上 下
43 / 48

ナーフの場合

しおりを挟む
騎士がナーフを扉の外に押し出した。
ナーフはドレスに足を取られて床に手をついたが、騎士は構わず扉を閉めた。
扉の向こうからは楽しげな声と音楽が聞こえる。
貴族の学園の卒業パーティー。
ナーフは断罪された。
無実だったわけではない。
一目惚れした公爵家嫡男に振り向いてもらいたくていろいろやった。
いろいろ。
だって嫡男には婚約者がいて、伯爵令嬢のナーフがただ自分を磨いただけでは一歩も近づくことは出来なかったから。
嫡男に出会った8歳から自分を磨き、人脈を作り、事業を起こしてお金を作った。
有り余るお金と人脈で婚約者を蹴落とそうとした。
望みは叶わなかったけど。
扉の向こうで嫡男と婚約者が踊っているであろう。
ナーフはポロポロと涙を流した。
がんばった。
わたしはがんばった。
それだけは確かだ。
とぼとぼと歩くナーフを両親が追いかけてきた。
怒られると身構えたが、二人はただナーフを抱きしめてくれた。

卒業パーティーの晩から、ナーフは二日間眠り続けた。
一目惚れした日から、あらゆることに全力で取り組み、睡眠を削ってきた反動だったのだ。
たっぷり寝て、すっきりした頭で目を覚ました。
いい天気だった。
もうすぐ春。
ほんのりと温かい陽気は、窓の外から鳥の声が聞こえてくる。

目覚めたナーフを両親は涙を流して喜んでくれた。
思えば両親を振り回してしまった。
もう返済したが事業を始める資金をだしてくれ、公爵嫡男と結婚したいというナーフのために我が家の後継を作ろうと高齢で出産に挑んだことも知っている。
整えてはあるものの、子を思いなくその姿にナーフは初めて両親の老いを感じた。
これからは両親を大切にしないと。
そうナーフが考えたところで執事がが手紙を届けてきた。
母のはとこの子、隣国の第二王子の2日後の来訪を告げる手紙だった。
あら。
とは母。
なんだか不思議そう。
普段あまりはとこ同士の交流がないのにいきなりその子からの連絡に首を傾げている。
ナーフの機嫌は急降下する。
学園には隣国からの留学生も何人もいる。
母は、どこかぽやっとした天然な人がだから不思議ねで終わりだが父はちょっと思うところがあるようだ。
それから3件、来訪予約の手紙が届いて疑念は確信に変わる。
公爵家の三男は嫡男の五つ下の弟
男爵家次男は同級生
領地が隣り合う伯爵家嫡男はナーフの幼なじみ
最後に伯爵家嫡男からの手紙が届いてナーフの疑惑は確信に変わる。
どいつもこいつもナーフが断罪されてチャンスだと食いついてきたのだ。
側近候補の公爵家嫡男との因縁を逆手に取っておくために、兄を蹴落とすために、フラレ女をもらってやる心広い男な俺に、隣の領地を取り込むついでにもらってやる優しい俺。
血縁だなんていうけれど隣国の王家と血縁な貴族など掃いて捨てるほどいる。
最近では前国王の妹の孫が公爵家の当主だ。
相手が弱ったところで善人面して寄ってくる男など最低。
誰1人としてナーフに苦言を呈するどころか無視してたくせに君は被害者?
これ以上キミへの理不尽を見過ごせない?
おじが学園に影響力がある?
これは笑うべきなのかしら。
公爵家嫡男は婚約者を愛し守った。
私は恋に敗れた。
それだけだ。
私の恋した公爵嫡男は卑怯なことはしていない。
卒業パーティーに乗り込んで逆プロポーズしたのは私。
手を取ってもらえなかったのだから、摘み出されたのは当然のこと。
卒業生でもないのに卒業パーティーに乗り込んだナーフが学園から処分を受けたのも当然だ。
もちろん1ヶ月の謹慎も受け入れるし反省文も書く。
退学などしないで学園を卒業する。
結婚して伴侶の権力で仕返ししようとか、よしよしいい子いい子してもらう必要はないのだ。
だってナーフは後悔してない。
公爵家嫡男は本当にいい男だった。
あの人に恋してよかった。
並び立ちたいと自分を奮い立たせて努力する原動力になる人だった。
おかげでナーフ個人もナーフの商会もこの国有数の資産を持つに至っている。
ナーフにとって破れても何かを残すのが恋だと思う。
そんなナーフにとって手紙をくれた男たちは「論外」であった。
ナーフは伯爵家を継ぐ。
公爵家嫡男には手が届かなかったが、きっと同じくらいいい男は他にもいるはずだ。
初恋は終わった。
とりあえず、利益度外視してお付き合いしてきた公爵家との商売を見直して適正価格の取引に変更。
取引してこなかった嫡男の婚約者家とは取引を開始しよう。
それはけじめ。
さあ、つぎにいこう。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

これぞほんとの悪役令嬢サマ!?

黒鴉宙ニ
ファンタジー
貴族の中の貴族と呼ばれるレイス家の令嬢、エリザベス。彼女は第一王子であるクリスの婚約者である。 ある時、クリス王子は平民の女生徒であるルナと仲良くなる。ルナは玉の輿を狙い、王子へ豊満な胸を当て、可愛らしい顔で誘惑する。エリザベスとクリス王子の仲を引き裂き、自分こそが王妃になるのだと企んでいたが……エリザベス様はそう簡単に平民にやられるような性格をしていなかった。 座右の銘は”先手必勝”の悪役令嬢サマ! 前・中・後編の短編です。今日中に全話投稿します。

婚約破棄されたので王子様を憎むけど息子が可愛すぎて何がいけない?

tartan321
恋愛
「君との婚約を破棄する!!!!」 「ええ、どうぞ。そのかわり、私の大切な子供は引き取りますので……」 子供を溺愛する母親令嬢の物語です。明日に完結します。

変な転入生が現れましたので色々ご指摘さしあげたら、悪役令嬢呼ばわりされましたわ

奏音 美都
恋愛
上流階級の貴族子息や令嬢が通うロイヤル学院に、庶民階級からの特待生が転入してきましたの。  スチュワートやロナルド、アリアにジョセフィーンといった名前が並ぶ中……ハルコだなんて、おかしな

悪役令嬢は断罪イベントをエンジョイしたい

真咲
恋愛
悪役令嬢、クラリスは断罪イベント中に前世の記憶を得る。 そして、クラリスのとった行動は……。 断罪イベントをエンジョイしたい悪役令嬢に振り回されるヒロインとヒーロー。 ……なんかすみません。 カオスなコメディを書きたくなって……。 さくっと読める(ハズ!)短い話なので、あー暇だし読んでやろっかなーっていう優しい方用ですです(* >ω<)

勝手にしなさいよ

恋愛
どうせ将来、婚約破棄されると分かりきってる相手と婚約するなんて真っ平ごめんです!でも、相手は王族なので公爵家から破棄は出来ないのです。なら、徹底的に避けるのみ。と思っていた悪役令嬢予定のヴァイオレットだが……

私を選ばなかったくせに~推しの悪役令嬢になってしまったので、本物以上に悪役らしい振る舞いをして婚約破棄してやりますわ、ザマア~

あさぎかな@電子書籍二作目発売中
恋愛
乙女ゲーム《時の思い出(クロノス・メモリー)》の世界、しかも推しである悪役令嬢ルーシャに転生してしまったクレハ。 「貴方は一度だって私の話に耳を傾けたことがなかった。誤魔化して、逃げて、時より甘い言葉や、贈り物を贈れば満足だと思っていたのでしょう。――どんな時だって、私を選ばなかったくせに」と言って化物になる悪役令嬢ルーシャの未来を変えるため、いちルーシャファンとして、婚約者であり全ての元凶とである第五王子ベルンハルト(放蕩者)に婚約破棄を求めるのだが――?

婚約破棄ですか? 国王陛下がいますよ?

マルローネ
恋愛
子爵令嬢のエリスは伯爵である婚約者のモトレーに婚約破棄をされた。 理由はモトレーの浮気であるが、慰謝料すら払わないとする始末。 大事にすれば子爵家は崩壊すると脅されるが、この話が国王陛下に伝わり……。

悪役令嬢はどうしてこうなったと唸る

黒木メイ
恋愛
私の婚約者は乙女ゲームの攻略対象でした。 ヒロインはどうやら、逆ハー狙いのよう。 でも、キースの初めての初恋と友情を邪魔する気もない。 キースが幸せになるならと思ってさっさと婚約破棄して退場したのに……どうしてこうなったのかしら。 ※同様の内容をカクヨムやなろうでも掲載しています。

処理中です...