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第十二節「折れた翼 友の想い 希望の片翼」
~その一閃、決闘を決す~
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もしも敵が意図的に加減した場合、対して起こす行動は基本二つある。
一つはそのチャンスを生かして全力で立ち向かう事。
怨恨などで相対している場合もこちらにあたる。
〝よくも加減しやがったな、舐めやがって許さねぇ〟といった風に。
もう一つは、同様に加減するという事だ。
スポーツマンシップなどはこちらにあたる。
〝加減するならばこちらも正々堂々と合わせよう〟といった風に。
【ナイーヴァ族】のスタンスはどちらかと言えば後者だ。
己の命をも顧みないという点は他の魔者と同じだけども。
それでも戦いに向けた意気込みは誰よりも誇り高い。
でなければ今頃、人間の街【アゾーネ】など残ってはいないだろうから。
では王ほどの実力者な場合、そんな志はどうなるか。
その答えが――決闘である。
他の誰にも邪魔されず、一対一という戦いを繰り広げる事を良しとして。
その上で高めた力を存分に奮い、死力を尽くし合う。
最後まで立ち続ける事を己が力の証明とするのだ。
生か死か。
力を比べるという純粋な欲求に、加減などそもそもが有り得ない。
故に彼等は全力で挑み、戦うのだ。
例え相手が蟻の様な小物であろうとも。
その類稀なる力を誇示し、己を見る者達へ畏怖を轟かせる為に。
「かあああーーーーーーッッッ!!!!」
「フゥオオオーーーーーーッッッ!!!!」
火花が散る。
命力が舞う。
三本の魔剣が戦いを奏で彩る度に。
まさに曲を奏でているかの様だった。
それ程までに連続的で、かつリズムを感じられる程に音程さえハッキリとしていて。
その上で互いに躱しきり、戦意をなお剥き出しにしている。
凄まじい剣戟である。
それも高速移動を繰り返しての。
サヴィディアが距離を取り、マヴォが追う。
互いに感情のまま大きな笑みを浮かべながら。
そうして戦場を駆け抜ける姿はまるで恋人同士の戯れにさえ見えなくもない。
それだけ愛おしいのだ。
こうして殺し合うという戦いそのものが。
ならば奏でられた曲はさしずめ、愛と血の輪舞曲か。
しかしそんな曲がたちどころにしてリズムを変える。
マヴォが更に一段、速度のギアを上げた事によって。
「鍔突き、鞘払、三寸小手打ちィ!!」
「ちぃぃッ!?」
「どうしたどうしたァ!! 俺はまだまだ止まらねぇぞぉ!!」
二本の魔剣を自在に操るマヴォにとって、長得物は恰好の的だ。
その素早い斧捌きで槍を打ち、攻撃さえも封じ込めていて。
お陰で今やサヴィディアは防戦一方に。
しかもそんな中で更にマヴォが戦意を高める。
異様な輝きを斧から迸らせながら。
「両利きがお前の真骨頂だと言ったなッ!! なら俺も見せてやるッ!! これが俺の真骨頂だあーーーッ!!」
その輝きは決して只の象徴などではない。
マヴォがその力を解き放つ為の前戯だったのだ。
そんな中でマヴォが宙を舞う。
天地逆転の景色の中で。
その双斧を輝きと共に振り払いながら。
「斬り裂けえッ!! 【迅・空】ーーーッッ!!!」
するとその輝きがたちまち刃から離れ飛ぶ。
それも燐光を弾かせる程の回転を見せつけて。
なんと、光の円環刃が飛び出したのである。
それも二つ同時に。
その様相はまるで輪刃だ。
小柄だが切れ味は相応、生身で触れれば瞬時にして真っ二つだろう。
そう思える程の力が迸っていたが故に。
それに当然、ただ飛んでいる訳では無い。
サヴィディアへと目掛けて追尾までしてみせたのだ。
しかも左右から同時に、更にはマヴォ当人からの攻撃をも合わせて。
「お、おおおーーーッ!?」
その数、まさに四撃同時。
幾ら素早く動けるサヴィディアとて、これを無傷で躱すのは不可能だ。
故に、戦神と呼ばれる男はこの一瞬で考えていた。
〝今の状況を凌ぐ最良の一手とは何か〟と。
そしてその答えは、すぐに導かれる事となる。
それはなんと前進。
敢えて槍を後ろへ下げ、身一つで潜り抜けての。
傷付く事さえ恐れず、マヴォだけを押し退けるつもりで。
「後退だけが我の取り柄ではないッ!!」
「こ、こいつうッ!?」
その相対速度は一瞬で懐へと潜り込ませるには充分だった。
加えて、槍を下げた事でマヴォの意識を引っ張ったのもあって。
間も無く、マヴォの腹へと肘打ちがめり込む事に。
「がぁふッ!?」
ただそれも辛うじて対応は出来ていた。
筋肉を引き締めて防御する事が。
その代わり、マヴォが再び後方へと弾かれて。
二足で大地を滑りつつ、再び突進していく。
この程度で怯む訳も無かったのだ。
秘技を放って即座に負けるなどあってはならないのだと。
「まだだあッ!! 俺はこの程度じゃ止まりはしねぇーーーッッ!!!」
「くッ!?」
そう、攻撃はまだ止まっていない。
たった今躱された円環刃もまだ消えていないから。
今もサヴィディアの背後より、弧を描いて迫っていたからこそ。
「何ッ!?」
なまじ命力で出来ているから音が無い。
気配だけで迫り、サヴィディアを翻弄していて。
前後からの攻撃に動揺さえ見せるという。
しかしそれでも身じろぎはしなかった。
間も無く背後より迫る円環刃を旋回槍で弾き飛ばして。
更にマヴォを迎え撃ち、双斧の斬撃を槍一本で受け止める。
その力はまさに均衡。
それでたちまち二人が立ち止まり合り、押し合う状態へ。
例え周囲からまた円環刃が迫ってこようが構う事も無く。
遂に押し合いは互いの額がぶつからんばかりにまで。
「惜しいッ!! 実に惜しいぞッ!! その実力がありながら未だ加減が見えるという事が!!」
「んだとぉ!? 俺は既に全力で――」
「腹を庇う挙動が不自然であろうとも、か?」
「――ッ!?」
だが今の一言が突如としてマヴォの威勢を変えた。
自らその身を退かさせてしまう程に。
サヴィディアは気付いてしまったのだ。
先の肘打ちの際、異様なまで腹を意識して守っていた事に。
それはまるで腹部が弱点だと教えんばかりと。
その最中で再び円環刃が弾かれて。
燐光が間を舞う中、サヴィディアが澄ました眼で見下ろす。
「この戦、既に先は見えた」
「なにっ……!!」
「なれば仕舞にするとしよう。我は実に愉しめたからな」
既に勝ち誇っているのだろう。
今のマヴォに自分は討ち倒せないのだと。
実力の底が見え、全力も出し切れないのだから。
そう、マヴォは全力を出し切れていない。
ドゥーラに負わされた傷がまだ不安で。
完治したとはいえ、異常な傷の負わされ方だったから。
おまけに強引に復元したから未だ治った自覚が無い。
言わばまだ麻酔を受けている状態と何ら変わらないという事だ。
その中で感覚を取り戻す為にこうして戦いに来たのだが。
まさかその状態を一発の攻撃だけで見抜かれるとは思ってもみなかった。
だからこそマヴォは反論出来ずにいたのだ。
まさに図星、偽れる事も出来無い事実だからこそ。
「抜 か せェーーーッッ!!!」
そしてこうも見抜かれてしまえば焦りも隠せない。
故に今、マヴォはまたしても立ち向かう。
再び円環刃を生み、一気に正面から畳みかけて。
しかしそんな刃も回転する槍が弾き、更には双斧さえ受け止めて。
再び二人が拮抗状態へと陥る事に。
「確かに俺はよぉ、傷を庇っちゃいるッ!! だがそれでも誰にも負けねぇ気概があぁるッ!!」
「ぬうッ!?」
するとそんな最中、なんと先の円環刃がまたしても飛び来ていて。
しかもあろう事かマヴォの背後から。
サヴィディアがそう仕向けたのだ。
あの円環刃にはそこまで細かい軌道操作は出来ないのだと知って。
「ならばその気概とやらで、己が刃を耐えて見せよッ!!」
幾ら強靭な肉体を持つマヴォでもこの円環刃は耐えられないだろう。
それだけの断裂力が刃にはあったからこそ。
ただそれでも、マヴォは――笑っていた。
まるでこうなる事が、こうされる事がわかっていたかの様に。
「耐える必要なんざ、ねぇんだよおッ!!」
そして間も無く刃がマヴォへと到達する。
容赦無く燐光を撒き散らしながら。
でも、血飛沫は上がらない。
それどころか裂断音さえも。
ではどうなったというのか。
その答えは、実に単純明快である。
「――この刃はよぉ、俺の分身なんだぜえッ!!」
そう、そもそもマヴォを切り裂くはずなど無かったのだ。
円環刃はマヴォの命力で出来ているからこそ。
だから今まさにその身をすり抜けていて。
今一直線にサヴィディアへ迫っていく。
マヴォはそう仕向けたのだ。
敢えて自身を囮にして、円環刃で仕留めようと。
すなわち、先の焦りさえ所詮はブラフに過ぎない。
――だが。
それがいつからマヴォの思い通りだと思っていたのだろうか。
それがマヴォ以外に気付かれないと思っていたのだろうか。
否、既にサヴィディアはその特性にさえ気付いている。
命力という力の本質を見抜く程に卓越しているからこそ。
「だから言ったあッ!! 貴公では我には勝てぬとおッ!!」
そこからの槍捌きはもはや常軌を逸していた。
瞬時にマヴォの斧を弾き、その身を僅かに下げさせて。
あろう事か槍をその一瞬だけ手放し、そして持ち直す。
刃先ギリギリにまで持ち換えさせて。
しかもその刃先が直後、なんと円環刃の中空を通すという。
それはまるで輪投げの輪を捕まえんが如く。
瞬時にして二つの輪を捕らえていて。
更には槍を超速で回転させる。
長柄に命力をも流し込みながら。
それはさながら遠心分離機の様に。
すると直後、円環刃が異変を起こす事に。
なんと刃が崩れ、粉々に砕け散っていったのである。
ついでと言わんばかりに追撃の円環刃をも同様に捕らえて。
「ば、馬鹿なッ!? 俺の――」
「そして受けよ、これが我が至高の一撃なりィ!!」
なればその回転力さえ力と換えよう。
円環刃の勢いをも飲み込んで。
そうして放たれた一突はもはや今までの比ではない。
「【裂海閃波】ァァァーーーッッッ!!!!」
魔剣の回転はただ振り回しているだけではなかったのだ。
その行動は命力を高め、槍の力そのものも高めてくれる。
そうして高まった力は、只の一閃突でさえ一撃必殺の領域へと昇華しよう。
それはまさに必殺の一撃だった。
大地が、大気が、裂空の下に弾け飛ぶ程に。
それでいて今までのどの一撃よりも速く鋭く力強く。
その渾身の一撃が今、マヴォの喉元へと迫る。
ガッキャァァァーーーーーーンッ!!!
ただその槍先は魔剣二本によって妨げられる事に。
それでも防げるだけの余力はマヴォにあったから。
しかし防げただけで、全てをいなせる訳が無い。
余りの威力故に、白の巨体が浮く。
それも激しく打たれ、弾かれるままに。
全身に強い衝撃をもたらし、軋ませる中で。
そしてそれまでだった。
遂には遥か後方へと飛ばされ、大地へ一跳二跳しながら転がって。
勢いが収まって伏すも、すぐに起き上がる事は出来ず。
直後、頭を上げたマヴォの眼先に槍が付き付けられる。
「ここまでである。貴公はよく戦った。それだけで我は満足だ」
そう、マヴォは負けたのだ。
戦神とまで謳われた【ナイーヴァ族】の戦士サヴィディアに。
その実力はもはや今までのどの相手よりも格上。
それ程の実力者だからこその結果だったのである。
一つはそのチャンスを生かして全力で立ち向かう事。
怨恨などで相対している場合もこちらにあたる。
〝よくも加減しやがったな、舐めやがって許さねぇ〟といった風に。
もう一つは、同様に加減するという事だ。
スポーツマンシップなどはこちらにあたる。
〝加減するならばこちらも正々堂々と合わせよう〟といった風に。
【ナイーヴァ族】のスタンスはどちらかと言えば後者だ。
己の命をも顧みないという点は他の魔者と同じだけども。
それでも戦いに向けた意気込みは誰よりも誇り高い。
でなければ今頃、人間の街【アゾーネ】など残ってはいないだろうから。
では王ほどの実力者な場合、そんな志はどうなるか。
その答えが――決闘である。
他の誰にも邪魔されず、一対一という戦いを繰り広げる事を良しとして。
その上で高めた力を存分に奮い、死力を尽くし合う。
最後まで立ち続ける事を己が力の証明とするのだ。
生か死か。
力を比べるという純粋な欲求に、加減などそもそもが有り得ない。
故に彼等は全力で挑み、戦うのだ。
例え相手が蟻の様な小物であろうとも。
その類稀なる力を誇示し、己を見る者達へ畏怖を轟かせる為に。
「かあああーーーーーーッッッ!!!!」
「フゥオオオーーーーーーッッッ!!!!」
火花が散る。
命力が舞う。
三本の魔剣が戦いを奏で彩る度に。
まさに曲を奏でているかの様だった。
それ程までに連続的で、かつリズムを感じられる程に音程さえハッキリとしていて。
その上で互いに躱しきり、戦意をなお剥き出しにしている。
凄まじい剣戟である。
それも高速移動を繰り返しての。
サヴィディアが距離を取り、マヴォが追う。
互いに感情のまま大きな笑みを浮かべながら。
そうして戦場を駆け抜ける姿はまるで恋人同士の戯れにさえ見えなくもない。
それだけ愛おしいのだ。
こうして殺し合うという戦いそのものが。
ならば奏でられた曲はさしずめ、愛と血の輪舞曲か。
しかしそんな曲がたちどころにしてリズムを変える。
マヴォが更に一段、速度のギアを上げた事によって。
「鍔突き、鞘払、三寸小手打ちィ!!」
「ちぃぃッ!?」
「どうしたどうしたァ!! 俺はまだまだ止まらねぇぞぉ!!」
二本の魔剣を自在に操るマヴォにとって、長得物は恰好の的だ。
その素早い斧捌きで槍を打ち、攻撃さえも封じ込めていて。
お陰で今やサヴィディアは防戦一方に。
しかもそんな中で更にマヴォが戦意を高める。
異様な輝きを斧から迸らせながら。
「両利きがお前の真骨頂だと言ったなッ!! なら俺も見せてやるッ!! これが俺の真骨頂だあーーーッ!!」
その輝きは決して只の象徴などではない。
マヴォがその力を解き放つ為の前戯だったのだ。
そんな中でマヴォが宙を舞う。
天地逆転の景色の中で。
その双斧を輝きと共に振り払いながら。
「斬り裂けえッ!! 【迅・空】ーーーッッ!!!」
するとその輝きがたちまち刃から離れ飛ぶ。
それも燐光を弾かせる程の回転を見せつけて。
なんと、光の円環刃が飛び出したのである。
それも二つ同時に。
その様相はまるで輪刃だ。
小柄だが切れ味は相応、生身で触れれば瞬時にして真っ二つだろう。
そう思える程の力が迸っていたが故に。
それに当然、ただ飛んでいる訳では無い。
サヴィディアへと目掛けて追尾までしてみせたのだ。
しかも左右から同時に、更にはマヴォ当人からの攻撃をも合わせて。
「お、おおおーーーッ!?」
その数、まさに四撃同時。
幾ら素早く動けるサヴィディアとて、これを無傷で躱すのは不可能だ。
故に、戦神と呼ばれる男はこの一瞬で考えていた。
〝今の状況を凌ぐ最良の一手とは何か〟と。
そしてその答えは、すぐに導かれる事となる。
それはなんと前進。
敢えて槍を後ろへ下げ、身一つで潜り抜けての。
傷付く事さえ恐れず、マヴォだけを押し退けるつもりで。
「後退だけが我の取り柄ではないッ!!」
「こ、こいつうッ!?」
その相対速度は一瞬で懐へと潜り込ませるには充分だった。
加えて、槍を下げた事でマヴォの意識を引っ張ったのもあって。
間も無く、マヴォの腹へと肘打ちがめり込む事に。
「がぁふッ!?」
ただそれも辛うじて対応は出来ていた。
筋肉を引き締めて防御する事が。
その代わり、マヴォが再び後方へと弾かれて。
二足で大地を滑りつつ、再び突進していく。
この程度で怯む訳も無かったのだ。
秘技を放って即座に負けるなどあってはならないのだと。
「まだだあッ!! 俺はこの程度じゃ止まりはしねぇーーーッッ!!!」
「くッ!?」
そう、攻撃はまだ止まっていない。
たった今躱された円環刃もまだ消えていないから。
今もサヴィディアの背後より、弧を描いて迫っていたからこそ。
「何ッ!?」
なまじ命力で出来ているから音が無い。
気配だけで迫り、サヴィディアを翻弄していて。
前後からの攻撃に動揺さえ見せるという。
しかしそれでも身じろぎはしなかった。
間も無く背後より迫る円環刃を旋回槍で弾き飛ばして。
更にマヴォを迎え撃ち、双斧の斬撃を槍一本で受け止める。
その力はまさに均衡。
それでたちまち二人が立ち止まり合り、押し合う状態へ。
例え周囲からまた円環刃が迫ってこようが構う事も無く。
遂に押し合いは互いの額がぶつからんばかりにまで。
「惜しいッ!! 実に惜しいぞッ!! その実力がありながら未だ加減が見えるという事が!!」
「んだとぉ!? 俺は既に全力で――」
「腹を庇う挙動が不自然であろうとも、か?」
「――ッ!?」
だが今の一言が突如としてマヴォの威勢を変えた。
自らその身を退かさせてしまう程に。
サヴィディアは気付いてしまったのだ。
先の肘打ちの際、異様なまで腹を意識して守っていた事に。
それはまるで腹部が弱点だと教えんばかりと。
その最中で再び円環刃が弾かれて。
燐光が間を舞う中、サヴィディアが澄ました眼で見下ろす。
「この戦、既に先は見えた」
「なにっ……!!」
「なれば仕舞にするとしよう。我は実に愉しめたからな」
既に勝ち誇っているのだろう。
今のマヴォに自分は討ち倒せないのだと。
実力の底が見え、全力も出し切れないのだから。
そう、マヴォは全力を出し切れていない。
ドゥーラに負わされた傷がまだ不安で。
完治したとはいえ、異常な傷の負わされ方だったから。
おまけに強引に復元したから未だ治った自覚が無い。
言わばまだ麻酔を受けている状態と何ら変わらないという事だ。
その中で感覚を取り戻す為にこうして戦いに来たのだが。
まさかその状態を一発の攻撃だけで見抜かれるとは思ってもみなかった。
だからこそマヴォは反論出来ずにいたのだ。
まさに図星、偽れる事も出来無い事実だからこそ。
「抜 か せェーーーッッ!!!」
そしてこうも見抜かれてしまえば焦りも隠せない。
故に今、マヴォはまたしても立ち向かう。
再び円環刃を生み、一気に正面から畳みかけて。
しかしそんな刃も回転する槍が弾き、更には双斧さえ受け止めて。
再び二人が拮抗状態へと陥る事に。
「確かに俺はよぉ、傷を庇っちゃいるッ!! だがそれでも誰にも負けねぇ気概があぁるッ!!」
「ぬうッ!?」
するとそんな最中、なんと先の円環刃がまたしても飛び来ていて。
しかもあろう事かマヴォの背後から。
サヴィディアがそう仕向けたのだ。
あの円環刃にはそこまで細かい軌道操作は出来ないのだと知って。
「ならばその気概とやらで、己が刃を耐えて見せよッ!!」
幾ら強靭な肉体を持つマヴォでもこの円環刃は耐えられないだろう。
それだけの断裂力が刃にはあったからこそ。
ただそれでも、マヴォは――笑っていた。
まるでこうなる事が、こうされる事がわかっていたかの様に。
「耐える必要なんざ、ねぇんだよおッ!!」
そして間も無く刃がマヴォへと到達する。
容赦無く燐光を撒き散らしながら。
でも、血飛沫は上がらない。
それどころか裂断音さえも。
ではどうなったというのか。
その答えは、実に単純明快である。
「――この刃はよぉ、俺の分身なんだぜえッ!!」
そう、そもそもマヴォを切り裂くはずなど無かったのだ。
円環刃はマヴォの命力で出来ているからこそ。
だから今まさにその身をすり抜けていて。
今一直線にサヴィディアへ迫っていく。
マヴォはそう仕向けたのだ。
敢えて自身を囮にして、円環刃で仕留めようと。
すなわち、先の焦りさえ所詮はブラフに過ぎない。
――だが。
それがいつからマヴォの思い通りだと思っていたのだろうか。
それがマヴォ以外に気付かれないと思っていたのだろうか。
否、既にサヴィディアはその特性にさえ気付いている。
命力という力の本質を見抜く程に卓越しているからこそ。
「だから言ったあッ!! 貴公では我には勝てぬとおッ!!」
そこからの槍捌きはもはや常軌を逸していた。
瞬時にマヴォの斧を弾き、その身を僅かに下げさせて。
あろう事か槍をその一瞬だけ手放し、そして持ち直す。
刃先ギリギリにまで持ち換えさせて。
しかもその刃先が直後、なんと円環刃の中空を通すという。
それはまるで輪投げの輪を捕まえんが如く。
瞬時にして二つの輪を捕らえていて。
更には槍を超速で回転させる。
長柄に命力をも流し込みながら。
それはさながら遠心分離機の様に。
すると直後、円環刃が異変を起こす事に。
なんと刃が崩れ、粉々に砕け散っていったのである。
ついでと言わんばかりに追撃の円環刃をも同様に捕らえて。
「ば、馬鹿なッ!? 俺の――」
「そして受けよ、これが我が至高の一撃なりィ!!」
なればその回転力さえ力と換えよう。
円環刃の勢いをも飲み込んで。
そうして放たれた一突はもはや今までの比ではない。
「【裂海閃波】ァァァーーーッッッ!!!!」
魔剣の回転はただ振り回しているだけではなかったのだ。
その行動は命力を高め、槍の力そのものも高めてくれる。
そうして高まった力は、只の一閃突でさえ一撃必殺の領域へと昇華しよう。
それはまさに必殺の一撃だった。
大地が、大気が、裂空の下に弾け飛ぶ程に。
それでいて今までのどの一撃よりも速く鋭く力強く。
その渾身の一撃が今、マヴォの喉元へと迫る。
ガッキャァァァーーーーーーンッ!!!
ただその槍先は魔剣二本によって妨げられる事に。
それでも防げるだけの余力はマヴォにあったから。
しかし防げただけで、全てをいなせる訳が無い。
余りの威力故に、白の巨体が浮く。
それも激しく打たれ、弾かれるままに。
全身に強い衝撃をもたらし、軋ませる中で。
そしてそれまでだった。
遂には遥か後方へと飛ばされ、大地へ一跳二跳しながら転がって。
勢いが収まって伏すも、すぐに起き上がる事は出来ず。
直後、頭を上げたマヴォの眼先に槍が付き付けられる。
「ここまでである。貴公はよく戦った。それだけで我は満足だ」
そう、マヴォは負けたのだ。
戦神とまで謳われた【ナイーヴァ族】の戦士サヴィディアに。
その実力はもはや今までのどの相手よりも格上。
それ程の実力者だからこその結果だったのである。
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