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第十一節「心拠りし所 平の願い その光の道標」

~交換したげる~

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 クリスマスプレゼントとは大抵、中身がわからないものだ。
 貰うまで、袋を開くまで。

 サンタクロースは常々願いをちゃんと聞いてくれるとは限らない。
 時に〝これじゃないモノ〟を持ってくる事さえあるからこそ。

 それこそ、蓋を開いて不服ならば「チェンジ!」と叫びたくなる事もあるだろう。



 なら、交換しちゃえばいいじゃない。



 きっとこの提案を始めに考えた者は余程賢いに違いない。
 己が納得しうる獲物GETの可能性をみごと増やしたのだから。
 更にはウィンウィンの関係に持ち込む事さえ可能という。
 それによって生まれる絆さえあるかもしれない。

 故に今、パーティ会場は戦慄していた。

 それもそのはず。
 突如として、がスクリーンに現れたのだから。

 ドでかい『ドキドキ☆プレゼント交換タイム!』という文字が。

「さぁ皆さんへプレゼントが行き渡った所で次のコーナー『ドキドキキラップレゼント交換タイム』が開幕だぁ~~~!! きっとこの中にはプレゼントに納得していない方もいらっしゃるのではないでしょうか。ですがその欲望を満たす待望の一時が今ここに!」

 しかもその交換が今、公式ルールの下で行われる事に。
 これには騒がずとも誰しもが注目せざるを得ない。

 パッと見ただけなら、大人は誰しも平然としているだろう。
 でもその内面ではルールの仕様説明に釘付けだ。
 誰しもが目当ての景品に狙いを定め、ドス黒いオーラを放ち始めている。
 薄暗い会場が深淵へと堕ちてしまいそうな程に。

「ルールは簡単。賞品ランク上位から下位へと交換依頼が行えるという単純なもの。先のアルファベットがランクで、Aから順に上位~下位となります。なお、競合相手が居た場合、ランクに関係無く交換を持ちかけられた方が相手を決められます。ただし基本的には相互納得の上で交換成立してください。交換不要の方はパネルを伏せておきましょう」

 なので、こう言われれば誰しも己の記号をしっかり確認する姿が。
 トップであるエウリィでさえもちゃっかり確認していてニッコリと。

 ほんのちょっと笑みに陰りがあるのはほっといてあげよう。

「では、交換タイムは三○分! さぁ果たして、賞品達は一体どのようなムーヴをみせつけてくれるのでしょうか!? それではァ~~~スッターーートォ!!」

 そしてルールがわかってしまえば事は早かった。

 早速動いたのは園部母親。
 賞品ランク〝B〟を得てもなお欲望は満たされていない。

 狙うはそう、あずーの獲得した美顔器。
 さすがは美容機器を買い集めて止まらない浪費の根源だ。

 だが今、そんな彼女へ壁が立ち塞がる事に。

 エウリィである。
 なんと賞品ランク〝A〟もがデカデカと掲げて現れたのである。
 その姿はまるでショーガール。

 故に、互いにニッコニコだが電撃が迸る。
 周囲の客を焼き尽くしてしまわんばかりにバリバリと。
 賞品ランク〝P〟でかつ追い詰められたあずーでさえも例外とはならない。

「あずちゃん? どっちを、選ぶのかしら?」
「あずー様、ご期待申し上げます」

 圧も凄い。
 あのあずーが圧倒されて震える程に。
 エウリィに至ってはパネルに穴が開くほど力が籠っているので尚の事。

 下位としてはこれ以上無いシチュエーションなのだが、恐怖も相応で。

「え、えっとぉ~~~エ、エウリィちゃん!」
「あずちゃぁぁぁん!!」

 とはいえやはり物理的な恐怖には逆らえなかったらしい。
 母親が崩れ落ちる中、〝A〟と〝P〟の交渉が成立する。

「……あずちゃん、自室にテレビ設置は禁止よ」
「えーっ!?」

 しかしその禍根はなおも続いていた模様。
 エウリィがウッキウキで帰る中、渦中のあずーには更なる災難が降り注いだという。

 とはいえ良識的に考えれば妥当な判断だが。
 家族の触れ合いを大事にするならば、子供部屋へのメディア設置はあまりよろしくないので。
 スマートフォンが普及した今だからこそ忘れさられた慣習の一つである。

 そんな訳でまたしても〝A〟が動く事に。

 あずーが狙うは、カプロの最高峰タブレット〝Aパッド・プロリズムIII〟。
 そのランクは〝D〟と、本来ならば仕掛ける側のランク賞品だ。
 そんなアイテムを最高ランクが歯牙に掛ける。

「え、テレビなんて貰っても困るッスね」

 でも敢え無く撃沈。

 当然の結果だ。
 カプロもエウリィと同じでテレビに縁が無いので。
 なら何でも出来るタブレットの方がずっと便利なのだと。

 現代に来たばっかりなのにタブレットの価値がわかるカプロ、抜け目無し。
 故に、パネルが涙目あずーの目前でそっと閉じられていく。
 なんたる残酷な仕打ちか、幼い毛玉から悪意が見えるかのよう。

 更にその後はもう悲惨だった。

 何を思ったのか、今度は某社長の下へ。
 テレビと賞品ランク〝E〟の高級肉シャトーブリアンに突撃だ。
 しかしどうやら社長様、これより大きなテレビを持っていた模様。
 残念ながら断られる事に。

 母親の下に戻るも睨まれたのでスルー。
 傍らで父親が頭を抱えていたのは言わずもがな。
 両方貰ってシェアすればいいのに、なんて思いつつ。

 そんな感じでどこへ持っていっても誰も応じてくれないという。
 やっぱりテレビ、ものすごく大きくて置き場に困るので。
 使ってみれば便利には便利なのだけれども。

 仕掛け人の勇もその右往左往する姿を見て、何だかとても居た堪れない。
 「一番高い賞品なんだけどなぁ」なんてぼやくくらいに。

 なお、同じくらいに高い〝C〟のドラム式洗濯乾燥機はしっかり閉じられている。
 自衛隊員さん、納得の引き当てだったらしい。

「どうやらまた、俺は家から、追い出されるらしい……」

 その傍らで杉浦がまたミニゴリラになっている。
 手に掴んだ賞品〝Y〟、【厳選お菓子の詰め合わせ】を握り締めて。
 でも内面は優しい彼だからか、賞品は事後アルライの子供達へと渡ったそうな。

「ギャワーーー!! このテレビどうすんのーーー!?」

 そんな中でもあずーの足が止まらない。
 降り注いだ災厄はなお継続中だ。
 遂にはランク下の愛希達に持ち込むも、〝H〟〝L〟〝Q〟にさえ勝ち目が無い。

 ちなみに賞品は左から【ポータブルゲーム機】、【選べるギフト券】、【直火たこ焼き器】。
 〝L〟はLuckyにあやかって周囲より高い賞品が選べるとかなんとか。

「ごめんねあずーちゃん、私これでいいかなって」

 最後の望みを賭けてちゃなに突撃するもやっぱり駄目だった。
 目当てだった物を今先ほど手に入れたので。

 その賞品こそ、ランク〝R〟【今夜はすき焼き・鍋だね肉セット】。
 さすが食欲の権化ちゃなさん、目指す所が絶妙である。
 最中に藤咲家両親の思念が飛ぶも関係無し。
 残念ながら受信アンテナを持ち合わせていないらしい。

 つまりあずーに打つ手無し。
 そんな訳で半ば諦めかけていたあずーだったのだが。

「交換したげる」

 なんとそこで救いの手が差し伸べられる。
 それもあの鉄面皮・莉那から。

 彼女のランクは〝X〟。
 賞品は【クリスマスらしいサンタブーツ・中身は割と高級お菓子詰め】だ。
 まさに下克上たる最底辺からの逆オファーである。

 しかしあずー、もはやなりふり構ってなどいられなかった。
 このままでは個室を占有する巨大なダンボールオブジェと化すしかなかったので。
 勇からの貰い物を質に出したくないと思う良心だけはさすがにあった様だ。

 なので下剋上成立。
 事後、お菓子を高く掲げて喜びを捧げるあずーの姿があったという。

 にしてもやり手なのは莉那か。
 こう至れたのは優しさか、それとも福留仕込みの交渉術からか。
 低ランクから一気に一位へ飛び出る才能は群を抜いていると言えよう。

 ただ、彼女自身はあまり賞品に拘りがなさそうだけれども。

「セリ、テレビ、要る?」
「はぃ!?」

 これが莉那なりの交友手段なのだろう。
 もっとも、いきなり仕掛けられた瀬玲側としては困惑を隠せないが。

 とはいえここは瀬玲、判断は冷静で的確だった。

 彼女だからこそ気付けたらしい。
 両親がその話を聴き取り、思念を送っていた事に。

 やっぱり一般家庭としては大画面テレビに夢があるもので。
 その娘が得るチャンスを掴んだならば是が非でも留めたいと思うもの。
 例えその代わりに何かしらの小さな代償を払う事になったとしても。

 そんな想いが通じ、莉那と瀬玲の交渉は成立。
 瀬玲の持っていた〝I〟空気清浄機が莉那の下へ。
 更に家族との家庭内交渉を交わし、ようやくテレビが落ち着く事となった。

 なお瀬玲は代わりとして、気になっていた化粧品を買ってもらえる事に。
 家庭グレードアップに貢献した功績はとても大きかった様だ。



 こんな感じで、交換が各所にて行われる事に。
 もちろん時間内であれば何度でも対応可能だったので。

 子供達に至っては早速プレゼントを開き、温泉の素などを分け合う姿が。
 ここに杉浦からのプレゼントが追加されればもう興奮は止まらない。
 この子供らしいやり取りは大人達の闇が祓われるくらいにとても輝かしかった。



 という訳で最初は半熟な盛り上がりだったけれども。
 最終的には大体の人が満足する結果となった様だ。

 これには賞品を用意した勇もホッと胸を撫で下ろしていたそうな。

 しかしこれで全てのカリキュラムが終了。
 楽しかったパーティにもとうとう終わりが迫る。

 でもきっと皆、来て良かったと思うに違いない。
 確かに、色々と騒々しかったけれど。

 なんだかんだで普段では体験出来ない事ばかりだったのだから。


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