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第三十九節「神冀詩 命が生を識りて そして至る世界に感謝と祝福を」
~顕現せし怨念の象徴~
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遂に勇の斬撃が茶奈を捉えた。
崩力領域をも越えた確実な一手として。
虹の斬光が大気に溶けて消えていく。
勇達が次々と地上へ降り立つ中で。
なお空で固まったままの茶奈を見上げながら。
ただ、その茶奈の様子はと言えば変だ。
確かに世界を切り裂いたとばかりの一撃だったのだが。
でも見る限りでは茶奈が切れた様には見えない。
それどころか邪神の意思は身体に残り続けたままで。
「クフ、クフフ。 やはり、無駄カ。 天力デは我が崩力領域ヲ越えル事は出来―――」
「いいや、そんな事は無いさ」
「―――ッ!?」
しかし勇はこの時、にこりと笑っていた。
掴んでいた光の剣さえも掻き消す中で。
「間違いなく斬った。 茶奈が示してくれたままにな」
「何ッ!?」
そう、勇にはわかっていたのだ。
どう斬るべきなのかという事が。
それは直前、茶奈が確かに応えてくれたから。
心の奥底で勇を求め、大手を拡げて待っていて。
勇は暗闇に映るその姿をしっかりと捉えていたのだから。
それすなわち、彼女の下には邪神もが潜んでいるというという事に他ならない。
だから迷いは無かった。
後は思いの丈を籠め、茶奈の示す場所を斬るだけでいい。
何故なら、天力とは想いの塊。
故に、その想いを託してくれた者を斬る事は叶わない。
ならばその一太刀で断ち切れるのは―――異物のみである。
「―――ウッ!? カ、カハッ!? マ、マサカコレハ……!?」
そして今の一太刀は寸分狂う事無く、示されるままに切り裂いた。
茶奈を蝕む邪神という概念を。
その邪神がへばりつく根幹を。
それが成されたからこそ今、遂に茶奈が異変を見せる事に。
突如として首や手首から黒い煙を吹き出し始めたのだ。
空に浮いたまま悶え苦しむ中で。
「ガカッ、ソ、ソンナバカナ!? ワタシガキラレタダト!? ウガグゴゴ……」
とてもドス黒い煙だ。
先が見通せない程に濃く、それでいてとめどなく。
更には舞い上がり、空をも覆い始めるという。
余りにも膨大過ぎる噴出量である。
この黒煙は恐らく、全て【崩力】だ。
邪神を象る【崩力】が黒煙という形で具現化しているのだろう。
さすがに邪神として意思を持つだけの事はあるか。
一帯上空があっという間に漆黒へと染まり上がる。
しかもなお領域を広げ続けるままに。
気付けば果てをも闇が飲み、辺り一面はもはや闇夜の如しだ。
ただ、茶奈から噴き出す煙はようやく留まりを見せ始めていて。
その全てを吐き出しきった途端、力を失った身体が地上へと落ちていく。
それも空かさず、勇がしっかりと受け止めていたが。
「ふう、キャッチ成功っと―――よし、生きてる……!」
どうやら救出作戦までは上手く行ったらしい。
意識は無いが、脈を測ればちゃんと動いていて。
呼吸も安定しており、まるで眠っているかのよう。
おかげで勇の顔にまた笑顔がじわりと滲む。
茶奈を救えた、その事実に喜びを隠せなくて。
「勇ーーーっ!!」
「茶奈は無事!?」
間も無く二人が駆け付けるも、勇がその笑顔と頷きで返していて。
なればもう喜ばずにはいられないだろう。
たちまち二人して両腕を振り上げては大喜びを見せつける事に。
ただ、こうしてうかうかとしている場合ではないが。
これで戦いが終わったという訳では無い。
茶奈を救うのは、決戦の中のまだ一段階目にしか過ぎないのだから。
だからこそ少し準備が必要だ。
勇が早速二人を呼び寄せ、揃って場から消え失せる。
勇達が移動したのは隣の島で。
先ほどの島よりも規模が大きく、全長は五キロメートル級と言った所。
緑も深く木々さえ見える程で、隠れるにはうってつけと言えよう。
もっとも、それは相手が視覚を使うならば~の話に限るが。
「二人ともいいか? ここからは俺だけで戦う。 だから二人はここで隠れていてくれ」
「なっ!? お前今更何言って―――」
「違うそうじゃない。 奴と戦えるのは俺だけなんだ。 そういうもんなんだよ」
「それって一体どういう……」
すると勇が茶奈を瀬玲へと預けて。
更には掌上に新たなア・リーヴェさんを創り出し、心輝へとそっと手渡す。
どうやら先代は戦闘の最中で消えてしまっていたらしい。
「詳しい話はア・リーヴェに聞いてくれ。 それじゃあ俺は行くから……二人とも、茶奈を頼む」
「勇……うん、わかった。 任せて」
「ア・リーヴェも、三人の事を頼んだ」
『お任せください。 勇、どうかお気をつけて』
これで全てを託せた。
後は勇が本分を成すだけだ。
邪神本体討伐という大詰めを。
故に直後、勇が全てを語らぬまま再び消える。
時間がそれほど多く残されていないからこそ。
そうして勇が跳んだのは最初の島。
既に岩礁と化した場所である。
そこで見上げれば、もう事は起き始めていて。
黒煙が収束を始めていたのだ。
遥か空の向こうで、まるで吸い込まれるかの様に。
まさに生きているかの様だった。
敢えて形容するなら空を這う黒蚯蚓か。
黒い蚯蚓が空で無数に蠢いているかのよう。
それも間も無く中心へと吸い込まれ黒一つと化す。
青空遥か先に浮かぶ黒点に。
しかしどうだろう。
突如としてその黒点もが変化を見せ始めていて。
揺れて、歪み、伸びて、変わっていく。
まるで粘土細工の様に不格好に。
それでいて質量体積さえも無視した膨らみさえも見せつけて。
腕が、生えていく。
翼が、形成されていく。
顔が、浮かび上がっていく。
巨大な何かが、創られていく。
『全てがお前に狂わされた。 幾百億の刻を経て紡ぎし使命が、お前の様なちっぽけな存在に無為とされたのだ』
だがそれは腕の様で、翼の様で、顔の様で。
でも何もかもが全て違う。
その様に似せた何かの集合体だった。
人の様な何かが重ねて造られた異形だった。
そう、人の部位が積み重なって出来た醜悪な物体だったのだ。
四本の腕は無数の人腕が絡み合って象られていて。
巨大な翼は無数の人脚が羽根の様に連なって出来ていて。
その中心にある奇怪な顔は、人頭と身体が這う様にして造られている。
まるで人体部位を使った悪趣味なピクセルアート像である。
『悔しい、憎い、妬ましい。 お前達の存在全てが厭わしい。 なれば我が力を以て跡形も無く消そう。 その上で再び時を経て、世界をも追って消し去る。 それが慈悲だ』
それもかなりの巨大さで。
全長はおおよそ二〇メートル弱、全高でも一〇メートル程はあると言った所か。
肉翼が巨大なのと、何より四本の腕も長く太い。
そして何より醜悪なのはその顔だ。
鋭い目に吊り上がった目尻は殺意そのものを示していて。
獣よりも多く鋭い牙が、裂けんばかりの口下からびっしりと覗いている。
その周囲で体毛の如き人指をゆらりゆらりと靡かせながら。
しかもその巨大な頭に腕と翼が生えている。
人を象ったとはとても思えない様相だ。
まさに醜悪の権化。
人の律心を煽る嫌悪性の集合体と言うべき存在である。
『畏れよ我を。 自ら死を望む程に。 さすれば永劫の畏怖と共に我を崇めし権利を与えよう』
「ふざけるなッ!! そんな権利など居るものかッ!! 俺達が欲しているのは、お前なんかが居ない未来なんだッ!!」
その存在が遂に勇達人類の前に正体を現した。
邪神として蠢き続け、人々に闇を植え続けて来た存在が。
そう、今こうして空に浮いている物こそがアルトラン・アネメンシーそのもの。
精神概念が長い年月を経て物質固着化する程に凝り固まった存在である。
「ここからが天士としての俺の本番だッ!! 必ず貴様を、倒すッ!!」
そしてこの存在を消し去る事こそが世界を救う唯一無二の手段と言える。
だからこそ、勇にとっての真の戦いはここからなのだ。
勇個人ではなく、人類―――いや、この宇宙の代表として。
故に今、その右手に再び光を灯そう。
この戦いの先に未来を願う全ての者達に応える為にも。
崩力領域をも越えた確実な一手として。
虹の斬光が大気に溶けて消えていく。
勇達が次々と地上へ降り立つ中で。
なお空で固まったままの茶奈を見上げながら。
ただ、その茶奈の様子はと言えば変だ。
確かに世界を切り裂いたとばかりの一撃だったのだが。
でも見る限りでは茶奈が切れた様には見えない。
それどころか邪神の意思は身体に残り続けたままで。
「クフ、クフフ。 やはり、無駄カ。 天力デは我が崩力領域ヲ越えル事は出来―――」
「いいや、そんな事は無いさ」
「―――ッ!?」
しかし勇はこの時、にこりと笑っていた。
掴んでいた光の剣さえも掻き消す中で。
「間違いなく斬った。 茶奈が示してくれたままにな」
「何ッ!?」
そう、勇にはわかっていたのだ。
どう斬るべきなのかという事が。
それは直前、茶奈が確かに応えてくれたから。
心の奥底で勇を求め、大手を拡げて待っていて。
勇は暗闇に映るその姿をしっかりと捉えていたのだから。
それすなわち、彼女の下には邪神もが潜んでいるというという事に他ならない。
だから迷いは無かった。
後は思いの丈を籠め、茶奈の示す場所を斬るだけでいい。
何故なら、天力とは想いの塊。
故に、その想いを託してくれた者を斬る事は叶わない。
ならばその一太刀で断ち切れるのは―――異物のみである。
「―――ウッ!? カ、カハッ!? マ、マサカコレハ……!?」
そして今の一太刀は寸分狂う事無く、示されるままに切り裂いた。
茶奈を蝕む邪神という概念を。
その邪神がへばりつく根幹を。
それが成されたからこそ今、遂に茶奈が異変を見せる事に。
突如として首や手首から黒い煙を吹き出し始めたのだ。
空に浮いたまま悶え苦しむ中で。
「ガカッ、ソ、ソンナバカナ!? ワタシガキラレタダト!? ウガグゴゴ……」
とてもドス黒い煙だ。
先が見通せない程に濃く、それでいてとめどなく。
更には舞い上がり、空をも覆い始めるという。
余りにも膨大過ぎる噴出量である。
この黒煙は恐らく、全て【崩力】だ。
邪神を象る【崩力】が黒煙という形で具現化しているのだろう。
さすがに邪神として意思を持つだけの事はあるか。
一帯上空があっという間に漆黒へと染まり上がる。
しかもなお領域を広げ続けるままに。
気付けば果てをも闇が飲み、辺り一面はもはや闇夜の如しだ。
ただ、茶奈から噴き出す煙はようやく留まりを見せ始めていて。
その全てを吐き出しきった途端、力を失った身体が地上へと落ちていく。
それも空かさず、勇がしっかりと受け止めていたが。
「ふう、キャッチ成功っと―――よし、生きてる……!」
どうやら救出作戦までは上手く行ったらしい。
意識は無いが、脈を測ればちゃんと動いていて。
呼吸も安定しており、まるで眠っているかのよう。
おかげで勇の顔にまた笑顔がじわりと滲む。
茶奈を救えた、その事実に喜びを隠せなくて。
「勇ーーーっ!!」
「茶奈は無事!?」
間も無く二人が駆け付けるも、勇がその笑顔と頷きで返していて。
なればもう喜ばずにはいられないだろう。
たちまち二人して両腕を振り上げては大喜びを見せつける事に。
ただ、こうしてうかうかとしている場合ではないが。
これで戦いが終わったという訳では無い。
茶奈を救うのは、決戦の中のまだ一段階目にしか過ぎないのだから。
だからこそ少し準備が必要だ。
勇が早速二人を呼び寄せ、揃って場から消え失せる。
勇達が移動したのは隣の島で。
先ほどの島よりも規模が大きく、全長は五キロメートル級と言った所。
緑も深く木々さえ見える程で、隠れるにはうってつけと言えよう。
もっとも、それは相手が視覚を使うならば~の話に限るが。
「二人ともいいか? ここからは俺だけで戦う。 だから二人はここで隠れていてくれ」
「なっ!? お前今更何言って―――」
「違うそうじゃない。 奴と戦えるのは俺だけなんだ。 そういうもんなんだよ」
「それって一体どういう……」
すると勇が茶奈を瀬玲へと預けて。
更には掌上に新たなア・リーヴェさんを創り出し、心輝へとそっと手渡す。
どうやら先代は戦闘の最中で消えてしまっていたらしい。
「詳しい話はア・リーヴェに聞いてくれ。 それじゃあ俺は行くから……二人とも、茶奈を頼む」
「勇……うん、わかった。 任せて」
「ア・リーヴェも、三人の事を頼んだ」
『お任せください。 勇、どうかお気をつけて』
これで全てを託せた。
後は勇が本分を成すだけだ。
邪神本体討伐という大詰めを。
故に直後、勇が全てを語らぬまま再び消える。
時間がそれほど多く残されていないからこそ。
そうして勇が跳んだのは最初の島。
既に岩礁と化した場所である。
そこで見上げれば、もう事は起き始めていて。
黒煙が収束を始めていたのだ。
遥か空の向こうで、まるで吸い込まれるかの様に。
まさに生きているかの様だった。
敢えて形容するなら空を這う黒蚯蚓か。
黒い蚯蚓が空で無数に蠢いているかのよう。
それも間も無く中心へと吸い込まれ黒一つと化す。
青空遥か先に浮かぶ黒点に。
しかしどうだろう。
突如としてその黒点もが変化を見せ始めていて。
揺れて、歪み、伸びて、変わっていく。
まるで粘土細工の様に不格好に。
それでいて質量体積さえも無視した膨らみさえも見せつけて。
腕が、生えていく。
翼が、形成されていく。
顔が、浮かび上がっていく。
巨大な何かが、創られていく。
『全てがお前に狂わされた。 幾百億の刻を経て紡ぎし使命が、お前の様なちっぽけな存在に無為とされたのだ』
だがそれは腕の様で、翼の様で、顔の様で。
でも何もかもが全て違う。
その様に似せた何かの集合体だった。
人の様な何かが重ねて造られた異形だった。
そう、人の部位が積み重なって出来た醜悪な物体だったのだ。
四本の腕は無数の人腕が絡み合って象られていて。
巨大な翼は無数の人脚が羽根の様に連なって出来ていて。
その中心にある奇怪な顔は、人頭と身体が這う様にして造られている。
まるで人体部位を使った悪趣味なピクセルアート像である。
『悔しい、憎い、妬ましい。 お前達の存在全てが厭わしい。 なれば我が力を以て跡形も無く消そう。 その上で再び時を経て、世界をも追って消し去る。 それが慈悲だ』
それもかなりの巨大さで。
全長はおおよそ二〇メートル弱、全高でも一〇メートル程はあると言った所か。
肉翼が巨大なのと、何より四本の腕も長く太い。
そして何より醜悪なのはその顔だ。
鋭い目に吊り上がった目尻は殺意そのものを示していて。
獣よりも多く鋭い牙が、裂けんばかりの口下からびっしりと覗いている。
その周囲で体毛の如き人指をゆらりゆらりと靡かせながら。
しかもその巨大な頭に腕と翼が生えている。
人を象ったとはとても思えない様相だ。
まさに醜悪の権化。
人の律心を煽る嫌悪性の集合体と言うべき存在である。
『畏れよ我を。 自ら死を望む程に。 さすれば永劫の畏怖と共に我を崇めし権利を与えよう』
「ふざけるなッ!! そんな権利など居るものかッ!! 俺達が欲しているのは、お前なんかが居ない未来なんだッ!!」
その存在が遂に勇達人類の前に正体を現した。
邪神として蠢き続け、人々に闇を植え続けて来た存在が。
そう、今こうして空に浮いている物こそがアルトラン・アネメンシーそのもの。
精神概念が長い年月を経て物質固着化する程に凝り固まった存在である。
「ここからが天士としての俺の本番だッ!! 必ず貴様を、倒すッ!!」
そしてこの存在を消し去る事こそが世界を救う唯一無二の手段と言える。
だからこそ、勇にとっての真の戦いはここからなのだ。
勇個人ではなく、人類―――いや、この宇宙の代表として。
故に今、その右手に再び光を灯そう。
この戦いの先に未来を願う全ての者達に応える為にも。
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