上 下
1,134 / 1,197
第三十八節「反旗に誓いと祈りを 六崩恐襲 救世主達は今を願いて」

~命を導く機械神 莉那達 対 揚猜①~

しおりを挟む
 岩巨人オーギュが現れたのは、インド共和国、ニューデリー。
 この国の現首都であり、南アジア最大規模の人口密度を誇る都市だ。
 しかもそれだけに留まらず、牽引する様に隣接都市もが近代化の一途を辿っている。
 更には、ヒマラヤ山脈沿いに続く近隣諸国の都市もが連なっていて。
 一括りにすれば、相当な人数がこの地に住んでいると言っても過言では無いだろう。

 だからこそ狙うには打ってつけの場所だった様だ。
 特に、【揚猜】オーギュの様な巨人ならば。
 あの巨体で走ろうものなら、一晩で端から端まで破壊し尽くす事も不可能ではないのだから。

 現に今、オーギュはもう東へと走っている。
 ニューデリー中心地は既に壊滅、ならばと次の破砕地を求めて。
 それもわざわざ人口密集地を踏み潰しながら、まるでステップを踏む様に。
 これだけの巨体・超質量ならば、つど破壊行動を行う必要など無い。

 たった一踏みだ。
 跳ねて一踏みすれば、それだけで周辺全てが一挙にして崩壊する。
 反動跳、衝撃波、更には強烈な地震の発生によって。

 人も瓦礫もそれだけで数十メートルと跳ね上げられて。
 空気抵抗を顧みないからこそ、全てを薙ぎる突風もが吹き荒れる。
 遂には通っていない場所さえも、地震の連鎖崩壊によって須らく倒壊していくという。

 そんな破壊行動がインド、ネパール、またインドとジグザグに続く。
 このままだと、連なる各国の首都を潰しつつ中国にまで到達しかねない。
 そうなればアジアの主要国はほぼ壊滅、未来などあったものではないだろう。

 破壊の規模ならば、オーギュの所業が【六崩世神】の中で段違いに大きいと言える。
 刻まれた軌跡はまさに、世界の終わりの様な光景だったのだ。



 一方その頃、インド東端部。
 小さな隣国ブータンへと続く、とある国道―――



 そこでは深夜にも拘わらず、沢山の人々が列挙して歩く姿があった。
 インドを離れようと、近隣の街からこぞって押し寄せたのだ。
 ニューデリーでの惨事を聞きつけ、急いで避難する為に。

 ブータンは自然保護区が多く、国土の殆どが山林に覆われている。
 だからこそ皆が皆、逃げ隠れるには持って来いだとでも思ったらしい。

 しかしそれは浅はかな判断だ。
 こうも集まってしまえば何の意味も無いのだから。
 人が密集すれば最後、その場はもはや虫を誘う蜜場と化すだろう。

 地獄の軌跡が礎として。

「ふはははッ!! 逃げようとしても無駄だ無駄だァ!! 不遜な肉共の成す事などォ全てが無駄なのだァ!!」

 そう、そんな集団をオーギュが逃がすはずもない。
 より多くの人間を巻き込み、恐怖に陥れようとしているからこそ。
 むしろ、これだけ密集しているなら好都合だ。

 そう言わんばかりに一直線に駆け抜けていく。
 地響きに怯え悲鳴を上げる人々へと向かって。

 そして遂には、その身を玉の様に丸めていて。

「全部まとめて打ち上げてやろォう!! 大地に突くその時までェしっかりと恐怖をひり出すがいいッ!!!」

 その全てを吹き飛ばさんと、力一杯に跳ね上がる。
 余す事の無いようにと、全身を大きく広げさせて。

 人々にはその光景がどの様に見えたのだろうか。
 いや、きっと考える暇も無いだろう。
 自分達に逃げ場は無いのだと、そう絶望していたのだから。



 だが―――



「あれェ!? おい、ちょっと待てェ!?」

 その絶望が降り立つ事は、無かった。
 オーギュの身体が、落ちるどころか空へと浮き上がっていたのだ。
 人々が一心に見上げるその中で。

 なんと、アルクトゥーンがオーギュを捕まえて飛んでいたのである。
 自慢の爪でその肩をしっかりと掴み取って。

 しかも二つの巨体はあっという間に景色の彼方へ。
 〝助かったのか?〟と人々が認識した時にはもう、場は静けさに包まれていた。



 アルクトゥーンの飛行速度はなお衰える事は無かった。
 オーギュを抱えたまま、あのヒマラヤ山脈をもあっという間に越えていて。
 捕らえてものの数秒でその北、中国の砂漠地帯空域へと到達する事に。

 そこへと到達した途端、突如として爪が開かれ。
 たちまちオーギュが放り投げられる様に大地へと落とされる。

「のぉうわぁぁぁ~~~ッ!?」

 どうやらその巨体故に、動作性に関しては他の【六崩世神】よりずっと劣るらしい。
 身軽に動ける岩巨人も、その速度を前には自由が利かなかった様だ。
 遂には真っ逆さまに大地へと飛び込み、上半身から打ち付ける事に。

 落ちた後は倒れた体を鈍い動きで起こし、砂を被った腹顔を何とか揚げさせていて。

「一体何があったってェんじゃあ!? ぬゥ、あ、あれはァ……ッ!?」

 そんな顔が揚げられた時にやっと目撃する事となる。
 己をここまで運び込んだ者を。
 今空の彼方にて、背を見せて大きく旋回する銀飛龍の姿を。



 そして直ぐ目の当たりにする事だろう。
 更なる変化を果たす龍神の真価を。



「ジェネレーター出力、想定の一〇九%。 各部正常。 莉那さん、いつでも行けますよ」

「了解。 これより白兵戦モードへ移行します!」

「【SADAME】システム、正常動作確認オールグリーン。 火器管制の一部操作を譲渡します」

譲渡確認アイマーク―――アルクトゥーン、戦闘コンバットプログラム【G・D・O・N】、起動アクティベーション!!」

 操縦者二人が声を張り上げた時、アルクトゥーンが変形する。
 その巨体で大気を受け止めながら。

 腰部周りに光が走り、その後部が丸ごと回転し。
 空へと向けられた大爪が、弧を描いて後ろへと伸びきって。
 次いで爪先が畳まれれば、たちまち鋭く尖ったつま先と化す。
 その様相はまさに、人脚を模したかの如し。

 直後、胴体左右の外装アーマーが前方へと回転して持ち上がる。
 その途端に内部から現れたのは、腕だった。
 その間も無くに腕がスライドして伸び、関節をも露わとさせて。
 更には自在五指フリーマニピュレータまでもがその姿を晒そう。

 竜を模した頭部にも変化が訪れる。
 下顎部が開く様に丸ごと回転し、なんと人を象った顔が現れたのだ。
 精悍な面立ちを有する雄顔が。

 そして翼が、開く。
 光を、打ち放つ。

 力が今、解き放たれる。



 顕現せしは機械びと
 しかしてその猛々しい巨体はまさしく人神の如し。
 輝銀に煌めくその雄姿は、人類を護りし守護神か。



「おお、これがアルクトゥーン人型最終決戦仕様、【G・D・O・N】モードなのですねぇ」

「いいえお爺様、もはやこれにそんな無粋な名は似合いません。 この機体は希望の一つ、世界の生命を導く機械神なのですから。 それを敢えて名付けるならば―――」

 剛腕が奮いを上げて、鉄拳を握り締める。
 巨脚が大地を突き、その力強さを見せつけながら。
 今こそかつての志を成さんと、その紫晶瞳に命の輝きを瞬かせて。

 しからば見よ。
 これが人類の希望だ。
 古代より受け継ぎし可能性だ。



「―――命導機神、グランディオンッ!!!」


 
 その希望には、勇ましきこの名こそが相応しい。







 姿を変えた今、もはやこれは【機動旗艦アルクトゥーン】ではない。
 莉那と福留が信じ、勇が認めた人型決戦超兵器、【命導機神グランディオン】なのである。

 恐らく古代人はこの様な戦いをも予見していたのだろう。
 イ・ドゥールの想定とはまた違った形での戦いを。
 【グリュダン】という〝アルトランの残滓から生まれた〟驚異の岩巨人を知った事で。

 だからこそ遺したのだ。
 例え命力が無い人間でも戦えるようにと。
 来たるべき時に人類が勝利出来るようにと。

 そしてその希望がこうして遂に現代へと甦る。
 今こそ、邪神の眷属を討ち倒さんと。

「ぬぅぅ!! おのれ許せぇん!! 我が主様に賜りしこの身体と並ぶなどとォ!! だが、そんな鉄屑に何が出来るものかァ!! 所詮は肉が造った玩具よォ!!」

 しかし目の前に居るのは、まさにその宿願とも言える相手だ。
 それも道理も理屈も通用しない相手である以上、待ってくれる理由など無い。

 故に、オーギュはもう走り込んでいた。
 グランディオンが変形完了した時には既に。
 己の道を阻む敵を粉砕せんと、巨腕を振り上げて。

 だがその巨腕が振り抜かれた時、もう既にグランディオンの姿は無かった。

 なんと、紙一重で躱していたのだ。
 まるで人間の様な、軽やかに流れる動きで。

 しかもその時には既に右腕を振り上げていて。
 その巨腕が垂直に鋭く振り下ろされた瞬間、それは起きる。



 突き出されたオーギュの腕が、刎ねたのだ。



 グランディオンの魔剣の如き手刀が、関節を一刀両断したのである。

「ぬわぁにぃ~~~~~~ッッ!!?」

 そうして擦れ違う中、オーギュの顔に驚愕が浮かぶ。
 それだけ信じられない程の機動性を見せつけられたのだから。

 見せつけた動きはまさしく人間―――いや、魔剣使いそのものだったからこそ。

 そう、グランディオンの動作はまさに勇達と遜色違わない。
 天を突かんばかりの巨体にも拘らず。
 物理法則さえも乗り越え、人が創りし超常の力を発揮しよう。 

 その全ては、宿敵を滅ぼさんが為に。

「【SADAME】システム問題無く動作。 では莉那さん、我々の集大成を見せて差し上げましょう」 

「ええ、かつての古代人達の想いに報いる為にも、そして世界を守る為にも―――」

「「私達が、勝ちますッ!!」」

 故に莉那が、福留が咆える。
 自ら礎とした古代人が遺し、カプロとビーンボールが完成させたこの機械神と共に。
 いつか願いし想いを引き継いで、来たるべき明日を迎える為に。

 命導機神グランディオン。
 今こそお前の超力を、存分に奮う時がやってきたのだ。


しおりを挟む
感想 15

あなたにおすすめの小説

エリクサーは不老不死の薬ではありません。~完成したエリクサーのせいで追放されましたが、隣国で色々助けてたら聖人に……ただの草使いですよ~

シロ鼬
ファンタジー
エリクサー……それは生命あるものすべてを癒し、治す薬――そう、それだけだ。 主人公、リッツはスキル『草』と持ち前の知識でついにエリクサーを完成させるが、なぜか王様に偽物と判断されてしまう。 追放され行く当てもなくなったリッツは、とりあえず大好きな草を集めていると怪我をした神獣の子に出会う。 さらには倒れた少女と出会い、疫病が発生したという隣国へ向かった。 疫病? これ飲めば治りますよ? これは自前の薬とエリクサーを使い、聖人と呼ばれてしまった男の物語。

悪役令嬢にざまぁされた王子のその後

柚木崎 史乃
ファンタジー
王子アルフレッドは、婚約者である侯爵令嬢レティシアに窃盗の濡れ衣を着せ陥れようとした罪で父王から廃嫡を言い渡され、国外に追放された。 その後、炭鉱の町で鉱夫として働くアルフレッドは反省するどころかレティシアや彼女の味方をした弟への恨みを募らせていく。 そんなある日、アルフレッドは行く当てのない訳ありの少女マリエルを拾う。 マリエルを養子として迎え、共に生活するうちにアルフレッドはやがて自身の過去の過ちを猛省するようになり改心していった。 人生がいい方向に変わったように見えたが……平穏な生活は長く続かず、事態は思わぬ方向へ動き出したのだった。

家族で突然異世界転移!?パパは家族を守るのに必死です。

3匹の子猫
ファンタジー
社智也とその家族はある日気がつけば家ごと見知らぬ場所に転移されていた。 そこは俺の持ちうる知識からおそらく異世界だ!確かに若い頃は異世界転移や転生を願ったことはあったけど、それは守るべき家族を持った今ではない!! こんな世界でまだ幼い子供たちを守りながら生き残るのは酷だろ…だが、俺は家族を必ず守り抜いてみせる!! 感想やご意見楽しみにしております! 尚、作中の登場人物、国名はあくまでもフィクションです。実在する国とは一切関係ありません。

転生したら脳筋魔法使い男爵の子供だった。見渡す限り荒野の領地でスローライフを目指します。

克全
ファンタジー
「第3回次世代ファンタジーカップ」参加作。面白いと感じましたらお気に入り登録と感想をくださると作者の励みになります! 辺境も辺境、水一滴手に入れるのも大変なマクネイア男爵家生まれた待望の男子には、誰にも言えない秘密があった。それは前世の記憶がある事だった。姉四人に続いてようやく生まれた嫡男フェルディナンドは、この世界の常識だった『魔法の才能は遺伝しない』を覆す存在だった。だが、五〇年戦争で大活躍したマクネイア男爵インマヌエルは、敵対していた旧教徒から怨敵扱いされ、味方だった新教徒達からも畏れられ、炎竜が砂漠にしてしまったと言う伝説がある地に押し込められたいた。そんな父親達を救うべく、前世の知識と魔法を駆使するのだった。

龍騎士イリス☆ユグドラシルの霊樹の下で

ウッド
ファンタジー
霊樹ユグドラシルの根っこにあるウッドエルフの集落に住む少女イリス。 入ったらダメと言われたら入り、登ったらダメと言われたら登る。 ええい!小娘!ダメだっちゅーとろーが! だからターザンごっこすんなぁーーー!! こんな破天荒娘の教育係になった私、緑の大精霊シルフェリア。 寿命を迎える前に何とかせにゃならん! 果たして暴走小娘イリスを教育する事が出来るのか?! そんな私の奮闘記です。 しかし途中からあんまし出てこなくなっちゃう・・・ おい作者よ裏で話し合おうじゃないか・・・ ・・・つーかタイトル何とかならんかったんかい!

フリーター転生。公爵家に転生したけど継承権が低い件。精霊の加護(チート)を得たので、努力と知識と根性で公爵家当主へと成り上がる 

SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
400倍の魔力ってマジ!?魔力が多すぎて範囲攻撃魔法だけとか縛りでしょ 25歳子供部屋在住。彼女なし=年齢のフリーター・バンドマンはある日理不尽にも、バンドリーダでボーカルからクビを宣告され、反論を述べる間もなくガッチャ切りされそんな失意のか、理不尽に言い渡された残業中に急死してしまう。  目が覚めると俺は広大な領地を有するノーフォーク公爵家の長男の息子ユーサー・フォン・ハワードに転生していた。 ユーサーは一度目の人生の漠然とした目標であった『有名になりたい』他人から好かれ、知られる何者かになりたかった。と言う目標を再認識し、二度目の生を悔いの無いように、全力で生きる事を誓うのであった。 しかし、俺が公爵になるためには父の兄弟である次男、三男の息子。つまり従妹達と争う事になってしまい。 ユーサーは富国強兵を掲げ、先ずは小さな事から始めるのであった。 そんな主人公のゆったり成長期!!

対人恐怖症は異世界でも下を向きがち

こう7
ファンタジー
円堂 康太(えんどう こうた)は、小学生時代のトラウマから対人恐怖症に陥っていた。学校にほとんど行かず、最大移動距離は200m先のコンビニ。 そんな彼は、とある事故をきっかけに神様と出会う。 そして、過保護な神様は異世界フィルロードで生きてもらうために多くの力を与える。 人と極力関わりたくない彼を、老若男女のフラグさん達がじわじわと近づいてくる。 容赦なく迫ってくるフラグさん。 康太は回避するのか、それとも受け入れて前へと進むのか。 なるべく間隔を空けず更新しようと思います! よかったら、読んでください

大工スキルを授かった貧乏貴族の養子の四男だけど、どうやら大工スキルは伝説の全能スキルだったようです

飼猫タマ
ファンタジー
田舎貴族の四男のヨナン・グラスホッパーは、貧乏貴族の養子。義理の兄弟達は、全員戦闘系のレアスキル持ちなのに、ヨナンだけ貴族では有り得ない生産スキルの大工スキル。まあ、養子だから仕方が無いんだけど。 だがしかし、タダの生産スキルだと思ってた大工スキルは、じつは超絶物凄いスキルだったのだ。その物凄スキルで、生産しまくって超絶金持ちに。そして、婚約者も出来て幸せ絶頂の時に嵌められて、人生ドン底に。だが、ヨナンは、有り得ない逆転の一手を持っていたのだ。しかも、その有り得ない一手を、本人が全く覚えてなかったのはお約束。 勿論、ヨナンを嵌めた奴らは、全員、ザマー百裂拳で100倍返し! そんなお話です。

処理中です...