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第三十七節「二天に集え 剣勇の誓い 蛇岩の矛は空を尽くす」
~末に各、島に所望安寧を~
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「―――あったッ!! 肉の塊だッ!! でけぇー!!」
南米救出作戦開始からおおよそ一時間。
そこで早くも一つ目の破壊目標が見つかる事となる。
見つかったのは南のチリ。
発見したのはアンディだ。
潜んでいたのは岩壁の谷底、岩陰に隠れた場所で。
あらゆる地点からの死角とも言える場所だったが、それを恐れる事無く飛び込み見つけたという。
そういった死角を探して生きて来た事があるアンディだからこその発見と言えよう。
ただ、もちろん見つけたからといってそのまま壊すのではない。
その形を克明に伝える事も忘れてはいけないからだ。
しかしこの発見のお陰で、断片的な情報がハッキリとしたものへと変わる事となる。
明確な形がわかるだけでも、大きな一歩と言えるだろう。
早速リフジェクターで撮影し、通信機を通して画像を送信する。
すると間も無く、莉那からの通信音声が。
『アンディさん、発見ありがとうございます。 破壊後、何かありましたら伝えてください』
「わかったぜ!! それじゃあ早速ぶっ壊すッ!!」
そう返って来ればもう遠慮は要らない。
己の手に掴んだ魔剣で全力を以って切り裂くだけだ。
ズバババーーーッ!!!
その太刀筋はかつての彼を彷彿とさせる程に鋭く。
瞬時にして、岩壁に纏わり付いていた肉塊に幾重もの裂け目が走る。
ビュババッ!!
たちまち、真っ赤な血の様な体液を撒き散らして肉塊が崩れ落ちていく。
しかもしおれる様に、溶けていくかの様に「シュワワァ」と音を立てて。
こうしてしまえばあっけないものだ。
たったそれだけで脈動も止まって。
それどころか腐臭を撒き散らして綻び崩れたのだから。
「ちょっとでも血が付いたら呪われそうだなー。 魔剣も錆びたりしないよな……?」
対してアンディはと言えば、そんな肉塊よりも魔剣を心配する姿が。
この数年でデリカシーというものをすっかり学んだ様で。
以前の大雑把さからでは想像も付かない配慮が覗く。
とはいえ、どうやらその心配は無用な様だが。
撒き散らされた血や肉片はと言えば、すぐさま崩れて灰と化していて。
魔剣に付いた体液の同様に、蒸発する様に消えていく。
カイト・ネメシスが倒れた時と同じ状況だ。
それ程強い物ではなかった、という事なのだろう。
『アンディ、魔者の動きが止まった。 よくやったな』
『アニキすごい!! やったね!!』
「おう! んじゃあ何も無いからマヴォのとこ戻るぜー!」
肉塊の消えていく様子も動画に納め、意気揚々とその場を去っていく。
再参戦間も無くの大金星に笑顔を綻ばせながら。
そして肉塊を見つけたのはアンディだけではない。
その一方で西のエクアドルでも心輝が偶然発見し、見事破壊に成功したのだ。
これで残り肉塊の数は二つ。
北のベネズエラと東のブラジルのみ。
この戦いの収束は、もしかしたら想像以上に早く着くかもしれない。
◇◇◇
「なんてこった……俺ぁなんてぇ事をしでかしちまったんだ……!」
勇達南米救出班が意気揚々としていた頃。
剣聖はラクアンツェとの戦いが落ち着き、魔者達と戯れに戦っていた。
―――はずだったのだが。
その剣聖に珍しく、大地にぺたりと座り込んで項垂れる姿が。
頭の垂れた先には、ラクアンツェの身体が横たわっていて。
いつになく神妙で、体まで震わせる程。
両拳を握り締め、それだけの悔しさと哀しさを体現する。
その哀しみを雫と共に浮かべた瞳を、ラクアンツェへと向けて。
「腕ェ、取れちゃった……」
おまけに、外れた腕まで見せつけながら。
相当激しく戦っていたのだろう。
それはもう、鉄人形と化したラクアンツェをぶるんぶるんと震わせんばかりに。
そしてその結果、やっちゃったのだろう。
これがただの魔剣なら歯牙にも掛けないのだが。
あれだけ「おめぇを抱えてでも戦えらぁ」なんて宣っておいてこのザマなので。
これにはさすがのラクアンツェも、真っ赤な頬を膨らませざるを得ない。
「ま、まぁ? 元々関節部は脆かったって言うし?」
「お、おう」
「伸縮性が無いから? 力加減考えないと折れちゃうし?」
「……おう」
何せこんな剣聖を見るのはラクアンツェにとっても珍しい事で。
最近で見せたのと言えば精々、獅堂に刺されて長期休養していた時くらいだ。
あの時はまだ横暴さが残っていたのだが。
啖呵切って結果が出せなかったのがよほど悔しかった模様。
「まぁ後でピネちゃんに直してもらうわよ……だから元気出しなさいな?」
「おう……」
ただ、ラクアンツェとしても正直に笑えない理由があるが。
実はその腕―――元々、彼女自身が壊した所なのだから。
命力で強引に繋ぎ合わせていただけで、実際は結構前から。
ちょっと体の調子を合わせてみようと、こっそり夜中に【光破滅突】をかましたらこのザマだ。
でも変なプライドがあるので、ずっと黙っていて。
魔剣自体に自己修復機能があるので、それで誤魔化していたのだが。
それで今日絶好調と言わんばかりに二連秘拳をかました結果。
その破損部が再び限界を迎え、根本からボッキリといってしまった、という訳である。
もしそんな事実がバレてしまえば。
あの剣聖の事だ、途端にへそを曲げて怒りかねない。
そうなったら最後、どうされる事やら。
そんな訳で、ラクアンツェもただひたすらフォローに回るのみ。
単に、そんな裏事情を悟られない為にも。
戦いを終えて平和になった途端の細やかな珍騒動。
周囲に刺し並ぶ魔者達の柱が、その虚しさを更に助長するかの様であった。
◇◇◇
一方その頃、太平洋。
未だ蛇岩との戦いの余韻が残り、海に大きなうねりを呼ぶ。
波飛沫を跳ね上げて、大きな渦まで生んで。
ただし、周辺への影響はほぼ無い様だ。
どうやら蛇岩が沈んだ影響も微々たるもので、精々大波が出る程度と言った所か。
恐らく天を穿つ一撃が、生まれた圧力を蛇岩ごと空へと還してしまったからだろう。
なお、その力を放った当人はと言えば―――
ザザァーーーンッ!!
なんとか茶奈は無事な模様。
うねる海面から飛び出し、ようやく酸素溢れる海上へと到達だ。
とはいえ、大気フィールドを維持する事も出来なくなっていた様で。
全身はずぶ濡れ、残り四つの星が形成した光網によって網漁の如く引き上げられる姿が。
「カハッ! ハァ、ハァ……」
もう体力的にも命力的にも限界だったのだろう。
幾らアストラルエネマとはいえ、放出量限界を超える事は出来ないから。
それさえ放ち尽くせば、こうして回復まで動く事もままならなくなる。
もちろん、星達だって間も無く力を失う事になるだろう。
そうなればまた海に落ちる事も有り得る訳で。
「島……あそこに、ゲホッ、ゲホッ!」
意識を何とか保たせつつ、星達をゆっくりと海面スライド移動させていく。
景色の先に小さく見える島へと向けて。
もう自力で飛ぶ命力も残されていない。
それに先程の一撃の影響により、【エフタリオン】も【ラーフヴェラ】も機能停止状態で。
あれだけの一撃を強引に放ったからこそ、【クゥファーライデ】本体も当然タダでは済まされない。
余りの威力故に増幅用の星の幾つかは自壊し、巻き込まれた砲台魔剣も海の藻屑だ。
残された【ユーグリッツァー】一本だけが彼女の命を繋いでいると言えるだろう。
その僅かな生存可能性に縋り、今にも落ちそうになりながらゆっくりと空を行く。
島まで辿り着けば、とりあえずは休めるだろうから。
そうして島を見つめる彼女は、どこか安らぎに満ち溢れていた。
南米救出作戦開始からおおよそ一時間。
そこで早くも一つ目の破壊目標が見つかる事となる。
見つかったのは南のチリ。
発見したのはアンディだ。
潜んでいたのは岩壁の谷底、岩陰に隠れた場所で。
あらゆる地点からの死角とも言える場所だったが、それを恐れる事無く飛び込み見つけたという。
そういった死角を探して生きて来た事があるアンディだからこその発見と言えよう。
ただ、もちろん見つけたからといってそのまま壊すのではない。
その形を克明に伝える事も忘れてはいけないからだ。
しかしこの発見のお陰で、断片的な情報がハッキリとしたものへと変わる事となる。
明確な形がわかるだけでも、大きな一歩と言えるだろう。
早速リフジェクターで撮影し、通信機を通して画像を送信する。
すると間も無く、莉那からの通信音声が。
『アンディさん、発見ありがとうございます。 破壊後、何かありましたら伝えてください』
「わかったぜ!! それじゃあ早速ぶっ壊すッ!!」
そう返って来ればもう遠慮は要らない。
己の手に掴んだ魔剣で全力を以って切り裂くだけだ。
ズバババーーーッ!!!
その太刀筋はかつての彼を彷彿とさせる程に鋭く。
瞬時にして、岩壁に纏わり付いていた肉塊に幾重もの裂け目が走る。
ビュババッ!!
たちまち、真っ赤な血の様な体液を撒き散らして肉塊が崩れ落ちていく。
しかもしおれる様に、溶けていくかの様に「シュワワァ」と音を立てて。
こうしてしまえばあっけないものだ。
たったそれだけで脈動も止まって。
それどころか腐臭を撒き散らして綻び崩れたのだから。
「ちょっとでも血が付いたら呪われそうだなー。 魔剣も錆びたりしないよな……?」
対してアンディはと言えば、そんな肉塊よりも魔剣を心配する姿が。
この数年でデリカシーというものをすっかり学んだ様で。
以前の大雑把さからでは想像も付かない配慮が覗く。
とはいえ、どうやらその心配は無用な様だが。
撒き散らされた血や肉片はと言えば、すぐさま崩れて灰と化していて。
魔剣に付いた体液の同様に、蒸発する様に消えていく。
カイト・ネメシスが倒れた時と同じ状況だ。
それ程強い物ではなかった、という事なのだろう。
『アンディ、魔者の動きが止まった。 よくやったな』
『アニキすごい!! やったね!!』
「おう! んじゃあ何も無いからマヴォのとこ戻るぜー!」
肉塊の消えていく様子も動画に納め、意気揚々とその場を去っていく。
再参戦間も無くの大金星に笑顔を綻ばせながら。
そして肉塊を見つけたのはアンディだけではない。
その一方で西のエクアドルでも心輝が偶然発見し、見事破壊に成功したのだ。
これで残り肉塊の数は二つ。
北のベネズエラと東のブラジルのみ。
この戦いの収束は、もしかしたら想像以上に早く着くかもしれない。
◇◇◇
「なんてこった……俺ぁなんてぇ事をしでかしちまったんだ……!」
勇達南米救出班が意気揚々としていた頃。
剣聖はラクアンツェとの戦いが落ち着き、魔者達と戯れに戦っていた。
―――はずだったのだが。
その剣聖に珍しく、大地にぺたりと座り込んで項垂れる姿が。
頭の垂れた先には、ラクアンツェの身体が横たわっていて。
いつになく神妙で、体まで震わせる程。
両拳を握り締め、それだけの悔しさと哀しさを体現する。
その哀しみを雫と共に浮かべた瞳を、ラクアンツェへと向けて。
「腕ェ、取れちゃった……」
おまけに、外れた腕まで見せつけながら。
相当激しく戦っていたのだろう。
それはもう、鉄人形と化したラクアンツェをぶるんぶるんと震わせんばかりに。
そしてその結果、やっちゃったのだろう。
これがただの魔剣なら歯牙にも掛けないのだが。
あれだけ「おめぇを抱えてでも戦えらぁ」なんて宣っておいてこのザマなので。
これにはさすがのラクアンツェも、真っ赤な頬を膨らませざるを得ない。
「ま、まぁ? 元々関節部は脆かったって言うし?」
「お、おう」
「伸縮性が無いから? 力加減考えないと折れちゃうし?」
「……おう」
何せこんな剣聖を見るのはラクアンツェにとっても珍しい事で。
最近で見せたのと言えば精々、獅堂に刺されて長期休養していた時くらいだ。
あの時はまだ横暴さが残っていたのだが。
啖呵切って結果が出せなかったのがよほど悔しかった模様。
「まぁ後でピネちゃんに直してもらうわよ……だから元気出しなさいな?」
「おう……」
ただ、ラクアンツェとしても正直に笑えない理由があるが。
実はその腕―――元々、彼女自身が壊した所なのだから。
命力で強引に繋ぎ合わせていただけで、実際は結構前から。
ちょっと体の調子を合わせてみようと、こっそり夜中に【光破滅突】をかましたらこのザマだ。
でも変なプライドがあるので、ずっと黙っていて。
魔剣自体に自己修復機能があるので、それで誤魔化していたのだが。
それで今日絶好調と言わんばかりに二連秘拳をかました結果。
その破損部が再び限界を迎え、根本からボッキリといってしまった、という訳である。
もしそんな事実がバレてしまえば。
あの剣聖の事だ、途端にへそを曲げて怒りかねない。
そうなったら最後、どうされる事やら。
そんな訳で、ラクアンツェもただひたすらフォローに回るのみ。
単に、そんな裏事情を悟られない為にも。
戦いを終えて平和になった途端の細やかな珍騒動。
周囲に刺し並ぶ魔者達の柱が、その虚しさを更に助長するかの様であった。
◇◇◇
一方その頃、太平洋。
未だ蛇岩との戦いの余韻が残り、海に大きなうねりを呼ぶ。
波飛沫を跳ね上げて、大きな渦まで生んで。
ただし、周辺への影響はほぼ無い様だ。
どうやら蛇岩が沈んだ影響も微々たるもので、精々大波が出る程度と言った所か。
恐らく天を穿つ一撃が、生まれた圧力を蛇岩ごと空へと還してしまったからだろう。
なお、その力を放った当人はと言えば―――
ザザァーーーンッ!!
なんとか茶奈は無事な模様。
うねる海面から飛び出し、ようやく酸素溢れる海上へと到達だ。
とはいえ、大気フィールドを維持する事も出来なくなっていた様で。
全身はずぶ濡れ、残り四つの星が形成した光網によって網漁の如く引き上げられる姿が。
「カハッ! ハァ、ハァ……」
もう体力的にも命力的にも限界だったのだろう。
幾らアストラルエネマとはいえ、放出量限界を超える事は出来ないから。
それさえ放ち尽くせば、こうして回復まで動く事もままならなくなる。
もちろん、星達だって間も無く力を失う事になるだろう。
そうなればまた海に落ちる事も有り得る訳で。
「島……あそこに、ゲホッ、ゲホッ!」
意識を何とか保たせつつ、星達をゆっくりと海面スライド移動させていく。
景色の先に小さく見える島へと向けて。
もう自力で飛ぶ命力も残されていない。
それに先程の一撃の影響により、【エフタリオン】も【ラーフヴェラ】も機能停止状態で。
あれだけの一撃を強引に放ったからこそ、【クゥファーライデ】本体も当然タダでは済まされない。
余りの威力故に増幅用の星の幾つかは自壊し、巻き込まれた砲台魔剣も海の藻屑だ。
残された【ユーグリッツァー】一本だけが彼女の命を繋いでいると言えるだろう。
その僅かな生存可能性に縋り、今にも落ちそうになりながらゆっくりと空を行く。
島まで辿り着けば、とりあえずは休めるだろうから。
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