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第十節「狂騒鳥曲 死と願い 少女が為の青空」

~魔砲少女の求めし力とは如何に~

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 まさかのエウリィ登場は勇達を大いに驚かせたものだ。
 あのフェノーダラ王様が許したのもそうだが、それよりも何よりも。

「エウリィさん、ジョゾウさん達の事が怖くないの?」

 この現実問題があっての事だから。

 今更の話だが、エウリィは『あちら側』の人間で。
 当然魔者に対して敵意もあるし、数多くの恨みも持っている事だろう。
 幾度となく襲われる事のあった国において、それが無いとはとても思えない。

 でも今、彼女は魔者であるジョゾウ達と共に居る。
 それも握手まで交わし、会話まで交わしているという。

 事情を知る勇達にとってはなんとも不思議な光景だ。
 喜ばしくもあるが、それより「何故?」という疑問の方がずっと強くて。
 まるで今のエウリィが以前とは別人の様にさえ見えてくる様だったから。

「最初は怖かったです。 父上に部屋から出るなと言われた末、怯えていたくらいに。 でも勇様にここまで色々教えられましたから。 例のグゥ様の事からアルライの里の事、アージ様、マヴォ様の事も。 そして先日の飛行訓練を観ていて思ったのです。 『勇様が信じるなら、私も信じてみよう』と」

 ただ、こうなったのは必然だったのかもしれない。
 想い慕う勇が魔者と次々仲良くなっていったから。

 幸い、エウリィにも勇に負けない青空の心がある。
 更には理解する知恵もある。
 だから勇の認識を受け入れる事も出来るし、論理的に考える事さえ出来る。
 きっとそのお陰で払拭出来たのだろう。
 魔者が必ずしも恐れるべき存在であるという固定概念を。

 とはいえ少し恐れも残っているけれど。
 不意に触れられればちょっと驚いてしまう程度には。

 しかしそれはジョゾウ達も同じだ。
 当然、驚いてしまうその気持ちも。

 だからだ。
 だから彼等はやっと理解出来る。
 人間も魔者も、実は大して変わらない存在なのだと。

 姿形が違おうとも、遥か昔の因縁があろうとも。
 今こうして向き合う姿は何も変わらない―――似た思考の持ち主なのだという事が。

「このジョゾウ、エウリィ王女殿下の広き心に感服仕った。 これはその御方に向けた親愛の証なれば、受け取って頂きたし」

「まぁ! 【カラクラ族】とは胸毛を贈り合う風習があるのですね。 困りました、私にはその様な物は生えておりません……」

「エウリィさーん!?」

 もっとも、こうして打ち解け合い過ぎるのも問題か。
 自身の襟元を広げて覗き込むエウリィへ、たちまち勇の「待った」が飛ぶ事に。
 気持ちに正直過ぎるのも時には困りものである。

 ジョゾウの方は「人には羽毛も生えておらぬとは、何とも難儀な」と一人呟いていた訳だが。

 生えている女性も居るには居るが、ビジュアル的には余り頂けない。
 故に、エウリィにそんな物が無くて良かったと安心する勇の姿があったという。





 エウリィが参加したとはいえ、やる事は基本変わらない。
 遊びたい・お喋りしたい気持ちもあるが、戦いが終わるまではそうもいかないから。

 なので勇は今再び、充電の終えたドローン達と共に空中へ。
 ジョゾウ達は櫓を持ち上げながらの飛行訓練開始に。

 そしてちゃなは新たな攻撃方法の模索でエウリィと共に話し合いだ。
 立ち話もなんだと、テントの中で机を囲んで。
 
「ちゃな様、炎弾である必要はありますか?」

「えっ?」

 そんな最中飛び出したのは、この突拍子も無い一言だった。

 炎弾とは魔剣使いとしてのちゃなにとって半ばアイデンティティに近い。
 初めて放った攻撃でもあり、数々の敵を葬った自信の源でもあるから。
 それに何より炎・爆発といった攻撃はイメージするに容易い事でもあって。

 しかしそれに頼り過ぎていた所もあったのだろう。
 だから考えやすい発想に寄り過ぎていたのかもしれない。
 今の先詰まり感はきっとその発想の余地を埋め尽くしてしまったから。
 後は自分の知る範囲で形威力を調整するだけに至り、新しい物が生まれないのだ。

 それでも北海道戦で得た【超高熱線砲ヒートライン】は画期的だ。
 まさに危機的状況が生み出した奇跡の発想と言えるだろう。
 でも常にそんな発想が生まれるとは限らない。

 開拓が必要なのだ。
 炎でもなく、爆炎でもない新たな分野への余地開拓が。

 それが出来なければ、これからの成長はもう見込めない。
 砲撃系魔剣使いの様なイメージありきの戦いを行うならば特に。

「残念ながらわたくしには識がありませんので具体的な助言は出来ません。 しかしこれだけは知っています。 イメージを大事とする砲撃魔剣を扱うならば柔らかな発想が必要と」

「柔らかな発想……」

「固定概念に囚われず、思うがままに事を形作る。 それが出来ないと砲撃系魔剣は扱えないと聞きます。 加えて命力消費も多い事から【ドゥルムエーヴェ】には使い手が少なかったという事です」
 
 強力であるが故に扱い方は複雑。
 基本が特尖的ピーキーとも言える砲撃系魔剣使いの弱点だ。
 まさにファンタジー作品に出て来る魔法使いと似た様な立ち回りと言えよう。

 ならば砲撃魔剣を使いこなすちゃなはさしずめ、魔使いと言った所か。

「わたくし、少しお城に戻りますね。 もしかしたら【ドゥルムエーヴェ】の攻撃手段に関する記述が何か見つかるかもしれませんから」

「あ、はい! お願いします!」

 とはいえ過去にちゃなほど砲撃を放てた者はいないだろう。
 【複合熱榴弾コンポジットカノン】に【超高熱線砲ヒートライン】。
 どちらも並みの魔剣使いでは一発さえ撃つ事も叶わない超高燃費攻撃なのだから。

 つまり、今のちゃなに一般魔剣使いの常識は当てはまらない。

 なので恐らく、エウリィの努力は水泡に帰すに違いない。
 けれどそれでも走るのは、僅かなヒントでもあればいいと思ったから。
 キッカケの一つでも与えれば、新しい可能性が生まれるかもしれないと。

 ちゃなもこうなれば必死だ。
 授業中の時間であろうが構う事無く、心輝へと向けて助けのメッセージを送る。
 少しでも何かしらの打開策が得られる事を信じて。
 その為にはもうなりふり構ってはいられないから。



 それから間も無く、心輝からのメッセージが返ってくる。
 その内容はと言えばこうだ。

『心輝:燃費度外視でいいなら核爆発みたいなのはどうだ? 爆弾投下するんじゃなくて、敵の懐でエネルギーを収束させてドカーンって感じでよ』

 実に心輝らしい発想である。

 とはいえこれはさすがに使えない。
 大きな爆発は気流の乱れと衝撃波をもたらすから。
 規模が大きいとこちら側の不利にも繋がりかねないのだ。
 ジョゾウからも初日の特訓でそう言われ、禁止行動の一つとされている。

「うーん、心輝さんのアイディアでも駄目かぁ~……どうしよう」

 〝敵地でエネルギー収束〟という辺りは使えそうなのだが。
 〝何を〟〝どうやって〟という所がどうにも浮かばない。
 完全に手詰まりだ。

 悩む余りに机の上で溶けて、スマートフォンの画面もぺたりと。
 そうしてチラリと見えたのはテントの外。
 自由自在に動くドローンを飛び回る勇の姿で。

 幸先の良さそうな雄姿を前に、思わ溜息が零れる。

「はぁ、私もいっそあのドローンみたいになりたいな。 それはさすがに無理だけど」

 自分も空が飛べたらきっとこんなに悩む事は無いのだろう。
 ジョゾウ達の様に、背中に羽根でも生えてくれればいいのにな、と。
 ちゃなはそう願わずにいられない。
 今のままではまた北海道の時の様に悩んでしまいそうだから。

「魔剣で羽作れたらなぁ……でもなんか燃えそうだからやめとこ」

 何にせよ発想力が乏しい今での実践は危険だ。
 なんとなく、そう勘が伝えている。
 だからこそ悩みは止まらない。
 机上で溶けるその姿は更に酷さを増す一方である。

 するとそんな時、手に掴んでいたスマートフォンが再び振動を起こす。
 それに気付いて伏せていた画面を起こすと、そこにはエウリィの名が。

『エウリィ:少し人手が欲しいです。 少しお城に来て手伝って頂けませんか?』

 どうやら記録を漁るにも、記述書を読むだけとはいかないらしい。
 思わぬ助っ人要請にちゃなも思わず「ありゃあ」と声を漏らす。
 とはいえ乗り気が無い訳でもない様だけれど。

 このまま溶けていても仕方がない。
 ならいっそ体を動かした方が気楽かも。
 そんな想いがふと過り、ちゃなが再び起き上がる。
 勇に感化されて少し体育会系のノリに目覚めたのかもしれない。

「勇さん! 私ちょっと城に行きますねー!」

 考える事もいいけど、今はただがむしゃらに。
 体を無心で動かし、頭をクリアにする事も大事だと思ったから。

 だから今は走ろう。
 血の気の足りない頭を少しでも回す為に、と。



 こうしてちゃなはエウリィや兵士達の協力の下、城に詰まった書物を漁る事に。
 途中からは勇も参戦し、ちゃなの攻撃手段の模索は夜中まで続いたという。



 しかし時というモノはそれでも無情に過ぎ去っていくものだ。
 来たるべき時―――その訪れまでの猶予もまた然り。

 何故なら敵はもう、すぐそこまで迫ってきているのだから。


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