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第十二節「折れた翼 友の想い 希望の片翼」

~翠 星 剣~

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 サヴィディアが槍を構えて狙いを見据えて。
 勇がそれを迎え撃つ様に魔剣を傾けて備える。

 まさに一触即発。
 何かの拍子に暴発してしまいそうな雰囲気だ。



 だがそんな二人の意識を、突如として激音が掻き乱した。



 いや、実際には徐々に近づいていたのだが。
 集中していた二人は間近に来るまで気付けなかった様だ。

 たった今空で、一機のヘリコプターが通過した事に。

「うッ!? なんだッ!? なんでヘリがここにッ!?」

「無粋な……!」

 しかもただ過ぎ去ったのではない。
 すぐさま旋回し、島の上へとまた舞い戻っていて。

 それどころか勇達の頭上遥か先でホバリングして見せるという。

 でもこれは明らかな自殺行為だ。
 こんな事をすればあのサヴィディアが黙っている訳も無い。

「またあの空飛ぶ鉄塊か……おのれ、鉄屑如きが。神聖な決闘を邪魔するなど、許しがたしッ!!」
 
 するとその時、サヴィディアが片腕を水平へと伸ばしていて。
 途端兵士の一人が石槍を放り、その手の下へ。

 そんな槍を受け取るや否や、その身を大きく仰け反らし始める。
 槍を力強く引き絞らせながら。

 そう、サヴィディアは撃ち落とす気なのである。
 先日の映像に映っていたヘリコプターと同様に。

 つまり、あれをやったのもこの男だという事だ。

「ッ!? ダメだあッ!! くっそおおおーーーッッ!!!」

 それに気付いた勇が咄嗟に飛び上がる。
 叫んでも間に合わないと踏んだのだろう。

 今までの戦いではっきりとわかっていた。
 サヴィディアという者ならばヘリコプターを撃墜する事も普通に出来るのだと。
 そして堕とす事になど一切躊躇しないという事も。

 ならばもう、槍が放たれるのは必然だった。

「消え去れぇいッ!!」

 たちまち、戦神の身体から肉音が響く。
 全身を捻り、縮ませ、引き絞られる音が。
 それと同時に石槍が軋みを上げて光を放って。

 間も無く、一閃となって空を裂いた。

 凄まじい速度だった。
 まるで光線の如く、それも一切衰える事無く一直線で飛ぶ程に。
 これ以上無い殺意を纏ったまま、ヘリコプターへと向けて。



 だがこの時、勇はもう躊躇わなかった。
 例え何をしてでもこのヘリコプターは守らなければならないのだと。



 跳躍して今やっと、勇には見えたのだ。
 ヘリコプターの中に乗っていた人物が誰だったのかを。

 なんとカプロが乗っていたのである。

 どうして乗っているかなんてわからない。
 どうしてここまで来たのかなんてわからない。
 だけど理由なんてどうでも良かったのだ。

 今親友の命が危機に晒されている。
 ならば、何としてでも守らなければならないのだと。

「おおおーーーッ!!!」

 だから今、勇は命力を籠めた魔剣を投げ付けていた。
 迫る槍へと向けて力の限り。



バッキャァァァーーーーーーンッッッ!!!!



 そのお陰で見事、槍は打ち砕かれる事に。
 ただし【エブレ】という相棒を犠牲にして。

「よし――ッ!?」

 しかしそうやり切って落下しようとしていた時だった。
 そんな勇の視界に思ってもみなかった光景が映り込む。

 なんとカプロが何かを掲げながら身を乗り出していて。
 それも御味に掴まれながら、必死で何かを訴えているではないか。

「勇さぁんッ!! これを使うッスーーーッ!!」

 そして遂には掴んでいた何かを放り投げていて。
 その物体は間も無く、伸ばした勇の手に掴まれる。

「こ、これはッ!?」

 直後に着地を果たすも、その視線は渡された物へ。

 細長い、何かだった。
 それでいて布に包まれ、中身はまだわからない。
 ただとても重厚で重みを感じるも、片手で持てるくらいの重さで。

 だけど何やら不思議な力を感じる。
 何となくだが、この物体に籠められた想いが伝わってくるのだ。

 〝力を、奮え〟と。



「それが勇さんの専用魔剣ッス!! その名も――【翠星剣すいせいけん】ッ!!」



 そんな想いが、カプロの叫びが、勇を突き動かす。
 包んだ布を破り、放り捨てる程の気迫の下に。

 こうして現れたのは、一本の剣だった。

 翡翠色の刃を持ち。
 白銀の刀身が輝きて。
 黄金の装飾が瞬き照らす。
 そして今、勇の命力を受けて光を纏おう。

 その手で掲げられた剣こそ、勇が為の剣。



 その名も【翠星剣】。
 勇とカプロ、二人の誓いが産んだ――唯一無二の魔剣である。



「ほう、それが貴公の有する真の魔剣という訳か」

「ああ、ようやく完成した……俺の為の魔剣だッ!!」

「何ッ!?」

 その意匠はまさに唯一無二。
 レアメタルをふんだんに使用し、現代の技術をも盛り込んで。
 カプロの魂もが籠り、刀身そのものに力さえ感じさせてくれる。

 加えて、本当に持ち易かった。
 まるで今まで使い続けて来た剣かと思える程に。
 それだけ取り回し易くて、長さも重さも丁度いい。

 カプロの技術を堪らず褒めたくなるくらいだ。

「――だが、その魔剣からはまるで力が感じられぬ。只の鉄の棒ではないか」

「いいや違うッ!! 力は、ここにあるッッ!!!」

「うッ!? それはまさかッ!?」

 そう、力が無い事もまたカプロの思惑通りなのだから。
 勇の魔剣【翠星剣】を最大限に活用する為のギミックの一部として。

 この時取り出されたのはあの巨大命力珠。
 触れるだけで相手を死に至らしめられる殺人珠である。

 サヴィディアもその命力珠の意味を知っているのだろう。
 だからこうして驚きを隠せないでいて。

「勇さんッ!! そいつを魔剣に刺し込むッスよおッ!!!」
「わかったッ!!」

 そんな注目を浴びる中で、とうとう命力珠が菱形格子ごと魔剣へ。
 刀身と鍔の間に開かれた大穴へと刺し込まれる。

 すると途端、命力珠が勝手に動く。
 回転し、位置を合わせ、窪みに揃えて装填して。
 それもまるで、どう動けば嵌るのかを知っているかの様に。

 そうして嵌り込んだ時、鍔底部の小さい珠が音を立てて内部へ。
 命を繋ぐ為の命力珠が主珠へと力を託したのである。

「翠星剣――俺に力を貸せ! その力を、今ここで示してみせろよッ!!」

 なれば本懐が差し込まれた今、その力は遂に魔剣へと伝わる事に。



 その時、たちまち魔剣が輝いた。
 所持者である勇と共に。
 鋭い鳴動音を響かせながら。

 その輝き、目を覆わなければならない程に強く神々しく。



「お、おお……ッ!? これが魔剣、だと……ッ!?」

「そうだ。親友が俺の為に必死に考え、悩み、構築してくれた――誓いの結晶なんだッ!!」

 命力珠に溜められた命力は既に最大だ。
 そのお陰で尋常ではない命力量を見せつけてくれた。
 あの戦神サヴィディアが驚愕し、怯み、堪らず歩を退かせてしまう程の。

 その誓いの結晶を水平に奮い、命力を迸らせる。

 たったそれだけだった。
 たったそれだけで、直下の大地が削れて弾け飛んで。
 更には矛先の遥か先に居た雑兵達が突如として弾き飛ばされていく。

 それだけの力を誇っていたのだ。
 最大値の命力を全て強化へと回しただけで。

 さすがカプロが最強の魔剣になると宣っただけの事はある。
 威力が余りにも凄まじ過ぎて、勇自身が怯んでしまう程だ。

「加減が難しいな……けどッ! それでも俺はこの力を奮ってアンタを――倒すッ!!」

「……そうか、ならば我も全てを振り抜こうッ!! 貴公のその覚悟に応えてえッ!!」

 故にサヴィディアも覚悟を決める。
 〝この戦いにもはや無血決着は無し〟と。
 今の勇に無事なまま勝てるとはとても思えなかったからこそ。



 こうして今、勇が新たな力を手に入れた。
 【翠星剣】――カプロの想いが詰まった最強の魔剣を。

 この力を以て、勇は戦う。
 例えそれがどんな結末をもたらそうとも。
 力を奮わなければならない時が今ならば、もう躊躇いはしない。


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