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第二十五節「双塔堕つ 襲撃の猛威 世界が揺らいだ日」

~【救世】~

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 ここは東京都第一庁舎最上階、展望台。
 双塔で有名な本ビルの観光用スペースだ。

 普段ならば訪れた観光客ごった返す場所なのだが、今日だけは違う。
 フロア内に設置された販売所は商品ごと撤去されていて。
 代わりに、中央に椅子が幾つかと、撮影用の機材が置かれている。

 そこに座しているのは当然、デュゼローと大間都知事。
 それも、対面に設置されたテレビカメラへ向く様にして堂々と。

 周囲には小道具を置いた棚と、その傍にはイビドとドゥゼナーの姿も。
 カメラの範囲外には機材を操るモッチやスーツの男、それに別の魔者までがいて。

 そして千野はと言えば、撮影者確認用モニターをチェックして最終準備を行っている。
 その顔は化粧で仕上げられており、いつでもテレビに出演可能な状態だ。

 それは彼女が今回の動画の引き立て役だからこそ。

「本番まであと一〇秒。 千野さん準備を」

 その準備も遂に終わり、とうとうその時がやって来る。

 もう後戻りは出来ない。
 デュゼローの真意がわからずとも。

 でも彼からは信念が見える。
 自身を突き動かす覚悟が見える。
 何かを成そうとする決意が見える。

 だから今の千野に怯えは無かった。
 デュゼローの強い意思が乗り移ったかの如く、強気になれたから。

「五、四、三―――」



 例え悪事を映す事になろうとも、もう退くつもりなど―――無い。



「映像をご覧の皆様、こんばんは。 わたくし、日之本テレビ所属の報道員、千野 由香と申します」

 予告時間が訪れた時、遂に第一声が放たれる。
 その時画面が映すのは、カメラの前に立つ千野の素顔だ。

 そう、何故なら彼女がこの言わばこの〝番組〟の顔だから。
 動画を盛り上げる為のメインキャスターなのだから。

「この度、私は都庁を占拠した団体のリーダーより独自にコンタクトを受け、この声明発表の場を取り繕って欲しいという要請を頂きました。 そこで我々は身の安全の保証を条件に、その要求を受け入れて現在、都庁展望台にて本配信を開始した次第です」

 そう言い切った途端に確認モニターがズームアウトし、展望台内が映されていく。
 なれば当然、背後に座る者達の姿が露わに。

「それでは紹介致します。 団体名【救世】の代表者、デュゼロー氏です」

 そして千野がそっと体を退けた時、その全容が明らかとなる。
 長く荒れた黒髪と、黒いローブを身に纏うその男の姿が。

 デュゼローの素顔が今、世界に発信されたのである。

「皆様、お初にお目に掛かります。 私の名前はデュゼロー=ガーレ=イゼノウ。 馴染みの無い名前にお気付きかと思いますが、私は魔者達と同じ世界からやってきた人間です」

 その隣には日本人の大抵が知っているであろう大間の姿もしっかりと。
 ただ、その存在感はデュゼローと比べれば目立たない程に薄いが。

 それもそのはず。
 デュゼローが発した声には、しっかりとした重みがあったのだ。
 存在感をありありと示す程の、強調の効いた声質トーンが。

 それも威圧感など一切も感じない、優しさをも感じさせる声色で。

「本日が皆様にとって特別な日であるにも拘らず、この様な行動を起こす事となってしまいました。 まずは一旦のお詫びを申し上げたいと思います」

 加えて見せたのは、日本式の礼節をわきまえた一礼。
 深く深く頭を下げ、すぐには頭を上げないという。

 いずれも噂で聴いただけでは再現しようもない礼儀。
 デュゼローはその日本文化の礼節をしっかりと体現したのだ。

 しかもそれだけではない。
 その声は動画を見る全ての日本人にしっかりと伝わっている。



 そう、デュゼローはその口で日本語を喋っている。
 流暢な日本語でしっかりと語っているのである。
 


「早速ですが、まずは我々【救世】がこの様な行動を取る至った理由を皆様に説明しなければなりません」

 すると画面横からイビドとドゥゼナーがフリップを持って現れる。
 【救世】と漢字で書かれた物と、【Salvation】と英語で書かれた物を二つ。
 声を発しない辺り、二人は日本語を話す事が出来ないのだろう。

 デュゼローとそのフリップが映る様にカメラが動き、ほんの少しズームインしていき。
 その上半身とフリップだけが映る様にして止まる。

「皆様は今、世界で起きている事をご存知でしょうか? 魔者や別世界の人間が突然世界中に現れ、多くの国々、人々が未だ混乱の渦中であると存じております」

 そこでデュゼローが見せたのは、眼を細めた顔を小さく横に振る素振りで。
 まるで慈しむ様な哀悼の意思が、そこからチラリと覗き見えるかのよう。

「ですが……わかっているのは恐らくそれだけでしょう。 『その様に成ってしまった』、それだけの認識でしか無いと思います。 では何故、こうなったのでしょうか? 何故、そう思ってしまっているでしょうか?」

 その眼も再び見開かれ、声色が徐々に強みを帯びていく。
 それも、まるで訴えるかの様に。

 カメラの先に居る人々へと向けて。

「その答えは明白。 それは皆様がただ知らされていないからです! 〝理由も無く、原因もわからない〟そう信じ込まされているだけなのです!!」

 遂にはフリップさえも画面端に隠れ、デュゼローの全体像が再び露わとなる。
 袖から伸ばした拳を力強く握り締めて訴えるその姿を。

「この世界がこの様になってしまった理由を、世界各国の代表者達は既に知っています。 なのにも拘らず、未だ公表しようともしません。 〝世界中の人々を恐怖に陥れるから〝〟などという勝手に決めつけた理由を掲げて。 それが結果的に不利益を被る事になるとも知らずに!!」
 


 ラクアンツェから勇達へもたらされた【世界融合フララジカ】の秘話。
 それは既に福留を通して各国首脳へと伝わっている。
 その先にある最悪の結末もまた同様に。

 しかしその情報は結果的に公表されず、お蔵入りとなった。
 何故なら、その現象を科学的に証明する事が出来ないから。

 〝二つの世界が交わり終えし時、世界は原初に戻る〟
 そんな大それた事を突然言われても、誰も信じないだろう。
 何せ結論を出したのが、原始人とも言える文化しか無い者達なのだから。
 現代以上の科学文明による答えならいざ知らず。

 理由や原因がわからない以上、その答えを真実とするにはいささか無理がある。
 だから世界は伏せる事にしたのだ。

 そんな迷信染みた話を公表した所で、人々をただ混乱させるだけなのだと。



 だが、それをデュゼローは良しとしなかった。
 だから今こうして代わりに語ろうとしている。

 そうしなければならない理由があるからこそ。

「だからこそ私はここにやって来ました。 何故世界がこうなってしまったのか、皆様に全てを語る為に。 世界が陥っている事象と、そこに至る真実を伝える為に」

 でも隠された真実を話す事となろうとも、動画が止められる事は無い。
 むしろ、各国首脳陣でさえ続行を望むだろう。
 魔特隊からもたらされた情報が全てという訳でもないから。

 正しいと決められる判断材料を欲しているからこそ。

 それにきっと、民衆はこの語りの続きを求めるだろう。
 デュゼローの語りにはそれだけの説得力があったのだ。

 〝真実を知りたい〟という欲求をくすぐる程に。



「では語るとしましょう。 その全容を―――」


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