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~第一章~
平民になった偽りの娘
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夜会は混乱の末、解散となった。
国王陛下はこの件に関して王家の決断を待つように伝え、その場にいた者達へ箝口令を敷いた。
気がついたら私も自室に帰って横になっていた。
いつ部屋に戻ってきたのか、服をどうやって着替えたのかも、あれから誰かと話したのかさえ覚えていなかった。
「私は一体誰なんだろう……」
豪華な室内を見てポツリと呟いた。
私もずっとこの生活に違和感を感じていた。
何でこんなにも家族と違う私が王族なのだ。身分だけあって才能は何一つ持って生まれなかった惨めな私。
前世との違いに戸惑っているだけかと思ってたけど、まさか妖精の取り替え子で元はただの平民だとはね。
妖精って残酷な悪戯を考えるよね……
せめて私にも事前に知らせてくれれば良かったのに。
あの子にだけ伝えて……私にもこんな仕打ちを受けさせるなんて酷いよね。
これも悪戯の内なのかな。
私が悲しみ転落していく姿を笑っているのかな。
暗く濁った感情が私の心を黒く染めていた。
もしかしたら今あの子は本当の家族に会って、幸せな時間を過ごしているのかも……
さっきまで私の家族だった人達と。
そんな考えや感情を持ちながら三日間部屋に閉じ籠っていた。
その間一度も家族からの呼び出しはなかったし、会いにも来てくれなかった。
「国王陛下から手紙でございます。」
お父様が信頼する執事を使って私に一通の手紙を届けた。
そこには議会で妖精の取り替え子が認められたから第二王女はサマンサになった。私は平民になるから持ち物を整理して好きな物を持って行っていいと書かれてあった。
二日後に本物の家族の元へ送り届けるとーー。
何度読み返してもそれしか書かれていなかった。
執事が何か言ってた気がするけど何も覚えていない。
ただ頭にあったのは、自分が捨てられたという事実だけだった。
まぁ彼等にしてみたら本物の我が子より勝る者なんてないのだろうけど。
呆然としながら二日間を過ごし、私は平民となった。
シンプルな紺色のワンピースと白いローブを自分で着て、手入れの行き届いていた栗色の長い髪を一括りにしてまとめた。
荷物は数日分のワンピースと下着数枚だけ。
その他の物には何も手をつけなかった。
誕生日にもらったリボンも髪飾りもドレスも、お姉様とお揃いの宝飾品も置いていった。
たった一度……一度でいいから私が去る前に会いに来てくれたらこの17年間の思い出に持って行っていいか聞けたのにな。
最後の最後まで私に会いに来てくれる者はいなかった。
そして一人寂しく馬車へと乗せられて王城を去った。
でも王城から出してもらえただけ有り難いと思わなきゃいけないのかも。
ただの王女だった私は王城や王家の秘密などの機密事項を知らなかったが、危険を少しでも排除するのなら私を何処かに幽閉する筈だ。
それなのに何の枷もなく平民にしてもらえたなんて、感謝するべきだろう。
連れていかれたのは王都の住宅街にある普通の民家だった。周囲にある家と何の代わり映えもしないありふれた石造りの家だった。
王城から馬車で30分もかかってない。
まさかこんな近くだったなんて……
家の前には私に似た碧色の瞳の男性と栗色の髪の女性がいた。
疲れきった表情で俯いている二人。
どう見ても歓迎している様子ではなかった。
「国王陛下からの慈悲だ。」
私を送り届けてくれた騎士は金貨が入っていると思われる布袋を男性に握らせて去っていった。
何だか手切れ金みたい。
これをやるからもう関わってくるな。そう言われてるみたい。
やるせない気持ちが溢れ、その汚い金を見ていたくなかった。
それは彼等も同じだったらしい。
金貨の入った布袋を地面に叩きつけながら行き場のない怒りを叫んだ。
「何だこの金はっ! まるで金と引き換えにあの子を売ったみたいじゃないか! それにこんな……こんな知らない子を突然……」
「うぅ……どうして……どうしてなのサマンサっ……!」
泣きながら抱きしめあう夫婦の姿に私は漠然と思った。
ここにも私の居場所はないんだろうな。
突然我が子が消えたと思ったら知らない娘が本当の娘と言われて受け入れられる訳がない。
あの人達は受け入れたみたいだけど、この人達は無理のような気がする。
見る限りあの子を愛してるみたいだし。
どれだけの時間、外で立ち尽くしていただろう。
泣き崩れる二人の姿をただ眺めていた。
すると家の中から私より少し歳下に見える青年が現れた。
「いい加減に目を覚ましなよ、父さん、母さん。あの人は自分からお姫様になりに行ったんだよ! ずーーーっと言ってたじゃないか! 自分はこんなみすぼらしい家の子供じゃない! 本来ならもっと幸せな暮らしをしている筈だったって! いつだって俺達の暮らしを馬鹿にして見下していたじゃないか!」
「そ、それは……」
「だけどあの子は私がお腹を痛めて生んだ子で……」
「ハッ! それだけはあの人の言うことが正しかったみたいだね! 妖精の取り替え子っていうのはあながち間違えじゃないと思うよ! どう見てもこの人母さんにそっくりじゃないか!」
興奮気味に私を指差す青年。
青年の言うとおり、私とそこにはいた女性は栗色の髪もそうだが目鼻立ちがかなり似ていた。
妖精の取り替え子。
お伽噺でよくある話だ。平民の彼等とて知っているのだろう。
妖精はかなりの悪戯の好きで美味しそうなお菓子を盗んだり、いきなり突風が吹かせたりしていた。
何か突拍子のない事は妖精の悪戯なんだろうと言われてきた。
妖精が気に入った子供を連れ去ったり、赤子同士を入れ替える。なんて話もあった。
そんなにわかには信じがたい話。
だがこうして目の前に自分達の本当の娘だと名乗る少女が現れた。
「……ッ…………」
息子が言っているのが真実だとわかってはいたが、何と言っていいのかわからずに無言で俯いてしまった夫婦。
怒りなのか悲しみなのか感情が溢れている青年は顔を歪ませていた。
そんな彼等の姿を見て絶望していた自分を捨てて覚悟を決めた。……苦しんでいるのは自分だけではないと知り。
「あの、突然現れて困惑させて申し訳ありません。いきなり本物の娘だと言われても困るのは重々承知しております。……二、三日家に置いていただければ、その間に仕事と住む場所を探して此処から立ち去ります。ですからどうかそれまでこの家に滞在させて頂けないでしょうか。」
この家の娘として生きるのは無理だ。
彼等に精神的苦痛を与えてしまう。
そう思った私は数日間だけ助けてくれと頭を下げた。
自分達とは違い、艶々の輝く髪や肌を持った王女様。
苦労なんて何もした事のない傲慢な少女だと決めつけていた彼等は平民の自分達に簡単に頭を下げる姿に驚いた。
命令ではなく、頭を下げて助けを乞うなんて……
「何で……あんただって被害者じゃないか。何で怒らないんだ。こんな家に捨てられて、此処でも受け入れて貰えなくて……どうしてそんな簡単に納得出来るんだ。」
信じられない者を見るように私を見つめてくる。
「どうしようもない理不尽はこの世界の至る所に溢れています。私もこの容姿や本来の平民としての実力で生まれてとても苦労しました。怒り狂いたい気持ちは昔からあります。でも仕方ないと諦める事にも慣れているのも事実。だからこれは諦めや納得ではなく自分が前に進むために割りきっただけ。これから続く人生を嘆いて生きるだけなんて嫌なんです! ドン底に落とされたとしても何度でも立ち上がってみせると決めているの! 私は私の人生を諦めたりしない!」
力強く言いきった私に清々しい風が吹き去っていった。
悲しみや憎しみや怒り。
私の中に残っていた黒い感情を消し去るような清らかな風であった。
やってやるわ!
王女でいた時よりも幸せになってみせる!
平民になったけど、私は不幸なんかじゃない!
言い聞かせるように自分の中で決意を固めた。
国王陛下はこの件に関して王家の決断を待つように伝え、その場にいた者達へ箝口令を敷いた。
気がついたら私も自室に帰って横になっていた。
いつ部屋に戻ってきたのか、服をどうやって着替えたのかも、あれから誰かと話したのかさえ覚えていなかった。
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妖精って残酷な悪戯を考えるよね……
せめて私にも事前に知らせてくれれば良かったのに。
あの子にだけ伝えて……私にもこんな仕打ちを受けさせるなんて酷いよね。
これも悪戯の内なのかな。
私が悲しみ転落していく姿を笑っているのかな。
暗く濁った感情が私の心を黒く染めていた。
もしかしたら今あの子は本当の家族に会って、幸せな時間を過ごしているのかも……
さっきまで私の家族だった人達と。
そんな考えや感情を持ちながら三日間部屋に閉じ籠っていた。
その間一度も家族からの呼び出しはなかったし、会いにも来てくれなかった。
「国王陛下から手紙でございます。」
お父様が信頼する執事を使って私に一通の手紙を届けた。
そこには議会で妖精の取り替え子が認められたから第二王女はサマンサになった。私は平民になるから持ち物を整理して好きな物を持って行っていいと書かれてあった。
二日後に本物の家族の元へ送り届けるとーー。
何度読み返してもそれしか書かれていなかった。
執事が何か言ってた気がするけど何も覚えていない。
ただ頭にあったのは、自分が捨てられたという事実だけだった。
まぁ彼等にしてみたら本物の我が子より勝る者なんてないのだろうけど。
呆然としながら二日間を過ごし、私は平民となった。
シンプルな紺色のワンピースと白いローブを自分で着て、手入れの行き届いていた栗色の長い髪を一括りにしてまとめた。
荷物は数日分のワンピースと下着数枚だけ。
その他の物には何も手をつけなかった。
誕生日にもらったリボンも髪飾りもドレスも、お姉様とお揃いの宝飾品も置いていった。
たった一度……一度でいいから私が去る前に会いに来てくれたらこの17年間の思い出に持って行っていいか聞けたのにな。
最後の最後まで私に会いに来てくれる者はいなかった。
そして一人寂しく馬車へと乗せられて王城を去った。
でも王城から出してもらえただけ有り難いと思わなきゃいけないのかも。
ただの王女だった私は王城や王家の秘密などの機密事項を知らなかったが、危険を少しでも排除するのなら私を何処かに幽閉する筈だ。
それなのに何の枷もなく平民にしてもらえたなんて、感謝するべきだろう。
連れていかれたのは王都の住宅街にある普通の民家だった。周囲にある家と何の代わり映えもしないありふれた石造りの家だった。
王城から馬車で30分もかかってない。
まさかこんな近くだったなんて……
家の前には私に似た碧色の瞳の男性と栗色の髪の女性がいた。
疲れきった表情で俯いている二人。
どう見ても歓迎している様子ではなかった。
「国王陛下からの慈悲だ。」
私を送り届けてくれた騎士は金貨が入っていると思われる布袋を男性に握らせて去っていった。
何だか手切れ金みたい。
これをやるからもう関わってくるな。そう言われてるみたい。
やるせない気持ちが溢れ、その汚い金を見ていたくなかった。
それは彼等も同じだったらしい。
金貨の入った布袋を地面に叩きつけながら行き場のない怒りを叫んだ。
「何だこの金はっ! まるで金と引き換えにあの子を売ったみたいじゃないか! それにこんな……こんな知らない子を突然……」
「うぅ……どうして……どうしてなのサマンサっ……!」
泣きながら抱きしめあう夫婦の姿に私は漠然と思った。
ここにも私の居場所はないんだろうな。
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あの人達は受け入れたみたいだけど、この人達は無理のような気がする。
見る限りあの子を愛してるみたいだし。
どれだけの時間、外で立ち尽くしていただろう。
泣き崩れる二人の姿をただ眺めていた。
すると家の中から私より少し歳下に見える青年が現れた。
「いい加減に目を覚ましなよ、父さん、母さん。あの人は自分からお姫様になりに行ったんだよ! ずーーーっと言ってたじゃないか! 自分はこんなみすぼらしい家の子供じゃない! 本来ならもっと幸せな暮らしをしている筈だったって! いつだって俺達の暮らしを馬鹿にして見下していたじゃないか!」
「そ、それは……」
「だけどあの子は私がお腹を痛めて生んだ子で……」
「ハッ! それだけはあの人の言うことが正しかったみたいだね! 妖精の取り替え子っていうのはあながち間違えじゃないと思うよ! どう見てもこの人母さんにそっくりじゃないか!」
興奮気味に私を指差す青年。
青年の言うとおり、私とそこにはいた女性は栗色の髪もそうだが目鼻立ちがかなり似ていた。
妖精の取り替え子。
お伽噺でよくある話だ。平民の彼等とて知っているのだろう。
妖精はかなりの悪戯の好きで美味しそうなお菓子を盗んだり、いきなり突風が吹かせたりしていた。
何か突拍子のない事は妖精の悪戯なんだろうと言われてきた。
妖精が気に入った子供を連れ去ったり、赤子同士を入れ替える。なんて話もあった。
そんなにわかには信じがたい話。
だがこうして目の前に自分達の本当の娘だと名乗る少女が現れた。
「……ッ…………」
息子が言っているのが真実だとわかってはいたが、何と言っていいのかわからずに無言で俯いてしまった夫婦。
怒りなのか悲しみなのか感情が溢れている青年は顔を歪ませていた。
そんな彼等の姿を見て絶望していた自分を捨てて覚悟を決めた。……苦しんでいるのは自分だけではないと知り。
「あの、突然現れて困惑させて申し訳ありません。いきなり本物の娘だと言われても困るのは重々承知しております。……二、三日家に置いていただければ、その間に仕事と住む場所を探して此処から立ち去ります。ですからどうかそれまでこの家に滞在させて頂けないでしょうか。」
この家の娘として生きるのは無理だ。
彼等に精神的苦痛を与えてしまう。
そう思った私は数日間だけ助けてくれと頭を下げた。
自分達とは違い、艶々の輝く髪や肌を持った王女様。
苦労なんて何もした事のない傲慢な少女だと決めつけていた彼等は平民の自分達に簡単に頭を下げる姿に驚いた。
命令ではなく、頭を下げて助けを乞うなんて……
「何で……あんただって被害者じゃないか。何で怒らないんだ。こんな家に捨てられて、此処でも受け入れて貰えなくて……どうしてそんな簡単に納得出来るんだ。」
信じられない者を見るように私を見つめてくる。
「どうしようもない理不尽はこの世界の至る所に溢れています。私もこの容姿や本来の平民としての実力で生まれてとても苦労しました。怒り狂いたい気持ちは昔からあります。でも仕方ないと諦める事にも慣れているのも事実。だからこれは諦めや納得ではなく自分が前に進むために割りきっただけ。これから続く人生を嘆いて生きるだけなんて嫌なんです! ドン底に落とされたとしても何度でも立ち上がってみせると決めているの! 私は私の人生を諦めたりしない!」
力強く言いきった私に清々しい風が吹き去っていった。
悲しみや憎しみや怒り。
私の中に残っていた黒い感情を消し去るような清らかな風であった。
やってやるわ!
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