ニート株式会社

長谷川 ゆう

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入社②

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   田舎の漬物屋の実家に帰りたくないばかりに同級生の信頼のない大手の社員「パパ」の娘のルリのつてで「株式会社ニート」の面接を受ける事になった。


  社長である「マリネ」さんは、ルリのパパの妹にあたる人だった。


  「変わった叔母さんだけど、面白いし美人だし、ケンたん頑張ってね~」
   それがルリの数百社の会社を落ちた俺に言う見送りの言葉だ。


  面接に、面白いとか美人とか関係ないだろ・・・しかし大学4年間、合コンやマッチングアプリで彼氏が途切れなかったルリは、確かに色白の美人だ。


  ・・・て違うだろ。リクルートスーツに着替えて蒸し暑い梅雨の小雨の中、ルリからもらった地図を灯台に、面接会場の会社に向かった。


   有楽町の片隅にひっそりと28階建てのビルが「株式会社ニート」だ。

   
   ビルはまだ新しく、28階もあるわりにはずいぶん静かだ。


   恐る恐るドアを開けると、ロビーには受付があり1人の女性が座っている。


  「あ、あの今日面接に来ました野田ケンですが、面接会場はどちらでしょうか?」
   相変わらず、情けない声が出た。すでに落ちたも同然だ。


  受付に座っている女性は、セミロングの髪を明るいブラウンに染めた30代後半くらいの女性だ。

   「むふふ。君がケンたんかあ~」
 どこかで聞き覚えのある声に色白の肌、まさか・・・。


    「ルリの叔母さんであり、この会社の社長でもある、マリネです。ケンたん、合格、合格!」
    一瞬、何を言われているのか分からなくて、途方にくれた。

  
   散々、メールやら履歴書の返却で会社に落ちてきたせいか、目の前で「合格」と言われた事に頭が真っ白になった。


  「ルリの紹介だから、ろくな人間しかこないと思っていたから、こんな真面目なお友達がいるなんて、叔母さん安心したあ!むふふ」
     呆然としていたら、突然マリネさんが立ち上がり俺の前まで、大股で歩いて来た。

 
  「本当は、秘書として今日からでも入社して欲しいんだけど、まだ大学卒業してないし、少し早いけど試用期間て事でどう?」
    目元がルリにそっくりだった。

  「はあ・・・」
  社長を前に情けない声が出る。ふんわり甘い香水の香りが漂う。


  「まあ、大学優先でたまに試用期間として来てよ、ちゃんとお給料はだすからさ」
 くるくる表情の変わる人だ。

   「あの、こちらで働いている方は?」
 やっと声がでた。

   「ざっと4千人。でも1度も来社した事もない引きこもりの人もいるし、たまに出てくるうつ病の人もいるし、きちんとタイムカードだけは押してくニートもいて、いろいろかなあ~」
    マリネさんが信じられないような事をサラサラ言う。

  動揺が顔に出たのか、マリネさんがむふふと笑う。


  「大丈夫。みんなちゃんと仕事はしてるから。ケンたんには秘書として私のスケジュールと社員さんの連絡網になって下さい」
   マリネさんがペコリと頭を下げた。


  思わず自分も頭を下げていた。
こうして、俺の苦難続きの就活があっさりと終わった。


      
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