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第三十八節「反旗に誓いと祈りを 六崩恐襲 救世主達は今を願いて」
~絶滅すべき異形種 ナターシャ達 対 劣妬④~
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魔者には多くの種族が存在する。
それは単に、天士が動物に進化を促して造り上げたから。
だからその末に別れて独自進化した魔者達も、自然と現代の動物と似ていった。
天士の解析した進化理論が、地球コピー時に現代の動物にも継承された為である。
例えを挙げるならばアージ達、熊に似た種族が最良だろう。
アージ達は北国育ちだから白熊に。
ベゾー族は中国地方育ちだからパンダに。
それは決して偶然でも御都合展開でも無く、生物的進化として必然だったのだ。
もちろん魔者の種別は哺乳類だけに留まらない。
かつて熊本で戦ったザサブ族はトカゲ、すなわち爬虫類で。
リッダ達ナイーヴァ族のベースは魚類だ。
ジョゾウ達の様な鳥類ベースも居るし、何ならカエルなど両生類ベースも居る。
そういった意味で魔者は人間とは比べ物にならないほど多種多様。
未だ勇達すら知らない種族が『あちら側』にも残っている事だろう。
ならば、昆虫類はどうだろうか?
これは例外だ。
昆虫類の様な種族は存在しない。
いや、厳密に言えば―――もう、存在しない。
かつて星を二分するに至る程の戦争があった時の事。
人間と魔者は互いに憎み合う様になり、その憎悪の炎は何もかもを焼き尽くしたという。
しかしその憎悪の矛先は決して、「人間 対 魔者」とは限らなかった。
その時、人間も魔者も考えたものだ。
滅ぼすならば、まずは滅ぼすに相応しき者にするべきなのだと。
その対象こそがあろうことか、昆虫型の魔者だったのだ。
彼等は人間とも獣型の魔者とも違っていた。
容姿もさることながら、生き方や考え方が。
自分達を人間とも魔者とも思っておらず、普通に他種族を捕食する。
足の数は多いが、手が発達していないから思考力も乏しい。
だから逆に身体能力・命力が高く、生存能力も繁殖力も非常に高いという。
まさしく虫と言わんばかりの能力が備わっていたのである。
その容姿を、能力を、人間も魔者も恐れた。
だから滅ぼしたのだ。
星の隅々から徹底的に、存在記録にさえ遺さず。
まるで最初からそんな者達など居なかったと言わんが如く。
故に誰も知らない。
その滅亡から逃れた唯一の生き残りがここに居る事を。
邪神の眷属として本性を曝け出したあの者が忘却されし種である事など。
その名はペルペイン。
超重厚の肉壁を纏いし異形種が、今ここにその姿を晒す。
今見えている人間幼女の身体は擬態に過ぎない。
己が憧れ、願い焦がれた末に造り上げてしまっただけの。
人間の挽肉に着色し、これ程かというまでに凝縮し続けて造り上げた肉人形。
その密度の在り方はもはや物理特性を超越している。
だから剥がれ落ちた時、固めた力の根源より切り離されたから溶けたのだ。
固形物質として維持出来ない程に圧縮し続けられたからこそ。
つまり今、ペルペインの足元に広がっているのは腐敗肉だった液体だ。
それも気が遠くなるほど昔に採られた人間の。
故に鼻を突く程の異臭がたちまち広がっていて。
そしてペルペインは凶喜する。
その異臭をも悦びへと換えて。
「ペルはねえッ!! おまえたちのおにくがほしいのおッ!! つよいにんげんのおにくが、いっぱいいっぱぁーいほしいのおおおーーー!!」
その叫びと共に、頭から背から放つ殺意が暴走する。
顔の一部が剥がれた事で漏れた「キチキチ」という節擦音を混じえて。
よく見れば、覗いた隙間からは何かの節が動いているようにも。
なまじそんな物が見えてしまったから、ナターシャもアンディも動揺を隠せない。
〝目の前に居る奴は一体何なのか〟という疑問が生まれたが故に。
その動揺が迷いを生み、動きを鈍らせる。
先程まで余裕で避けきれていた攻撃も、今となっては躱すのもギリギリだ。
空に打ち上げられた熱榴弾が無数に降り注ぎ、大地を溶かし爆砕させて。
執拗に追い来る角がその退路を削いでいく。
なお激しさを増しながら。
そんな攻撃の嵐を前には、魔剣で躱しては逃げ回るのがやっとで。
爆風がそれだけ凄まじく、跳んで避ける事も叶わない。
爆心地を見切り、その足で駆けずり避ける事しか出来ないのだ。
「うああーッ!? どんどん激しくなるよっ!?」
「くっそお!! 何なんだコイツ!! 正真正銘の化け物じゃないかッ!!」
「ペルはばけものじゃないのッ!! にんげんなのっ!! にんげんなのおーーーッ!!」
もはや異臭を気にする余裕すら無い。
ペルペインがこうやって二人の声にさえ反応を見せていたのだから尚更の事。
でもきっと自分が何を言っているのかもわからないのだろう。
そう叫べば叫ぶ程、〝自分が人間ではない〟と告白しているのと同義なのに。
「ペルはねぇ!! にんげんのおにくをかぶったからにんげんなの!! だからこれからもずっとだいすきなにんげんなのぉぉぉ!!」
この知能こそが虫型魔者の由縁か。
これは決して彼女が幼いからではない。
これが彼女の精一杯の思考能力なのだ。
しかも自分が人間だと信じて疑わない。
普通の人間ならばこんな事など出来はしないのに。
精気を吸う事も、熱線を放って街を焼く事も。
自分の信じる事が全て。
その究極たる独善は、他人の声も受け付けない。
「ペルのことをいじめるのはねぇ!! ペルがつよいこだからなの!! だからペルはね、ペルはね、よわいこになりたいのッ!! よわくていっぱいたのしいにんげんになりたいのッ!! だからペルはねぇ!! ペルはねぇーーーッッ!!」
しかしてその精神は、恐らくかつての記憶に起因しているのだろう。
自分達が滅ぼされる事となった古代の出来事に。
その頃はまだ、もしかしたら彼女も常人並みの思考を有していたかもしれない。
だから事実も認識出来たし、夢や理想も考える事が出来たのだろう。
でももうその思考力も記憶も遥か昔の事。
今の彼女は人間になりたいだけの、ただの殺意の塊だ。
叫ぶペルペインの顔が歪みに歪む。
人には到底成せない表情を形成して。
そこに潜むのは喜びか、憎しみか。
それともただの着ぐるみの不具合か。
「ナターシャ!! コイツの言葉に耳を貸すな!! 話なんて通じる訳がねーッ!!」
「うん、わかってる!! この子はもう……人間にはなれないんだってッ!!」
「ペルはにんげんなのおおーーーッ!!」
この様な暴挙の叫びを前にして、ナターシャもアンディもただただ怯むばかりだ。
その怒りにも足る叫びの根源が、何かも一切、何一つとして全く理解出来ないからこそ。
なにせ相手の思考論理が全然掴めない。
邪神の眷属がこういうものなのかと思えてしまう程に。
それだけちぐはぐで、支離滅裂で。
だからこそナターシャは哀しかった。
話せそうなのに、全く対話が出来ない事に。
好きな者を殺したがるというその思考の離転に。
そんな者と相容れる事など、到底出来ないのだと。
「だからもう、やるしかないんだッ!! ボクは君を殺すよ。 守りたいものがあるからッ!!」
「ブチかますぞッ!! 帰るべき所に帰る為にッ!!」
ならもう手段は一つしか残されていない。
この爆撃と猛追の嵐を潜り抜け、必殺の一手を貫く為には。
二人の魔剣が秘めし感覚加速の力、【越界共感覚】。
その先に見える未来は可能性。
その可能性を掴まんと、両手に力を灯す。
【アーデヴェッタ】という特異をも加え、更なる加速を実現させて。
傲慢なる凶気を断ち切る為に。
猛烈なる殺意を打ち消す為に。
今、二人は再び―――世界を越える。
それは単に、天士が動物に進化を促して造り上げたから。
だからその末に別れて独自進化した魔者達も、自然と現代の動物と似ていった。
天士の解析した進化理論が、地球コピー時に現代の動物にも継承された為である。
例えを挙げるならばアージ達、熊に似た種族が最良だろう。
アージ達は北国育ちだから白熊に。
ベゾー族は中国地方育ちだからパンダに。
それは決して偶然でも御都合展開でも無く、生物的進化として必然だったのだ。
もちろん魔者の種別は哺乳類だけに留まらない。
かつて熊本で戦ったザサブ族はトカゲ、すなわち爬虫類で。
リッダ達ナイーヴァ族のベースは魚類だ。
ジョゾウ達の様な鳥類ベースも居るし、何ならカエルなど両生類ベースも居る。
そういった意味で魔者は人間とは比べ物にならないほど多種多様。
未だ勇達すら知らない種族が『あちら側』にも残っている事だろう。
ならば、昆虫類はどうだろうか?
これは例外だ。
昆虫類の様な種族は存在しない。
いや、厳密に言えば―――もう、存在しない。
かつて星を二分するに至る程の戦争があった時の事。
人間と魔者は互いに憎み合う様になり、その憎悪の炎は何もかもを焼き尽くしたという。
しかしその憎悪の矛先は決して、「人間 対 魔者」とは限らなかった。
その時、人間も魔者も考えたものだ。
滅ぼすならば、まずは滅ぼすに相応しき者にするべきなのだと。
その対象こそがあろうことか、昆虫型の魔者だったのだ。
彼等は人間とも獣型の魔者とも違っていた。
容姿もさることながら、生き方や考え方が。
自分達を人間とも魔者とも思っておらず、普通に他種族を捕食する。
足の数は多いが、手が発達していないから思考力も乏しい。
だから逆に身体能力・命力が高く、生存能力も繁殖力も非常に高いという。
まさしく虫と言わんばかりの能力が備わっていたのである。
その容姿を、能力を、人間も魔者も恐れた。
だから滅ぼしたのだ。
星の隅々から徹底的に、存在記録にさえ遺さず。
まるで最初からそんな者達など居なかったと言わんが如く。
故に誰も知らない。
その滅亡から逃れた唯一の生き残りがここに居る事を。
邪神の眷属として本性を曝け出したあの者が忘却されし種である事など。
その名はペルペイン。
超重厚の肉壁を纏いし異形種が、今ここにその姿を晒す。
今見えている人間幼女の身体は擬態に過ぎない。
己が憧れ、願い焦がれた末に造り上げてしまっただけの。
人間の挽肉に着色し、これ程かというまでに凝縮し続けて造り上げた肉人形。
その密度の在り方はもはや物理特性を超越している。
だから剥がれ落ちた時、固めた力の根源より切り離されたから溶けたのだ。
固形物質として維持出来ない程に圧縮し続けられたからこそ。
つまり今、ペルペインの足元に広がっているのは腐敗肉だった液体だ。
それも気が遠くなるほど昔に採られた人間の。
故に鼻を突く程の異臭がたちまち広がっていて。
そしてペルペインは凶喜する。
その異臭をも悦びへと換えて。
「ペルはねえッ!! おまえたちのおにくがほしいのおッ!! つよいにんげんのおにくが、いっぱいいっぱぁーいほしいのおおおーーー!!」
その叫びと共に、頭から背から放つ殺意が暴走する。
顔の一部が剥がれた事で漏れた「キチキチ」という節擦音を混じえて。
よく見れば、覗いた隙間からは何かの節が動いているようにも。
なまじそんな物が見えてしまったから、ナターシャもアンディも動揺を隠せない。
〝目の前に居る奴は一体何なのか〟という疑問が生まれたが故に。
その動揺が迷いを生み、動きを鈍らせる。
先程まで余裕で避けきれていた攻撃も、今となっては躱すのもギリギリだ。
空に打ち上げられた熱榴弾が無数に降り注ぎ、大地を溶かし爆砕させて。
執拗に追い来る角がその退路を削いでいく。
なお激しさを増しながら。
そんな攻撃の嵐を前には、魔剣で躱しては逃げ回るのがやっとで。
爆風がそれだけ凄まじく、跳んで避ける事も叶わない。
爆心地を見切り、その足で駆けずり避ける事しか出来ないのだ。
「うああーッ!? どんどん激しくなるよっ!?」
「くっそお!! 何なんだコイツ!! 正真正銘の化け物じゃないかッ!!」
「ペルはばけものじゃないのッ!! にんげんなのっ!! にんげんなのおーーーッ!!」
もはや異臭を気にする余裕すら無い。
ペルペインがこうやって二人の声にさえ反応を見せていたのだから尚更の事。
でもきっと自分が何を言っているのかもわからないのだろう。
そう叫べば叫ぶ程、〝自分が人間ではない〟と告白しているのと同義なのに。
「ペルはねぇ!! にんげんのおにくをかぶったからにんげんなの!! だからこれからもずっとだいすきなにんげんなのぉぉぉ!!」
この知能こそが虫型魔者の由縁か。
これは決して彼女が幼いからではない。
これが彼女の精一杯の思考能力なのだ。
しかも自分が人間だと信じて疑わない。
普通の人間ならばこんな事など出来はしないのに。
精気を吸う事も、熱線を放って街を焼く事も。
自分の信じる事が全て。
その究極たる独善は、他人の声も受け付けない。
「ペルのことをいじめるのはねぇ!! ペルがつよいこだからなの!! だからペルはね、ペルはね、よわいこになりたいのッ!! よわくていっぱいたのしいにんげんになりたいのッ!! だからペルはねぇ!! ペルはねぇーーーッッ!!」
しかしてその精神は、恐らくかつての記憶に起因しているのだろう。
自分達が滅ぼされる事となった古代の出来事に。
その頃はまだ、もしかしたら彼女も常人並みの思考を有していたかもしれない。
だから事実も認識出来たし、夢や理想も考える事が出来たのだろう。
でももうその思考力も記憶も遥か昔の事。
今の彼女は人間になりたいだけの、ただの殺意の塊だ。
叫ぶペルペインの顔が歪みに歪む。
人には到底成せない表情を形成して。
そこに潜むのは喜びか、憎しみか。
それともただの着ぐるみの不具合か。
「ナターシャ!! コイツの言葉に耳を貸すな!! 話なんて通じる訳がねーッ!!」
「うん、わかってる!! この子はもう……人間にはなれないんだってッ!!」
「ペルはにんげんなのおおーーーッ!!」
この様な暴挙の叫びを前にして、ナターシャもアンディもただただ怯むばかりだ。
その怒りにも足る叫びの根源が、何かも一切、何一つとして全く理解出来ないからこそ。
なにせ相手の思考論理が全然掴めない。
邪神の眷属がこういうものなのかと思えてしまう程に。
それだけちぐはぐで、支離滅裂で。
だからこそナターシャは哀しかった。
話せそうなのに、全く対話が出来ない事に。
好きな者を殺したがるというその思考の離転に。
そんな者と相容れる事など、到底出来ないのだと。
「だからもう、やるしかないんだッ!! ボクは君を殺すよ。 守りたいものがあるからッ!!」
「ブチかますぞッ!! 帰るべき所に帰る為にッ!!」
ならもう手段は一つしか残されていない。
この爆撃と猛追の嵐を潜り抜け、必殺の一手を貫く為には。
二人の魔剣が秘めし感覚加速の力、【越界共感覚】。
その先に見える未来は可能性。
その可能性を掴まんと、両手に力を灯す。
【アーデヴェッタ】という特異をも加え、更なる加速を実現させて。
傲慢なる凶気を断ち切る為に。
猛烈なる殺意を打ち消す為に。
今、二人は再び―――世界を越える。
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