗り気ではない。
そこに広がるのは、バイトを週3ですれば誰でも入居出来る3LDKのセキュリティー付きのアパートだ。
二百年前の曾祖母の時代では、考えられない広さと贅沢だ。
みかこは、22歳、両親共存命だが不明、高卒。この時代では珍しい生き方をしている。
二千二百年後半から、世界では産婦人科では人口の子宮が開発され、その中で子供は育ち両親の遺伝子から子供は産まれるも、人間からは産まれず、病院で産まれ、産まれた子供は両親に引き取られる。
人間から産まれる子供は1%を切るほど、珍しい。
病院に引き取りにこない親もいるため、子供達が養子縁組または、正社員として就職出来る中卒まで子供を育てる教育現場と疑似家庭が併設された施設に預けられる。
日本では、百年前には年金制度も廃止され、働いていた時の老後は貯蓄でまかなえ、三大義務も廃止されたが、その代わり犯罪など罪を犯せば、どんな軽い罪でも刑務所で一生終身刑となる。
みかこの両親は、母方の祖父母と暮らしていたがみかこは人生で、2度しか両親の顔を見たことがない。
三世代が当たり前のこの時代には、よくある話だが、みかこは祖父母に育てられた。
中学を卒業と同時に、祖父母は亡くなり就職をしたものの、みかこはとある事から仕事が続かない。
それでも、この社会は仕事が山ほどあふれている。
同級生もバイトばかりをして就職をしないみかこを不思議に思うほど、恵まれた社会だ。
みかこに欠落があるのではないかと去って行った友人もいる。両親も含まれる。
「上等よ」
吐き捨てるように、みかこは毒を吐いた。何も自分の頭で考えず社会に流されている去って行った人達の方が欠落して見えた。
人間から産まれた最後の世代、ロストヒューマンの祖父母に育てられ、マイクロチップを国に返上していた祖父母に昔話を聞かされて育ったみかこにとって、この社会は異様に見える。
だからといって、みかこが生きているのはこの時代だ。逃げることも避けることも出来ない
息苦しい。
祖父母が亡くなってから、みかこの人生の風向きは変わらない。
そろそろバイトで蓄えた貯金も底をつく。みかこはまた15秒瞳を閉じて、脳内にあるマイクロチップの中のネットと接続し、求人をさがした。
老人病院「ゼイタク」、正社員、ヘルパー募集、学歴不問、年齢不問、月給五万、保証無し。
思わずログインしたまま、瞳を開けたみかこは驚いた。今時、自分の祖父母以外の老人を見ることは一生にない。そのうえバイトより月給が安い。
みかこは、殺風景な部屋に唯一テーブルに置いてある祖父母のデジタル写真を見た。
風向きが、変わった。
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