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第三章 最強への道

45:新しい奴隷、再び

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 秋にガッツリと畑の税金が取られてしまったが。
 俺たちは気を取り直して、残った収穫物を楽しんだ。

 家に製粉機がなかったので、王都に小麦を運んで製粉してもらう。
 さらにその小麦粉をパン屋に持ち込んでパンを焼いてもらう。
 それぞれの場所で手数料と税金(また税金だよ)が取られた。

「これじゃあ普通にパンを買うのと値段的に大差ないよな」

「そうですね……」

 エリーゼもがっかりしている。
 だがもう一度気を取り直そう。

 今回王都パルティアまで来たのは、パンを焼くためだけではない。
 人手不足解消のため新しく奴隷を買いに来たのだ。
 人を『買う』という行為は何度やっても慣れない。慣れたくもない。
 けれど自分の利益のためにやるのだから、俺もあさましくなったものだ。

 奴隷市場に行って、希望を伝えた。
 レナとバドじいさんの生産スキルの助手。
 エリーゼの店舗経営の補佐。
 イザクの農業の助手。
 警備兼ダンジョン攻略要員の戦闘職。
 それからエミルの年の近い友だちだ。

「ユウ様ですね。お噂はかねがね。かなり稼いでいらっしゃるとのことで、羨ましいですなあ」

 奴隷商人の態度は前よりも明らかにゴマをすっていた。
 どうやら俺の店の評判が王都まで届いているらしい。
 そりゃ、お役人に目をつけられるよな。

 奴隷たちを何人も物色……いいや面接して、今いるメンバーの相性も考えながら選んだ。
 こっそり考えている開拓村計画のこともある。
 人数は多めに。でも慎重に選ばないといけない。

 エリーゼと相談しながら進めた結果、今回は六人を買うことにした。
 全員分で金貨九枚である。
 今の俺のお財布は、商売とダンジョンの利益で相当潤っている。
 金貨九枚でもどうということはない。

「毎度ありがとうございます! たくさん買っていただいたので、子供をおまけにつけましょう。お代はけっこうですよ、その代わりまたごひいきに」

「む……」

 エミルの友人にと少女を一人買ったので、十分といえば十分なのだが。
 連れてこられた少年は、奴隷らしく痩せて不健康だった。こんな姿を間近に見れば放っておけない。

 子供の奴隷は値段が安くて人気がないんだよな。
 理由は、一人前になるまで時間がかかるからだ。その間、食わせたり仕事を教えたりしなきゃならんからな。
 あと子供は体力がなくて病気などでよく死ぬ。
 死んだら奴隷商人としては大損だ。
 だからこうして押し付けようとするんだろう。

「あまり身勝手な理由で押し付けるなよ。俺だって養うのが大変なんだ」

 同情で引き取ると知られたら、足元を見られる。
 俺は虚勢を張って冷たい口調で言ってみた。
 隣でエリーゼが無表情を装って、必死に笑いを噛み殺しているのが分かる。お見通しだな。

 というわけで、俺たちは新しい奴隷と自家製小麦で焼いたパンを持って家に戻ったのだった。






 家は人数が増えるのを見越して増築が済んでいる。
 元からいるメンバーに、自分の助手になる奴隷の面倒をきちんとみるよう頼んだ。
 少し時間はかかっても、この家に馴染んでほしいと思っている。

「よろしくね!」

 エミルは同じ年頃の少年と少女がやってきて、とても嬉しそうだ。
 新しく買った子らはパルティア人。
 こうして見ると、エミルの色白さと色素の薄さが目立つ。

「エミル、ちょっといいか?」

「はい、ユウ様」

 エミルの経歴書には『種族:パルティア人』とある。
 違和感を確かめるのに、俺は聞いてみることにした。一応、他の子とは別の部屋でな。

「エミルの両親はどんな人なんだ? ほら、お前は他のパルティア人と髪や目の色がちょっと違うだろ。不思議に思って」

「…………」

 彼は目を伏せてしまった。
 子供が奴隷になるような状況だ。トラウマに触れてしまったかもしれん。

「すまん、言いたくなければいいんだ」

 エミルはゆっくりと首を振って話し始める。

「おとうさんは、会ったことがありません。僕がうんと小さいときに、死んじゃったみたいです。おかあさんは、僕が六歳のときに病気で死にました」

 あああ、やっぱり重い話だった!
 俺が内心でワタワタしていると、エミルはゆっくりと続けた。

「おかあさんはよく、昔話をしてくれました。北の雪が降る場所の話です。おかあさんは寒い土地の生まれで、あるときパルティアまで旅をしたら、奴隷商人に捕まってしまったんだって。おとうさんとは奴隷になってから知り合って、結婚はできなかったけど、愛し合っていたって」

 なるほど、やはり異民族の血を引いているのか。
 ただし父親がパルティア人だから、この子もパルティア人ということになっている。そんなわけだ。

「おかあさんは寒い土地の偉い人の娘で、お嬢様だったんだよって言っていました。ほんとかなぁ……」

 そこまで言って、エミルの青い瞳から涙がこぼれ落ちた。

「奴隷がお嬢様のわけないよって言ったら、おかあさんは悲しそうで。僕はおかあさんを悲しませちゃった……。嫌われたかも……」

 ボロボロと泣き続ける彼を、俺は抱き上げてやった。
 最近はしっかり肉がついて背も伸びたけど、まだまだ軽い子供の体重だった。

「大丈夫だ。色んな話をしてくれた優しい人が、お前を嫌いになるわけがない。心配しなくても、大丈夫」

「うぐっ……泣いてごめんなさい。奴隷市場で泣いてたら、鞭で叩かれたから」

「俺もこの家の誰もそんなことはしない。分かっているだろう」

「……うん」

 エミルはそれからしばらく泣いて、やっと落ち着いた。
 俺に抱っこされたのが恥ずかしかったらしく、途中からジタバタしていたな。

「僕が泣いたの、他の子にないしょにしてください」

「分かった」

 エミルは大切な仲間だ。
 けれど同じ年頃の子が二人来た以上、彼だけを大事にすると無用なトラブルを生んでしまうかもしれない。
 俺はみんなの仕事仲間だが、同時に奴隷の主人でもある。
 ……難しいなぁ。

 それでもエミルの話を聞いて良かったと思った。
 この子は今までいい子すぎるほどいい子だった。もう少し年相応の感情を出してもいいはずだ。
 新しく来た二人の子のことも、なるべく気にかけておこう。

 新しいメンバーを迎えた日は、そんなふうに始まった。
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