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第三十七節「二天に集え 剣勇の誓い 蛇岩の矛は空を尽くす」

~翌に滅、逆に機会を掴め~

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 勇を抱え、仲間達が再び管制室へと戻った。
 最初は自室に連れて行こうとしたのだが、勇はそれを拒否して。
 今は部屋の隅の椅子に座らせられ、ただただじっとしたままだ。

 それだけ自責の念が強いのだろう。
 茶奈を送り出し、この結果を導いてしまった事への。

 でも、だからといって説明しない訳にもいかない。
 話さなければ何も進められないから。
 勇が望んだ以上は、ア・リーヴェさんもまた覚悟を決める。

 その一言一言如何で、勇が天士では無くなってしまう可能性さえ秘めていようとも。

『いいですか皆さん、落ち着いて聞いてください。 決して心を乱さぬよう、どうか』

 だからア・リーヴェさんも慎重だ。
 これ以上に無い程に。
 己自身のこの場への存続も掛かっているからこそ。

 最後まで話を続ける為にも、何があろうとも残り続けなければならない。



『茶奈さんは恐らく、アルトラン・ネメシスに乗っ取られました。 小野崎紫織と接触し、移体が行われた可能性があります』



 しかし、その一言からどうやって動揺を抑えられようか。
 たちまち管制室に驚愕の声が溢れ出ていて。

 でもそれを、莉那と福留がその手を掲げて即座に制する。

 二人も充分にわかっていたのだろう。
 自分達の動揺や絶望がア・リーヴェさんの存在維持に悪影響を及ぼしかねないのだと。
 だから彼女に代わって制したのだ。
 二人とも、こういう事に関しては人一倍肝が据わっているからこそ。

 もちろん、莉那も福留も心中穏やかではないだろう。
 でも全ての話を聴かなければならない。
 ア・リーヴェさんの真剣な眼差しが、それ以上の真実を秘めていると思えてならなかったから。

 今、彼等が知らねばならない真実を。

「どうぞ、続けてください」

『ありがとうございます。 あくまでも可能性でしかありませんが、それはほぼ確実と言えるでしょう。 そして、その結果からアルトランのこの世界における最終目標がハッキリと見えました』

 それこそが、アルトランが秘めし世界崩壊計画の全容。
 その真実とは、彼等どころかア・リーヴェでさえも予想だにしていなかった結論だった。



『アルトランは待つ気なんて一切無かったのです……!! すぐにでも世界を崩壊させるつもりで動いていたのでしょう。 それだけ、彼の世界への恨みは深かったのかもしれません』



 そう、アルトランは悠長に王手を維持しておくつもりなど無い。
 すぐにでも宇宙を潰して、次の盤上ア・リーヴェの故郷へ赴くつもりだったのだ。

 この世界は、彼にとってただの前哨戦に過ぎない。
 踏み台程度にしか思っていないのは、地球だけでは無かったのである。

『だからずっと茶奈さんの身体を狙っていたのでしょう。 アストラルエネマは星の揺り籠、地球の代弁者でもあります。 つまり、星との繋がりは彼女が一番大きい。 その彼女に移体すれば、何よりも強い楔となるでしょう。 星と星の存在を引き寄せる楔です』

「つまり、茶奈さんが体を乗っ取られた事で世界はより滅びが早くなると?」

『はい。 アルトラン・ネメシスの動き次第ではありますが……早ければ恐らく、明日にはこの宇宙は滅ぶでしょう』

「「「明日ッ!?」」」

 つまり世界そのものが踏み台。

 乗り上げるのに何の時間が必要であろうか。
 否、そんな踏み台を踏み馴らす時間など欲してはいない。
 誰もがすぐにでも乗り上げ、目的の物を見据えたくなるものだろう。

 そう見据えるまでの時間はもう、残されていないという事だ。



『ですが、それは逆にチャンスでもあります』



 ただ、それが全てアルトランの有利であるとは限らない。
 急ぐが故のリスクも当然存在する。

『あくまでも予測ですが、早くても数時間後には全ての準備を整えて、アルトラン・ネメシスが動き出すでしょう。 しかも全世界にその姿を晒して』

「全世界に……? なんでよ?」

『何故なら、彼は世界を絶望に落とし、生まれた負の力で一気にフララジカを成就させるつもりだからです。 その為にも世界に知らしめるつもりでしょう。 自身を恐怖の対象として。 なので露出して世界中の人間を煽り、絶望させるハズです。 それも、グランディーヴァの田中茶奈として』

「ヤロォ!! 俺達をダシにしやがるつもりかよッ!!!」

『ええ。 ですがそれが最後の逆転の機会であり、最大のチャンスとなるのです。 恐らく彼は【創世の鍵】を使って世界に情報を伝えるでしょう。 それが最も効率良いから。 それに加えて、存在が完全認識されて世界に固着されます。 そうなれば、逆探知する事で居場所が特定出来ます』

「おおッ!?」

 そう、身を晒すというのはすなわち居場所を晒すという事に他ならない。
 つまり、存在を知らしめる事で自身を認識させるのだ。

 そうすればア・リーヴェにも探知が出来る。
 今までの様に隠れている訳ではないからこそ。

『もちろんアルトランもその欠点はしっかり把握しているでしょう。 ですから必ず何かしらの抵抗手段を用いるはずです。 なので、皆さんにはその抵抗手段の排除をお願いしたいのです。 先程の南米の様に』 

 それに例え再び障害を用いたとしても。
 如何な困難な障害が立ち塞がろうとも。

 今のグランディーヴァなら突破出来るとア・リーヴェは信じている。
 アルトランの野望を食い止められると信じている。

 そして最も信じている人がやり遂げられると信じている。



『後は勇をアルトラン・ネメシスの下へと送り出して倒せば……逆に世界が救われます』



 それこそがアルトラン・ネメシスへの逆襲作戦。
 今までに集められた力を最大限に利用し、その計画そのものを逆にぶち壊す。
 そうすれば世界崩壊は免れ、おまけに世界が救われるだろう。

 逆転の手はもうそれしか残されていない。
 たった一つ見せた隙を突いてゴリ押す方法しかないのだから。

 ただ、そのゴリ押しこそがグランディーヴァの真骨頂とも言えよう。

 だったらもう、やりきるだけだ。
 そんな話を聞けば、むしろ気合いが入るというもの。

「んなら話ははえぇ!! 邪魔な野郎をぶっ飛ばしゃあいいだけなんだったらなぁ!! 」

「そうですね、至極単純な話です。 そこに迷いなど必要ありません」
 
「やろうっ!! ボク達が世界を救うんだっ!!」

「ああ、やってやろうぜぇ!!」

 たちまち、管制室に希望の光が溢れ返る。
 ア・リーヴェさんが微笑んでしまう程に。

 如何な苦難を前にしても、こう出来るから。
 こう出来てしまうから、この場所は彼女にとって暖かい。

 彼等に世界の命運を託してよかった、と思える程に。



 ただ、彼女は知っている。
 世界の運命が、行く末が、そこまで単純ではないという事を。

 最も救いに近い運命が、可能性が、犠牲を伴うのだという事を。



 今はただ、浮かれる彼等の前にして胸に秘める他無く。
 一人項垂れる勇に哀しみの目を向ける事しか、今の彼女には出来ない。


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