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第十二節「折れた翼 友の想い 希望の片翼」

~未来の為の道具~

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 勇の報告タイミングは実に的確だった。
 福留が思わず「これはやられましたねぇ」などと漏らすくらいには。

 どうやら福留はやはり何も知らなかった様で。
 その上で新しい魔剣の手に入る可能性にも興味深々だった。

 ちなみに心輝達の参戦に関しては特に何も言っていない。
 〝もう戦えるくらいになってます〟という話を受けた時点で。
 きっと勇達の絆を知って、納得する他無かったのだろう。

 そしてその判断を福留に押し付けたのもまた正解だったらしい。

 福留はそれから数日、色々と大変だったに違いない。
 鷹峰総理への報告や、村野防衛大臣いしあたまへの手回しなど。
 国政を混乱させない為に尽力して動き回っていて。

 だが、お陰で誰よりも効率よく働きかける事が出来た。



 それで、報告があってから約一週間後の今。



 この時点でようやく上司陣を宥める事に成功。
 辛うじて強硬手段を取らずに済んだという訳だ。
 さすがの福留、その手腕は計り知れない。

 とはいえその代償は特事部が背負う事となったが。
 日本代表の、アルライの里との交渉役を請け負う形で。

「どうもお久しぶりです、ジヨヨ村長」

「なんや、随分来るのに時間が掛かったもんやのぉ」

 その大役の為に、福留がヘリコプターに乗って自らアルライの里へ降り立つ。
 サポート役として御味も同行する中で。

 なお、来る事自体はこうしてもう伝えてある。
 その時期が大きくずれ込んでしまったけれど。

「ヘリは一旦戻しましょうか?」

「置いといてかまへん。話を早急にしてくれればの」

 ただ魔剣問題となれば歓迎という訳にはいかない。
 おいそれと語れない話だからこそ、村長はどこか頑なで。

 そんな複雑な想いが無言で駆け巡る中、福留達が工房へと辿り着く。
 カプロだけでなく、バノという保護者が待ち構える中で。

「やぁカプロ君、久しぶり」

「御味さんも来たんスね。まぁどうぞ入って」

「それではお邪魔しますねぇ」

 それだけではない。
 工房の外には他の職人達もが見守っている。
 それほど緊迫した空気が周囲を覆っていて。

 でも皆は別に厳しい目で見に来た訳では無い。
 設備を整えてくれた福留達には感謝しているから。
 だから一体どうなるのか気になっただけで。

「さて、それでは早速ですが――やはり魔剣は頂けませんよね?」

「もちろんッス。あれはそう簡単に渡せるモンじゃねえッスから」

 で、早速の交渉決裂。
 途端の出来事に、周囲の戸惑いは隠せない。

 だけど福留は相変わらず笑顔なままで。
 まるでそんな答えなどわかりきっているという感じだ。

「でしょうねぇ。まぁその件は一旦置いておきましょう。まずは別件のお話をしたいもので」

 ただまだ諦めた訳では無さそうだが。
 〝一旦置いておく〟とはつまり、まだ交渉の余地があるという事だから。

「というとどういうこっちゃあ?」

「実は前々から聞いていたのですが……こちらでは随分と資源が不足していると。それで本日は少し物資提供をさせて頂きたくて参ったのです」

 それで続いたのはまるで何の関係も無い様な話で。

 だけどカプロもバノも、この話には少し顔が強張る事に。
 きっと何かに気付き、油断出来ないと踏んだのだろう。

「勇君から聞きました。専用魔剣を造られるそうですね」

「そうッス。すっげぇの造ってやるんス。 強くなってもらいたいッスから」

「えぇ、えぇ。我々も勇君にはそのすっげぇ強いという魔剣を渡して頂きたいので、それに協力したいと思いましてね」

「というと?」

 そんな中、福留が御味に頷いて見せて。
 すると御味が持っていたアタッシュケースを大机の上へと置き、すぐさま開く。

 そして現れた物は――なんとあの二人が思わず目を輝かせる程の代物だった。



 鉱石である。
 それも深緑の、現代では見られない組成を持つという。



「こりゃあ【ゴルリオヌ鉄鉱石】じゃねぇか……」

「ひゃあ、ボク初めて見たッス」

「ほほう、やはりご存知でしたか」 

 これはどうやら仕事柄、二人の良く知る物質だったらしい。
 それも驚くくらいだからよほど希少価値が高いくらいの。

「うむ。コイツぁ魔剣にも使われとる事が多い素材じゃ。鉄より硬く、それでいて命力伝導率がかなりたけぇ。刀身に、特に刃に使えりゃかなり切れ味が上がるやろのぉ」

「けどこれだけじゃダメッスね」

 ただその大きさはと言えば、拳一つ分程度。
 とても素材として使える量ではない。

 もっとも、これが全てとは一言も言っていないけれども。

「えぇそうでしょうね。ですがこれは一部に過ぎません。実際の採掘量はこれのおおよそ七〇倍、その他『そちら側』の固有金属元素が幾つか発見されています」

「おう、マジッスか」

「また情報共有して頂ければ素材の精錬もすぐ出来るでしょう。純度の高いインゴットでお渡しする事も出来るはずです」

 そう、現代技術を舐めてはいけない。
 福留は既にこれらの素材を大量に手に入れているのだ。
 魔者や人が居なくなった変容地区を探り掘った事によって。

 なれば人力で掘るよりずっと速い。
 地質レーダーや削岩機などといった採掘専用機が存在する今ならば。

 そしてそれらの素材をより高度に加工する事さえも。

「いんごっと……?」

「これの事です」

「うぴ……これは凄まじいッスね」

 それで新たに取り出されたのは純金の延べ棒。
 金融にも使われる世界共通の資産兼用素材である。

「魔剣の飾りにはこれら貴金属が使われているとわかりまして。なら必要なのではないかと思って持って参りました。他にもこういった物もあります」

 しかもケースの内側を開けは次から次へと出るわ出るわ。
 白金プラチナ白銀シルバー黄銅ブロンズ超鋼タングステン軽銀ジュラルミン羅銀チタン極炭素カーボナイトという素材群が。
 これらはいずれもサンプルで小さいが、カプロ達を驚かせるには充分だった。
 おまけに手に取って見れば、その出来栄えに感心さえ溜息として漏れる事に。

「本来これらは勇君の魔剣修復に使えるかも知れないと思って用意したのですが。しかしいざ話を聞くと、魔剣を一から造ると。ならばと思いまして、こうして持ち寄ったのです。ですので、これらを見繕って是非とも最高の魔剣を造って頂きたい。なお完成物を没収したりなどするつもりはありませんのでご安心を」

「はえー……日本政府って相当太っ腹なんスねぇ」

「いえいえ、それなりに腹黒でもありますので」

 カプロ達が素材に困っていたのは事実。
 造りたい物の構想は出来てきたが、肝心の実現可能な材料が足りなくて。
 それでありあわせの材料でどうにかしようとも思っていた。

 そんな矢先の、このオファーである。

 だがこれは甘い罠だ。
 この素材を基に、福留は何かを仕掛けて来るのだと。
 自らを〝腹黒〟と形容した以上は絶対に。

「で、ここからがお願いです。これらの素材と引き換えに魔剣を一本〝お買い上げ〟したい。ただし、それは決してである必要は有りません」

「うぴ……?」

「例えばこのインゴットを魔剣化した物でも良いですし、何でしたらこの時計やペンを魔剣化しても構いません。ただ、【魔剣】であればそれでいいのです」

 ただその腹黒が決してあくどい意味でかと言われればNO。
 単純に裏の意図があるからというだけに過ぎない。

 福留はただ【魔剣】を手に入れられればそれで充分だからこそ。

「我々が必要としているのは武器では無いのです。武器なら自分達で幾らでも造れますから」

「んじゃあ何故必要とするんや?」

「それはこの世界の未来の為です」

 そう、福留は魔剣を〝武器〟とみなしていない。
 未来を創る為の〝道具〟として見ているのだ。

「現在、人類は多くのエネルギー生産手段を持っています。電気はその手段の成果ですね。ですが、いずれそのエネルギーは枯渇しかねません。だから我ら人類は新しいエネルギーを求めているのです。そう、例えば生物の体から無限に溢れ出て来る命力とかね」

「というとつまりそりゃあ……」

「えぇ、我々はその命力を研究する為のサンプルを必要としているのです。決して魔者と戦う為でも無く、人同士で殺し合う為の物でも無く、安定したエネルギー供給を実現出来る未来の為に」

 それは単に、福留が戦いを終えた先を見据えているから。
 魔者問題を解決し、共に歩んだ道程を。

 確かに、世界が混じり合った事で不幸が沢山生まれたかもしれない。
 けれどそのお陰で命力という無限の可能性を見つける事が出来た。

 これは長い目で見れば何よりもの幸運な出会いだろう。
 何せ生きているだけで生まれ続けるエネルギーなのだから。
 もしそれが実用化出来れば、石油などの天然資源に頼る必要が無くなる。
 そもそも人間そのものがエネルギーを生み出せれば奪い合いさえ無くなるのだ。

 課題は多いが、何よりもクリーンで無駄が無い。
 まさしく理想の自己完結型セルフエコノマイズエネルギーだと言えよう。

「その為にもどうか力をお貸しください。制約が必要なのであれば可能な限り引き受けますから」

「むう……どうするね、カプロ」

「んん~本当はダメッスけどねぇ……制約次第じゃ考えてもいいッス」

「ほ、本当ですかっ!?」

 その理想はカプロにも興味がある。
 完成に至るまでには長い時間が掛かるかもしれないけれど。

 だけど考え方次第では、より大きな進歩が望めるかもしれない。
 今持つ魔剣の製造方法を進化させる事だって。

 そんな可能性をカプロは捨てきれなかったのだ。
 昔からの風習だけで縛るより、現実を見て活かすのも良いのではないかと。
 それもあの勇が信じる福留なら悪いようにはしないだろうと願って。

 それでカプロはこれらの条件を突き付けた。

・渡した魔剣を一切戦いに使わせない事
・魔剣を譲渡する際はカプロに許可を得る事
・紛失した時の為に、自壊する仕組みを組み込む事
・研究結果は逐一、全て報告する事
・研究結果を悪用・流出しない、させない事
・これら事実を勇にも全て伝える事

 守る気があるのならば決して難しい事ではない。
 後はこの制約を日本政府がどう大事に見るかだ。

 だからこそ今、福留は自ら今の制約を端末へと記入する。
 そして書き終えたら早速、その議事録を政府関係者およびカプロに送信へ。

「これで確約が取れました。今の一文は日本の誰の命令よりも高度な国際条約級ですから、破れば日本政府が全面的な責任を負うでしょう」

「わかったッス。じゃあそこの試作魔剣を持ってって良いッスよ」

「ありがとうございます」

 これで契約は完了だ。
 日本政府とアルライの里、二つの〝国〟が交わした〝条約〟を基にして。

 今取り交わしたものは日本が同盟国と結んだ条約と何ら変わらない。
 何よりも優先され、守るべきとされる〝約束〟なのである。





 こうして福留は無事、サンプル魔剣を一つ手に入れる事が出来た。
 その為に支払った額はとてつもないが、人類の為になるなら安いものだ。

 そんな福留が選んだのは、あの【大地の楔】に似せて造られた魔剣で。
 かつて握った時の思い出を胸に、共に空へと飛び去っていったのだった。


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