ニート株式会社

引きこもりリス①

  午前の講義が終わり、午後がひまになった。梅雨が終わりに近いのか蒸し暑い毎日からカラッと晴れた日が続いている。


  マリネさんは、いつでも会社に来てもいいと言ってくれたけれど・・・。


  ドンッ
 「あがばばばっ、だっ！あぶねーな！」
ルリが思いきり全体体重で背中から体当たりしてきた。

    「あははっ、ケンたん辛気くさい顔してステキなキャンパスライフ楽しんでないんだも～ん！」
    ４年前、前方不注意でぼっちの俺に体当たりしてきたのが、ルリとの出逢いだ。


   それからは俺が、キャンパス内をうろついているのを見かけるとルリの体当たりご挨拶が恒例になった。


   「叔母さんの会社、遊びに行こう♪」
 マリネさんと同じスラッとした腕を右腕にホールドされる。

   遊びって・・・。

  「ね♪ケンたん！午後から講義はないしぃ、私が！」
   ルリのペースに巻き込まれて、あらがえた事がこの４年、皆無。

   
   １時間後には、マリネさんの会社のロビーにルリといた。


   「あいかわらず、受付もいなくて無用心だね～♪」
   ルリは我が家のようにロビーをみまわす。

  「俺、いちよう内定決まった会社だから、職場来たら、覚えなきゃいけないんだけど・・・」
    とりあえず金髪の人事部にでもと思った時だった。


  広いロビーに、ガコンッとペットボトルが鉄にあたる音が響いた。思わずルリと同じ方向を見る。


  気がつかなかったがロビーの出入口の右側の奥に２台、自動販売機があり、その前にガタガタ震えてるリスがいた・・・。

  
  リス、否、マリネさんと社内見学した時に挨拶をしたサラリーマンだった。


   スポーツドリンクのペットボトルを両手で持ち、ガタガタ震えながらエレベーターと俺達二人を交互に見てる。

  
  逃げたそうだし・・・。マリネさんには話しかけないであげてと言われたし、見なかった事に・・・。

    「わあ～！この会社でスーツ着てる人、初めてみたあ～！」
   気がついたら、ルリがリスに向かって全力疾走。

   「ひやぁっ！※！×○ッひはあ！」
 遅かった・・・。俺、入社する前にクビにならないよな・・・。


   引きこもりサラリーマンと俺はルリに強制的に16階にある社員食堂に連れていかれた。

   「よ～し！ルリ様がフレンチの昼食をおごってしんぜよ～！」
    ずっと横でガタガタ震えているサラリーマンは無視か。

 
   「何だか、申し訳ありません。ご迷惑ですし・・・その、無理なさらないでオフィスに戻られても・・・」
    来年には上司となるサラリーマンを震えさせているうえに強制的に昼食だ。


   「ええ～！いいよね？私のおごりだし、カシマたん♪」
    は？今、ルリは40代には見える元引きこもりサラリーマンに何て・・・。


   「ケンたん知らないのお～？アプリ制作でトップのカシマさん♪引きこもりの話しも聞いた事ないし、良い機会だね♪」
   ルリはそう言って、フレンチを頼みに厨房に行ってしまった。


    「あ、え？」
 カシマたんは、動揺しつつも窓際のせきに座る。

   フレンチは、食べるのか・・・。
何だか気の重い昼食が始まりそうだ。