上 下
380 / 1,197
第十二節「折れた翼 友の想い 希望の片翼」

~孤島にそびえる人の国~

しおりを挟む
 勇達が本部へと辿り着く。
 それで早速揃って事務棟三階の会議室へ。
 今回初めてやってきた心輝達はそれとなく固まり気味だ。

 というのも、間も無く初の実戦が訪れるかもしれないから。
 今日までにアージやマヴォに鍛えられたとはいえ、自信が湧かなくて。

 本当に自分の力が通用するのか。
 戦いきる事は出来るのだろうか。
 そんな想いが今更になって尻込みさせてしまったのだろう。

 その中でいざ会議室の扉を開けば――

「む、来たか」
「おおっ、女神ちゃあん!!」

 なんと中にはあのアージとマヴォの姿が。

「あれ、二人ともどうしてここに?」

「何かがあったという事でな。ひとまず情報が欲しいと頼まれたのだ」

 どうやら予め福留に呼ばれていたらしい。
 ただ戦力としては数えられていない様だけれど。
 あくまで情報提供者ゲストとしての参戦な様だ。

「ウーッス!」

「こいつらも連れて来たのだな」

「えぇ、今は一人でも戦力が欲しい所ですから」

「そうか。だが我等はまだ協力を確約出来ん。話を聞かない事にはな」

「理解しております。ですので情報提供だけで問題ありません」

 そんな中で早速と本題が始まる事に。
 以前の時と同じで、プロジェクターからの画像が壁へと映り込む。

 まずは静止画から。
 表示されたのは、どこかの島の様だった。
 横から写されているらしく、画面下には海が見えていて。

「これは日本領海、千葉より東一〇〇キロメートルほど先に存在する島です。とはいえ、存在する島ですが」

「さ、最近から!?」

「そうです。実はその領海でも転移現象が起きていた様でしてね。ただその時期は不明、気付いたら存在していた、という事だそうです」

「そんな、新しい転移だなんて……!?」

 更にその写真が切り替わっていく。
 様々な方角から写されたものへと。

 するととある方角から突然、妙な変化を見せ始めていて。

「うおっ、こんな事ってあんのかよ!?」

 島が途中で崖になっているのだ。
 それもまるでナイフで切られたかの様に、綺麗で滑らかな弧状岸壁を見せて。

 とても自然に出来たとは思えない光景だ。
 それほどに転移領域がハッキリと見える様な形だったのだから。

「どうやら元は島では無かった様です。本来はあの岸壁の先にも陸地があり、フェノーダラ王国にも続く道があったそうなのです」

「えっ、じゃあそれって……」

 それで更に画像が拡大した物に切り換わっていって。
 そこでようやく何かに気付く事になる。

 なんと建造物があったのだ。
 陸地の岩や草木に囲まれて気付き難いが、岸壁の傍に確かと。

「えぇ皆さんの予想通りです。この場所に住んでいるのは人間でした」

 その建造物はまるで砦の様な石造りの壁で。
 海からの写真では内部を見る事は叶わないくらいに高い。
 城だけの現フェノーダラ王国よりは広く見えるのだが。
 かといって見る限り、城までは建っていなさそうだ。

 つまりフェノーダラ王国よりも小規模の、人間の為の街という事。



「この都市の名を彼等は【アゾーネ】と呼んでいるそうです」



 そして遂に航空写真が写される事に。
 すると見えたのは敷き詰められた家らしき影や人影。
 この世界に転移してきてもなお人が営みを送っていたのだ。

「おお~」

「で、実は彼等とは既にコンタクトを済ませています。それで少しだけは情報を交換していまして。なんでも彼等はフェノーダラ王国とはずっと昔に袂を別った国だそうです。恐らくは例のカラクラ族に滅ぼされた古代王朝から分岐した一族の末裔なのでしょうね」

 しかもどうやらもう彼等とは交渉した後。
 エウリィ達から学んだ異世界言語がここで役立った様だ。

 で、それがどの様な成果となったかと言えば――

「それで彼等は何か要求とかしてきたんです?」

「いえ。実は彼等からは……不干渉の要請が来たのです。協力も要らない、物資補給も不要、今後一切関わるな、近寄るな、と」

「えぇ……」

「ちなみにフェノーダラ王国とも関係を断っているそうで、王様達も詳しくはわからないそうな。なので、何故あそこまで頑ななのかは未だ不明です」

 どうやら交渉は盛大な失敗に終わったらしい。
 フェノーダラ王国と違って困窮している訳では無いのだろうか。

 微妙な距離間だが、確かに渋谷からは栃木の方が近い。
 なので天敵のダッゾ族第一・二節参照は東より北に目を向けていたのだろう。
 おまけに宿敵のカラクラの里からもずっと離れている。
 そう考えると戦いとは縁が薄く、備蓄が充分あるのかもしれない。

 なら何故、今勇達が集められる事になったのか。
 一体何の問題があるというのか。

 しかしそれは、次に出て来た映像でハッキリとわかる事となる。

「それで発見してからおよそ一ヵ月ほどが経ったのですが、そこで今更になって、彼等が日本政府に救難信号を送って来たのです。何かがあった時にと渡していた信号弾で呼び出してねぇ」

 映し出されたのは航空動画。
 ヘリコプターから直接撮られた映像だ。
 そこには何かしらの言語が街に象られていて。

『あそこにはなんて書かれているんだ?』
『【助けを求む】。繰り返す、【助けを求む】だ!』

 まるで疑問に答えるかの様に動画から音声までが聴こえて来る。
 アージ達も街の文字を見ただけで状況を理解したらしい。

 不干渉を提言し、関わりを断った街【アゾーネ】。
 そこが今度は一方的に「助けて」と言い始めたのである。

 これは余りにも身勝手過ぎる。
 確かにそんな助け舟を出したのは日本政府なのだが。
 優しさに付け込むのが異世界の人間の常識なのかと疑いを持ちそうだ。

「なぁこれ、俺達が行く意味あんのか……?」

「いいから黙ってろ。動画はまだ終わってない」

 でもその答えを出すのは早急なのかもしれない。
 動画はまだ続き、福留も止める気配が無いから。

 まるでこの先を見届けろと言わんばかりに。

『待て、あれはなんだ?』
『街の外で何かが動いているぞ。あれは人間じゃない……!』

 その中で動画が徐々に陸地へとフォーカスされていて。
 そうして遂に、救難要請の理由が明らかとなる。



 魔者が外一杯に走り回っていたのだ。
 まるで街を取り囲む様にして。



 それも相当な数が。
 百、二百、あるいはもっと。
 よく見れば海にもちらちらと映り込んでいて。

 そう、島を覆い尽くさんばかりな数の魔者が蠢いていたのである。

 これには勇達も驚愕せざるを得なかった。
 これだけの規模の数を出兵出来る団体がまだいたのかと。



 東の海にそびえる孤立島国家。
 その国に迫る脅威はやはり魔者で。

 だがその正体は、未だかつてない程に恐れるべき存在だった。


しおりを挟む
感想 15

あなたにおすすめの小説

【完結】失いかけた君にもう一度

暮田呉子
恋愛
偶然、振り払った手が婚約者の頬に当たってしまった。 叩くつもりはなかった。 しかし、謝ろうとした矢先、彼女は全てを捨てていなくなってしまった──。

悪役令嬢にざまぁされた王子のその後

柚木崎 史乃
ファンタジー
王子アルフレッドは、婚約者である侯爵令嬢レティシアに窃盗の濡れ衣を着せ陥れようとした罪で父王から廃嫡を言い渡され、国外に追放された。 その後、炭鉱の町で鉱夫として働くアルフレッドは反省するどころかレティシアや彼女の味方をした弟への恨みを募らせていく。 そんなある日、アルフレッドは行く当てのない訳ありの少女マリエルを拾う。 マリエルを養子として迎え、共に生活するうちにアルフレッドはやがて自身の過去の過ちを猛省するようになり改心していった。 人生がいい方向に変わったように見えたが……平穏な生活は長く続かず、事態は思わぬ方向へ動き出したのだった。

お爺様の贈り物

豆狸
ファンタジー
お爺様、素晴らしい贈り物を本当にありがとうございました。

【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?

アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。 泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。 16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。 マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。 あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に… もう…我慢しなくても良いですよね? この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。 前作の登場人物達も多数登場する予定です。 マーテルリアのイラストを変更致しました。

お花畑な母親が正当な跡取りである兄を差し置いて俺を跡取りにしようとしている。誰か助けて……

karon
ファンタジー
我が家にはおまけがいる。それは俺の兄、しかし兄はすべてに置いて俺に勝っており、俺は凡人以下。兄を差し置いて俺が跡取りになったら俺は詰む。何とかこの状況から逃げ出したい。

父が再婚しました

Ruhuna
ファンタジー
母が亡くなって1ヶ月後に 父が再婚しました

どうも、死んだはずの悪役令嬢です。

西藤島 みや
ファンタジー
ある夏の夜。公爵令嬢のアシュレイは王宮殿の舞踏会で、婚約者のルディ皇子にいつも通り罵声を浴びせられていた。 皇子の罵声のせいで、男にだらしなく浪費家と思われて王宮殿の使用人どころか通っている学園でも遠巻きにされているアシュレイ。 アシュレイの誕生日だというのに、エスコートすら放棄して、皇子づきのメイドのミュシャに気を遣うよう求めてくる皇子と取り巻き達に、呆れるばかり。 「幼馴染みだかなんだかしらないけれど、もう限界だわ。あの人達に罰があたればいいのに」 こっそり呟いた瞬間、 《願いを聞き届けてあげるよ!》 何故か全くの別人になってしまっていたアシュレイ。目の前で、アシュレイが倒れて意識不明になるのを見ることになる。 「よくも、義妹にこんなことを!皇子、婚約はなかったことにしてもらいます!」 義父と義兄はアシュレイが状況を理解する前に、アシュレイの体を持ち去ってしまう。 今までミュシャを崇めてアシュレイを冷遇してきた取り巻き達は、次々と不幸に巻き込まれてゆき…ついには、ミュシャや皇子まで… ひたすら一人づつざまあされていくのを、呆然と見守ることになってしまった公爵令嬢と、怒り心頭の義父と義兄の物語。 はたしてアシュレイは元に戻れるのか? 剣と魔法と妖精の住む世界の、まあまあよくあるざまあメインの物語です。 ざまあが書きたかった。それだけです。

大器晩成エンチャンター~Sランク冒険者パーティから追放されてしまったが、追放後の成長度合いが凄くて世界最強になる

遠野紫
ファンタジー
「な、なんでだよ……今まで一緒に頑張って来たろ……?」 「頑張って来たのは俺たちだよ……お前はお荷物だ。サザン、お前にはパーティから抜けてもらう」 S級冒険者パーティのエンチャンターであるサザンは或る時、パーティリーダーから追放を言い渡されてしまう。 村の仲良し四人で結成したパーティだったが、サザンだけはなぜか実力が伸びなかったのだ。他のメンバーに追いつくために日々努力を重ねたサザンだったが結局報われることは無く追放されてしまった。 しかしサザンはレアスキル『大器晩成』を持っていたため、ある時突然その強さが解放されたのだった。 とてつもない成長率を手にしたサザンの最強エンチャンターへの道が今始まる。

処理中です...