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メリーアンの場合

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ふざけるな!
離しなさいよ!
わたしを誰だと思っているの。
その女が悪いのよ、わたしは被害者よ!
はなせはなせはなせ
兵士はメリーアンを室内に突き飛ばし、鍵をかける。
硬くしまった扉をどんどん叩く音が響く。
兵士はやれやれと肩をすくめて去って行った。
この先、この扉が開くことはない。
毎日2回、食事が小さな窓から入れられるだけ。

兵士は思う。
栄華を極めた公爵家の、わがまま令嬢が惨めに扉を叩いていると。
さぞかし手が痛かろうよと。

王は思う。
王よりも金持ちになった公爵家は取り潰し。
姉が相続して、降嫁した時に持っていったあのエメラルドは王家のものとしよう。

王子は思う。
愛する婚約者をいじめたメリーアンは生涯幽閉となった。
これで自分の王位継承を脅かすものはいなくなった。

貴族は思う。
メリーアンの悪事が暴かれてよかった。
毒に火薬に。
公爵家は力を持ち過ぎた。
メリーアンは賢過ぎた。

平民は思う。
上がどうなろうと変わりはしない。毎日働いて、生きていくだけだ。

メリーアンを知る人は思う。
表の権力も裏とのつながりもあるあの娘。
本当に王子妃を狙うかな。
あの、賢くて性格の悪い娘が。
確かに王子の婚約者を嫌ってはいたが。



















さて、兵士の足音が遠かったからもういいだろう。
「もういいわ」
侍女のルチアに扉を叩くのをやめさせて、階段を上がる。
西の塔。
ここは罪を犯した王族を幽閉する場所。
階段の上の扉の前でもう一人の侍女のアリーが待っていた。
「お待たせ」
「お待ちしておりましたお嬢様」
わたし好みのシンプルかつ見る目があれば価値がわかる内装に改装された室内は過ごしやすそうだ。
広さもあるし、侍女達の部屋も作れる部屋数もある。
快適な『別荘』だわ。
早速アリーが入れてくれたお茶と焼き菓子をいただく。
それにしても本当に簡単ですこと。
王子の婚約者をいじめるなんてそんなこと、私が自分ですると思ってるのかしら。
私を巻き込んで婚約を破棄しようなんて、お馬鹿さんは嫌いよ。
お父さまも存分にすればいいとおっしゃってくださいました。
だからあえてそれらしくしてあげました。
お母さまが生きていらしたら、止められたかもしれませんわね。
証拠もなくわたしを断罪したのは、王家にとって私と公爵家が目障りだったからでしょう。
公爵令嬢であり、王位継承権第二位であるわたしが。
予想通りです。
処刑は流石に困ります。
でもそれは王家にとっても同じこと。
他の貴族の手前もありますから。
幽閉されるだろうと踏んで、あらかじめ準備をしておきました。
塔の内装に手を加え、通路を作る。
快適です。
しかも、わかっていますかみなさん。
私は幽閉されています。
アリバイがあるのです。
これからこの国で何が起こっても、私のせいではないのです。
これからを思うと、たのしくてたまりません。
今頃下ではうまく行ったと王族達は浮かれているかしら。
さて、いつまで持つかしら。
例えば、来年の王の即位30年の記念品。
王子が用意したという触れ込みで国民に配られる記念品の明かりの魔道具。
私の準備した仕様書を王子はちゃんと確認したかしら。
欠陥品が配られて国中で爆発が起こるなんてことはないでしょうね。
賢く責任ある王子様ですもの。
年下の従姉妹の作った仕様書をそのままなんてこと、あるはずありません。
そうそう、隣国が我が国に麻薬を密輸しようとしています。
わたしが管理するルートですと国内で回る量をきちんと調節していました。
だって国が荒れたら税収が減るではないですか。
でも一度好き勝手に麻薬が流れ込むとどうなるか見てみてみるのも面白いと思うのです。
ああ、他にも色々楽しみですわ。









王子の婚約者は思う。
これでわたしの王子妃となる道は決まった。
メリーアン様に耐えられないと辞退したかっただけなのに。
王子妃候補の中でもそんなに上の位置ではなかったのに。

もう、子供の頃からお慕いしていたあの方と結ばれることは出来ない。
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