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第十節「狂騒鳥曲 死と願い 少女が為の青空」

~希望の陽光をもたらさん~

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 またしても時を少し遡り―――
 勇が落ちた直後の事。

「勇殿ォォォーーーーーーッッ!!!」

 爆炎によって弾かれ落ち行く勇を前にして、ジョゾウが叫びを上げる。
 それどころかロゴウを蹴り出し、勇を追おうと羽ばたかせていて。

 だがその直後、進路を側近達が阻む事に。

「退けぇい!!」

「退かぬ!! それに今行った所で間に合わん、あの魔剣使いはもう終わりだッ!!」

 ミゴを失い、ドウベとロンボウも雲へと落ちた。
 つまり今はジョゾウ一人がロゴウ達に囲まれている状態で。
 背中からは魔剣を突き付けられ、逃げる事も叶わない。

 もはや出来るのは羽ばたく事だけ。
 観念時とも言える状況に、ジョゾウも苦悩を顔に浮かべざるを得ない。

「ジョゾウ何故わからぬ、我等が思想を。 平穏など人間には叶えられはすまい」

「ロゴウ、それは違おうな。 其方が言うていた事とまるで違おう」

「何……?」

「勇殿は教えてくださった。 命の尊さ、それを捨てる事の無意味さを。 まだわからぬか? それは其方が提唱してきた事と何ら変わらぬ!!」

「ッ!?」

「平穏は、人間に求めるのではない。 共に求めるものなのだ! そう、それが五年前、新兵であった拙僧が其方から教えられた事そのものであるッ!!」

 しかしそれでもジョゾウの心は退かない。
 勇にも教えられて、ロゴウ自身にも教えられたから。
 戦う事自体には何の意味も無いのだと。

 この志は決して今日今得たものではない。
 ジョゾウがカラクラの里を守る精鋭の一人となった時から始まっていたのだ。

 ロゴウという優しかったはずの王の下で。

「何故変わったのだロゴウ!! 何故に変わってしまったのだ!!」

「変わってなどおらぬと言うたッ!! 儂が平穏を願ったのは―――願った? 儂は何を願った!?」

「ロ、ロゴウ……?」

「いいや、願ったのは―――殲滅だ、人間の殲滅だあッ!!」

 でももうその優しかった王は居ない。
 今はただ人間を憎み怨む魔者そのものの姿で。
 そのおぞましいまでの憎悪と殺意は今までの敵性魔者にさえ通じる。

 滑稽なまでに醜悪である。
 わざとらしく見える程にその顔を歪めてさえいたから。

 長年共に居たであろうジョゾウさえもが見た事無い程に。



ボボボボボーーーッッ!!!



 するとそんな最中、聞いた事も無い籠った轟音が場を包み込み始める。
 勇とちゃなが上昇してきたのだ。

 ただそれは本当に一瞬の事で。
 顔を向けようとした時にはもう、煙を撒いて空へと昇っていて。
 気付けば揃って空を見上げ、唖然とするばかりだ。

「な、なんだあれは?」
「わからん、人間の新兵器か?」

 それでもこう呑気でいられるのは、もう敵がいないと思っているからだろう。
 勇もちゃなも落ちたと思っているし、人間の武器が通用しない事はわかっているから。
 すぐに視線を戻し、ジョゾウを続き尋問しようとして―――いたのだが。

「好機ッ!」

「ぬぅ!? 待てぃジョゾウ!!」

 なんとジョゾウはその隙を見て脱出していた。
 敢えてその翼を仕舞い、自由落下するまま。

 落下していくジョゾウと、後を追うロゴウ達。
 雲から離れていた双方も、遂にはその傍にまで到達する事に。

「このまま勇殿を追って体勢を―――ぬ、これはッ!?」

 しかしその時、仕舞った翼が再び開かれる事となる。
 何かを感じ取ったからこそ。

 退く必要など、最初から何処にも無かったのだと。

「ホッホウ! そうか、であれば勇殿達は―――なれば意地を通して見せよう!! 」 

「追い詰められて気が狂ったかジョゾウ!?」

「否!! 希望は我等に在りッ!!」

 故に今、腰に備えた短刀をその両足に取る。
 己の命を断つ為に使おうとした短刀を今、ロゴウ達への反旗の為に。
 けれどそれは決してロゴウとの決別を意図したものではない。

 その短刀を以て誓いを成す。
 例えその命を費やす事と成ろうとも。
 それが勇へと密かに誓った事だったから。
 己の命の代わりに、敵の決意を断つのだと。

 そしてその誓いは決して、一人だけで紡いだものでは無い。

「すまぬジョゾウ殿ォ!! ドウベここに!!」

「ロンボウ戻り申したァ!!」

 そう、彼等もまた契り交わした者達だからこそ舞い戻る。

 落ちていたドウベとロンボウが戻ったのだ。
 まるでジョゾウの決意に応えんばかりにと。

 勇が居なくなっている事にはもう気付いている。
 それでもこうして馳せ参じたのはジョゾウが諦めていないから。
 ジョゾウが諦めていないのなら、まだ活路はあるのだと信じているからだ。

 今動ける者がこうして揃った。
 ならば今こそ、その決意の形を見せつけよう。

「然らば見よ、我等が意地を!! 我が名はジョゾウ!!」
「ッドウベ!」
「ロンボォウ!」
「「「我等カラクラが精鋭七人衆!!」」」

 でも、満を持して見せつけたのは―――ただの派手な名乗り口上で。
 三人揃って翼を大袈裟に広げるだけという。

 これにはロゴウ達もただ唖然とするばかりだ。
 この滑稽なまでの素振りに何の意味があるのかと。
 おまけに七人でもないから、呆れて物も言えないらしい。



 だが、それはロゴウ達が知らないだけだ。
 こう呆れさせる事、惹き付ける事こそがジョゾウ達の真の目的だという事を。



ギュオオーーーッ!!!

 そんなロゴウ達の背後から、突如として激音が走る。
 今までにも聞いた事が無い、凄まじいまでに空を裂く鳴動音が。

 その音に気付いた時にはもう―――何もかもが遅かった。

バヅンッッッ!!!!

 その瞬間には側近の一人が上下真っ二つに切り裂かれ吹き飛んでいたのだ。
 空をも切り裂かんばかりの閃光筋が走ると共に。

 勇とちゃなによる、擦れ違いざまの斬撃である。
 しかも二人がただ通り過ぎただけでこの威力という。

 これはちゃなが飛び、勇が剣を構えていただけ。
 ただそれだけでも強烈な一撃となるから。
 何者をも断ち切る驚異の超斬撃として。

 もはやこの威力、並みの生物では実現さえまず不可能。
 二人の力が合わさった事で成し得た、まさに一撃必殺の剣と言えよう。

「な、なんだとぉぉぉ!?」

「ば、馬鹿な、奴等はまさかあッ!?」

 この勇達の登場により、たちまちロゴウ達がパニックに陥る。
 まさか人間が空を飛ぶなど夢にも思わなかったからだ。
 それも超高速、超豪快と、自分達の飛行性能を遥かに凌駕しているのだから尚の事で。

「やはり勇殿ちゃな殿かッ!! さすが見込んだだけの事はあろうな!」

「ロゴウ達もまさか空を飛べるとは夢にも思うまいて!」

「ナーッハッハ!」

 一方のジョゾウ達はと言えば浮かれる一方だ。
 勇とちゃなの驚異の飛行を前に喜ばずにはいられなかったのだろう。

 とはいえ、何故ジョゾウ達は驚かないのか。
 彼等もロゴウ達同様に驚いてもおかしくないのだが。

 でもその答えは実に簡単だ。
 彼等の頭に備えたヘッドセットこそが全てを物語ってくれる。

 そこから聴こえて来た声が全てを導いてくれたのだから。





 その頃、中継移動基地では―――

「―――エウリィ王女、御協力感謝しますッ!!」

『ヒキツヅキ、ガンバッテ、クダサイ』

 事を終え、杉浦が通話機のスイッチを切る。
 作戦が成功した今、もうこれ以上の通話を行う必要性が無くなったからこそ。
 ジョゾウ達と杉浦達、双方とコンタクト出来る人物との通話を。

 その人物こそがエウリィ当人。

 なんと今、杉浦はエウリィと電話で繋がっていたのだ。
 しかも更にエウリィを介し、ジョゾウ達ともコンタクトを取るという。

 勇とちゃなの接近を悟らせぬ様に引き付けろ、という作戦を伝える為に。

 杉浦達は勇達が空を飛んでいる事をもう知っていた。
 勇が旋回復帰中にインカムを通して全ての状況を伝えたから。
 だからもう既にボウジやムベイも空に向かっている。
 多くのドローン達と共に。

 現代科学が作り出したのは空戦兵器だけではなかったのだ。
 電話という汎用機器が『あちら側』の人間と魔者による協力作戦すら生んだのである。

 この時が訪れるのを一体誰が予想しただろうか。
 かつて滅ぼし、滅ぼされた者達の末裔がこうして手を組むなど。
 同じ言語を覚えながらも殺し合う、その末に待っていたのが協力しあう未来だったなどとは。

 これはもはや奇跡だ。
 現代人が仲介する事で生まれた、紛れも無い奇跡なのだ。

 そしてこの奇跡を活かさないでいられる程、現代人は楽観的ではない。

「総員!! 藤咲氏と田中氏を全力援護だッ!! これが無事成功した暁には、俺が全員を高級焼肉店に連れてってやるッ!!! もちろん経費でだあッ!!」
「「「おおおッッ!!」」」

 たった今、杉浦達もがその力を存分に奮う。
 この奇跡を、絶好の機会を最大の効果へと繋げる為に。



 遂に正念場が訪れる。
 勇達がロゴウ達との決着を付ける時がやってきたのだ。

 ちゃなが空を飛ぶという奇跡。
 エウリィとジョゾウ達が協力し合うという奇跡。
 この二つの大いなる可能性を胸に秘め、勇が景色の先を見据えよう。

 この青の大空に、勝利の陽光をもたらす為にも。


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