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第三十九節「神冀詩 命が生を識りて そして至る世界に感謝と祝福を」

~猛攻、その真なる目的は~

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 島が業炎に包まれた。
 直径二キロメートルにも及ぶ島全体が、だ。
 それも空を巻き込まんばかりに黒煙を膨らませて。

 その更に上空では巨大な赤翼を拡げた茶奈の姿が。
 なお周囲に舞う四星達から炎を放ちながら。

「燃えろ! 燃エろッ!! 魂素ノ欠片も残さず焼き尽くサレてしまえッ!! アッヒハハ!!!」

 太陽光さえ遮らんばかりに赤々と燃え、見下ろす茶奈の顔をも影に堕とす。
 その中で歪に笑う様相は、今までの演技とはまるで違う。

 まさしく悪魔だ。
 曝け出された邪神の本性だ。
 根底が捻り狂った逸人ならざるものの、世界に負を擦り込む怪声だったのだ。

 何者をも焼き尽くさんばかりの業炎黒煙を前に、その怪声が響き渡る。
 未だ絶えぬ爆裂音さえ裂かんまでに甲高く。



 しかしそんな茶奈が咄嗟に気付く。
 炎の中に一瞬、ごく小さな光が瞬いた事に。

 ―――それが始まりだった。



 突如、光が業炎をり貫いて飛び出したのだ。
 虹色の、極々細い糸の様な閃光筋が。
 それも一直線に茶奈へと向けて。

キュオオオーーーンッッ!!!

 この光はまるで【創世弦】の光矢そのもの。
 何者をも瞬時に貫く無限裂光だ。

 その輝きの元を辿った先に見えたのは―――なんと瀬玲。

 この爆炎の中でも生きていたのである。
 勇の【極天陣プロテクトスフィア】に守られて。

 しかもその才能が【創世の鍵】の一撃さえも模倣する。
 魔剣の砲身が白熱融解する程の超高出力砲として。

 ただその一撃は高出力であるが故に直線的。
 素早い茶奈を捉えるのは不可能に近い。

 だがそれでも撃ち放った。

 それは当てられる可能性を秘めていたからだ。

 茶奈が翼を扇ぎ、空を跳ねていく。
 するとその途端、光線筋が驚くべき軌跡を見せつける事に。

 突如として途切れ、何も無いあらぬ方角から飛び出したのだ。
 それも逃げる茶奈を追う様に幾度と無く。
 たちまち乱立軌跡群が後へと刻まれる事に。

 それも瞬時に、茶奈もが鋭角残光を残す中で。

 その正体は勇の天力転送。
 遠隔転送で高出力砲の軌道を強引に変更ズラしたという。
 【崩力】の感知外、かつ最短距離からの全域オールレンジ攻撃を再現したのだ。

 すなわち、転移式追跡光線砲トランシングレーザーである。

 その様相はまるで光網の如し。
 もはや人一人を通す隙間が無い程に細かく、そして破壊的だ。

 偶然か必然か、巻き込んだ魔剣星一つを貫き消し飛ばす程に。

「小賢シいッ!! ならばお前達ごと消し去るまで―――」

 しかし勢いは止まらない。
 空へと舞い上がる茶奈へと向け、流星一つが降り注いだ事によって。

 なんと心輝が落ちて来たのだ。
 魔剣を赤熱発火させる程の勢いで。

 これも勇の仕込んだ事である。
 島爆発直後に心輝を成層圏スレスレまで運び、落とした事によって。

 加えて当人の爆発力も加われば、その速度はまさに流星の如し。

 空気を裂き、音をも穿つ。
 烈火の煌鋼拳が何者をも打ち砕かんとして。

ドッギャァァァーーーンッ!!!

 それが容赦なく茶奈を打つ。
 杖柄で防がれようとも構う事無く。
 爆炎の中へと押し込まんばかりに叩き付けて。

 その左拳は主彗星。
 ならば右拳は続く連星群スターダストとなろう。

 拳は止まらない。
 左拳を押し付けたまま、右拳を何度も何度も。
 それも茶奈自身ではなく突き出された杖へと執拗に。

「短絡的なあッ!! そノ程度で私が突破出来ルとでモ思ったかッ!!」

 茶奈はそれでも凌ぎ切って見せる。
 その見境無い連撃ラッシュを弾き、黒煙をも避ける事で。

 しかも超高速で空へと舞い上がり、大翼を拡げていて。
 
「圧倒的な力差を理解出来ヌ肉共が!! 潰れテ滅しろおッ!!」

 強大な羽ばたきによる超重圧を心輝へと叩き込む。
 地球の重力を遥かに超えた、何者をも潰しかねない圧力だ。

 だがその瞬間、なんと勇が心輝の目前に。
 それもプロセスアウトによる【創世剣】の一撃を繰り出すまま。

 歪み揺れる空間をも断ち切って。

 なんと重圧が、切れた。
 真っ二つに、まるで二人を避ける様に。
 理をも断つ【創世の鍵】の力ならばそれさえ可能としよう。

 その隙を縫って、心輝が再び飛び出す。
 勇の切り拓いた道を抜け、茶奈へと一直線に。
 その機動力、もはや限界を超えて。

 感情が爆発する。
 想いが燃え盛る。
 茶奈にさえも追い付ける程の力をもたらす程に。

 するとたちまち空に二つの鋭角軌跡が長々と刻まれる事に。
 燐炎が、破光が、幾度と無く迸る中で。
 空さえも狭いと思わせる程の縦横無尽と。

 しかもその中へと高出力砲が再び放たれる。
 当然、転移式追跡光線砲として。
 なれば二つだった軌跡が遂には三つに。

 こうなるともう留まる事など無い。
 瞬時にして全てが遥か空の彼方へと抜け、またしても残光軌跡を描く事に。
 まるで流星群が空を自由に飛び回っているかの様だ。

「肉が皮肉ってならよォ!! 牛も豚も鶏肉でも、旨ぇから誉め言葉になるんだぜえッ!!」
執拗しつこい煩い鬱陶しいッ!! 性懲りもナい屑肉どもガあッ!!」

 その中で茶奈が杖を振り回し、心輝を強引に軌道より叩き出して。
 更には杖先に光を灯し、なお燃える大地へと向けて解き放つ。

 【光環珠サークルスター】だ。
 アメリカ戦で見せた、核弾頭をも飲み込むという超圧縮光球である。

 そんな命力包球が到達すれば―――地表が今度は光に包まれる事に。

「うあああーーーーーーッッ!!!」

 その下では、瀬玲が必死に光球を受け止めていて。

 地表が割れ崩れる。
 辺り一帯を押し潰して。
 岩が砂が消し飛びながら。
 何者をも光の真白に覆い尽くす中で。

ビギギッ!!

 その圧力が、濃度が遂に魔剣の強度さえも凌駕する。
 【ペルパリューゼ】の筐体に無数の亀裂が走ったのだ。
 高出力砲の負荷に加え、【光環珠】の命力吸収に耐えきれなかったらしい。

「耐えて【ペルパリューゼ】ッ!! 今一度だけえッ!!」
 
 命力珠が融解し、筐体が破片を舞わせる。
 しかしそれでも瀬玲の強い想いに応え、四つの砲身がまた光を飲み込んだ。

 それが渦巻き、捻り、炎と共に飲み込んで。
 赤煙と共に収束、瞬光を弾かせたままに空へと向けて輝き迸る。

 焼けた大地にそそり立つ、閃光の巨大十字柱グランドロザリオンとして。

 その下で瀬玲が魔剣を番え、頭上一直線に解き放つ。
 【光環珠】の超エネルギー全てを集約した一撃を。
 周囲を抉り尽くす程の衝撃波と共に。

 魔剣【ペルパリューゼ】が粉々に砕けようとも構う事無く。

 放たれた一撃は今までの何よりも強大かつ巨大。
 あの茶奈が首を引かせてしまう程に。

 そんな彼女の前に三星が飛び塞がる。
 それも光の三角陣を描いて。
 光の盾だ。
 小さいながらも高濃度の命力盾が形成されたのだ。

 命力盾と十字光矢グランドロザリオン
 この二つの力がたちまち打ち合い、飛雷裂光スパークする事に。

 均衡している。
 どちらも負けてはいない。
 あの【アストラルエネマ】の力を以てしても打ち消せないでいる。

「よクここまでやルッ!!! だがーーーッッッ!!!! 」

 ただこれは子星達の力だけを使った結果に過ぎない。
 そこに本体の持つ力が加われば―――

ドッバァァァーーーンッ!!!

 こうして弾けて散る事となる。
 茶奈の杖による一突きが加わった事によって。

 魔剣を犠牲にした決死の反撃カウンターもこれでは無為に。

 だがやはり瀬玲は瀬玲だ。
 こうなる事さえも見越していたのだろう。

 光が弾ける。
 無数の糸を撒き散らしながら。
 それも、茶奈を覆い尽くす様にして。

 光矢に細工を施していたのだ。
 茶奈の動きを止める包縛網トラップネットとなる様に。
 ただでは転ばない瀬玲らしい追撃である。

「それは簡単には解けないでしょッ!!」

 しかも茶奈の超濃度命力を流用している。
 お陰で自身では切れない事も加え、強靭かつ強固。
 故に、あの茶奈が捕らえられて間も無く身動きをも止められる事に。

「ぐウううッ!!?」

「くぅおおおーーーーーーッッッ!!!!」

 その隙を逃がす訳にはいかない。
 そう言わんばかりに背後から勇が現れ、輝く斬撃を力の限りに振り下ろす。

ギャアアアアアンッッ!!!

 しかしその時鳴り響いたのは斬れた音でも空音でもない。
 金属を擦り削る金鳴音だ。

 なんと三星が勇の斬撃を受け止めていた。
 縦一列に均等と並び、削岩機ドリルの様に回転しながら。
 一寸の狂いも無く【エベルミナク】の刃に並んで突き立っていて。

 更には驚くべき事までやってのける。
 三星が回転するまま、刀身を強引に削り取ったのだ。
 深々と抉り、象形飾りさえも砕き炸裂させる程に勢いよく。

「うおおおーーーッ!!?」

「この程度ノ束縛があッ!! 私に何の意味をもたらスというのだあッッ!!!」
 
 しかも勇もが激しく弾かれる事となる。
 突如として茶奈から放たれた強圧によって。

 茶奈の命力の色が変わっていく。
 赤々しかった光が真っ黒に。

 命力質転換ソウルチェンジである。
 本来、普通の人間では実現不可能と言える現象だ。

「どれダけの魂を喰らってきたと思ってイるッ!? この肉だケが我が力ではナいッ!!」

 これは人ならざる邪神だからこそ出来る。
 無数の人々の魂を混ぜ込んだ存在だからこそ。
 故に、身に纏う捕縛糸さえ瞬時にして消し飛ぼう。

 そうして翼を奮う姿にもはや神々しさは欠片も無い。
 まるで闇を抱く邪悪そのものだ。
 その性質と合わさり、見紛う事無き邪神を示している。

 でもその姿がなんだというのだ。
 邪神と戦っていた事実に変わりはない。

 だからこそ恐れはない。
 怯えも恐怖も不安も取り払った。
 全てを巻き込み、全てを力と換えた。

 ならば力巻りきまこう。
 己と、仲間と、死んでいった者達の想いも推力へと換えて。

 燐光が渦巻く。
 虹炎が轟く。
 青の空をも貫く輝羅烈閃の軌跡が示すままに。





「ブチ貫けェ!! 灼雷咆哮ラティスタン・ロアァーーーーーーッッッ!!!!!」





 それは茶奈が捕縛を解いた直後だった。
 気付けない程に一瞬の事だった。
 たったそれだけの間に心輝が距離を詰めていて。

 その中で遂にあの極光烈拳を解き放つ。
 全てを穿ち、貫き、焼き尽くす究極拳を。

「ちいいッッ!!?」

 その拳に、茶奈の杖先突きが迎え撃つ。
 躱せない防げない、そう悟ったからこその応戦として。

ガッキャアアアンッッッ!!!

 故に激音が響く。
 鼓膜を突く程にけたたましく。
 超高硬度の魔剣が打ち合った事によって。

 その衝撃は場を包む程の虹燐光を撒き散らすまでに強大。
 それでいて大気が吹き飛び、真空圧をももたらしていて。

 その中で打ち合った二人が、睨みを交わす。
 力の限りに自慢の拳を、杖を突き押して。

ビギギンッ!!

 しかしその押し合いも直ぐ均衡が崩れる事に。
 【ラークァイト】の左拳に亀裂が走ったのだ。
 さすがの高強度を誇ろうとも、このぶつかり合いと威力には耐えきれなかった。

「だから無駄だト言って―――」
「いいやッ!! 無駄なんかじゃねえええーーーーーーッ!!」

 でも拳は収まらない。
 炎が光が、魂が打ち震える限り。
 魂燃ゆる拳は何であろうと貫けぬもの無し。

 何故ならば。



 今穿ちしは物ではなく、その魂なのだから。



バッギャギィンッ!!!

 裂音がまた響く。
 それも連鎖的に。

 それでいて、先よりもずっと破壊的に。 

バッキャァァァーーーーーーンッッッ!!!!

 そして遂に砕け散る事となる。



 茶奈の杖が。
 今まで猛威を奮ってきた魔剣【ユーグリッツァー】が、粉々に。



「なんダと……ッ!!?」

「へっ、へへ……ッ!!」

 この結果を前に心輝が小賢しく笑う。
 一方の地上でも勇と瀬玲が力拳を握っていて。

 そう、三人はこれを狙っていたのだ。
 決して茶奈本体では無く、武器である魔剣の破壊をずっと。

 だから攻撃を繰り返した。
 魔剣を破壊し、攻撃力を削ぐ為に。
 体力も命力も削ぐ上で攻撃手段をも奪う事に徹したのである。

 そうして今、とうとう実が成った。
 勇達の地道な努力が決定的な成果として。

 確かに茶奈は無尽蔵の命力を持ち、本体だけでも充分に強い。
 だが遠距離砲撃が無ければもう、一撃必殺級の攻撃は皆無となる。

 すなわち恐れる要因が激減したという事に他ならない。
 ならここからが勇達の真の反撃となろう。



 邪神攻略はここより真価を見せる事となるだろう。
 人類 対 邪神―――この戦いにようやくの転機が訪れた瞬間だった。


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