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第八節「心の色 人の形 力の先」

~成長、これが彼女の底力~

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「―――如何に弾を速く正確に撃ち出すかぁ」

 それは訓練施設へ訪れたあの時、勇が悶絶の末に端っこで気絶していた最中。
 ちゃなは心輝達にとある相談をしていた。

 それは「どうしたら砲撃をもっと強く出来るか」というもの。

 最初に撃ち放った炎弾は最もイメージしやすい形だったのだろう。
 そのイメージと膨大な命力が重なったからこそ、あれだけの威力を誇れたのだ。

 でも、ちゃなにはそれ以上の知識は無い。
 つまりこれ以上の拡張性が彼女には無いという事。
 なのでこうして心輝達に思い切って尋ねたという訳で。

 気付けば会議机を囲みながら話し合うちゃな達の姿が。

「ん~、それなら弾丸しかねぇな」

「弾丸?」

「ああ。 鉄砲の弾の事だな」

 すると心輝が鞄からペンとノートを取り出して。
 得意気にスラスラと何かを描き始める。

 そうして描き上がったのは―――先の丸い円錐物、銃弾だ。 

「鉄砲の弾ってのはよ、こう丸い円錐みたいになってんだ。 そんでな、空気抵抗を出来るだけ抑え―――あーなんつうか、空気を掻き分けて進むんだよ」

 一体どこから仕入れた情報なのやら。
 そう語る姿もどこか得意気で、口調もどこかハイトーン。
 しまいには空気の流れまで描き込み始めていて。

 でもそれがちゃなにとってはとてもわかり易かった模様。
 簡単な絵を前に「おお~」と感心の頷きを見せる。

「しかもな、弾丸ってのは超高速で回転してるんだよ。 すなわちそれが貫通力ゥ……ッ!! 相手とか障害物をぶち抜くためにな……!」

「かんつうりょく……ですか」

「おう。 真っ直ぐ当てるより、ドリルみてぇにグリグリした方が痛いだろ?」

「なるほどー」

 おまけに実践すればなおの事。
 今まさに心輝の拳骨があずーの頬へとグリグリと捻じ当てらていて。
 かくいうその当人は凄く不機嫌そう。

「解せにゅ……!」

 もっとも、これは痛いというより不愉快だからであるが。

「んでその鋼鉄の弾丸の中に目一杯火薬を閉じ込めりゃ爆砲弾の出来上がりよぉ! 田中ちゃんならそれっぽい事出来るんじゃね?」

「なるほどなるほど! ちょっとイメージしてみますね」

「なんでアンタそんな事知ってんのよ……」

 時に好奇心というものは予想打にしえない知識をもたらす事もある。
 心輝の場合はその好奇心が人並み外れているからこそ、こんな無駄知識も沢山得られたのだ。

 だがきっと心輝自身、まさかここまでの威力の砲弾が再現出来るとは思っても見ないだろう。



 知識はキッカケ、知恵こそ本質。

 ちゃなはこうして、心輝の知識を素にとんでもない攻撃方法を編み出してしまったのである。




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 何度も撃ち放たれる熱榴弾を前に、勇ももはや呆れ気味だ。
 これだけのとんでもない火力なのだ、覚醒した自分がちっぽけにさえ見えてならない。

 やはり彼女の優位性は揺るがない模様。 

「いつの間にこんな事出来る様になったの?」

「それはですね……んっ!! こないだの訓練施設の時に心輝さんに教えて貰ったんですっ」

「ああ~あの時のか」

 加えてその素があの心輝。
 勇にとっては面倒くさい奴一応親友でも、知識面ではこうして助けられる事もある。
 それがこの様な成果として現れれば、その印象を見直す事も吝かではなさそう。

「こうして知識を教えてくれるだけでいいんだけどね。 アイツ余計な事ばかり言うからなぁ……」

「いいじゃないですか、面白い人だと思います!」

 そんな話の最中でも砲撃はなお続く。
 笑いながら焼かれる方は堪ったものではないだろうが。

 とはいえ、この砲撃もどうやら永久に撃ち続けられる訳ではないらしい。

「勇さん、ちょっと休憩させてもらっていいですか?」

「もしかして命力が切れた?」

「いえ、撃ち続けてたら手が痺れちゃって……」

 ただし肉体的な理由で。

 どうやらちゃなの腕には相当な負荷が掛かっていた様だ。
 魔剣を離した掌を見せてみれば、プルプルと小刻みに震えていて。

 何せあれだけの威力の砲撃で。
 これ程に反動があっても不思議ではない。

 両手で魔剣を携えていたのも、これが専らな理由。
 勇もここでやっとその事に気付いた様だ。

 しかしだからといって戦いが終わる訳ではない。
 むしろ勇にとってはここからが本番の様なもので。

「わかった。 じゃあ俺が一人で先行するから、君は安全そうな所に隠れてて。 無理に戦う必要は無いからさ。 でももし魔者に見つかって接近戦で戦う事になったら、あの時の訓練を思い出して」

「はいっ」

「それでも危ないと思った時は遠慮無く逃げるんだ。 俺の事は気にしなくていいからさ」

 勇がそう伝えながら、そっと【ドゥルムエーヴェ】をちゃなの背中へと備え付ける。
 自分でエーヴェホルダーに備えるのにはコツが居るので、ちゃなとしては嬉しい気遣いだ。

「うん……それじゃあ勇さんも気を付けて」

「ああ、行ってくる!」

 そんな優しさが、痺れた手で振る事をも誘っていて。
 間も無く走り去る勇をゆるりと見送る。
 その小さな口元に笑窪を浮かばせながら。

「さて、隠れなきゃ」

 でも悠長にしている暇は無い。

 あれだけ砲撃を繰り返していれば、周辺に居た魔者が集まって来ていても不思議ではなく。
 斥候が気付いて戻ってくる事さえあり得るだろう。
 なので休むにしろすぐに隠れなければならない。

 幸い、すぐそこの敷地にはおあつらえ向きのブロック塀がある。
 囲っていた民家自体は、燃え盛る炎の燃料と化しているが。

 なので早速その塀の影へとその身を隠す事に。

「ふぅ、ここなら平気かな」

 とにかく今は休まなければ。
 そんな想いで地べたへとちょこんと座り込む。
 汚れなんて気にしていられないから。

 ブロック塀自体も、今だけは背もたれとして優秀だ。
 石材独特のひんやり感が火照った体を癒してくれるかのよう。
 伸びた雑草が彼女の体を隠してくれるから、心なしか安心感も与えてくれる。



 ―――などと思っていたのだけれども。



 ふとちゃなが横に振り向いて見れば、そこには見た事のある様な者の顔が。
 体毛に覆われていて、にゅるんと伸びた舌が特徴的な。

「あ……」
「ぇぇ~……」

 魔者オンズ族である。
 しかもちゃなと同じ様に茂みの中に隠れる様にしてちょこんと座っていたのだ。

 きっと彼もちゃなの砲撃をどこからか見ていたのだろう。
 そして怖くなって隠れていたのだろう。
 「一度撃たれた場所だからきっと追撃は来ない」と安心していたのだが。

 まさか隣に座りに来るとは思っても見なかった様で。

「え、え~っとぉ……」

 唖然とするちゃなを前に、魔者の焦りは隠せない。
 途端に何かを誤魔化すかの如く、頭を抱える素振りまで見せていて。

「ああもうチクショー!! ここで会ったが(オレの)運の尽きだ魔剣使い野郎!!」

 でもやっぱりどうしようもないと思ったのだろう。
 咄嗟に飛び退き、自慢の爪を「ジャキンッ」と構えて敵意を見せつける。



 だが敵意を見せつけられれば、ちゃなとて黙ってはいない。



 彼女もまた同様に飛び退き、その腰を僅かに落として両拳を広く構える。
 勇から学んだ近接戦闘の基本通りに。

 足腰を落とすのは身体に柔軟性を与える為だ。
 いざという時、自在に動ける様に。

 でもその理由、実はもう一つ―――

「死ねぇ~~~ッ!!」

 魔者が鋭い爪を瞬かせ、殺意の咆哮を打ち上げる。
 その強靭な足腰で殺意の矛先へと飛び掛かりながら。

 しかしその強靭さも、ちゃなの動きを前にすれば―――全てが霞む。

 その瞬間、魔者は理解するだろう。
 飛び掛かった相手には決して逆らってはいけなかったのだと。
 いっそ仲良く一緒に座っていれば良かったのだと。



 一瞬にして懐へと潜り込まれれば、そう思いもしよう。



 本当に瞬く間の事だった。
 ほんの一瞬瞬きしただけで、前に立っていたちゃなの姿は消えて。
 気付いたらもう、目下で拳を深く引き込んでいたのである。

「ふぅッ!!!」

 その速度を前に、魔者の反射神経などもはや意味を成さない。
 避ける事も、防ぐ事も叶わない。



ドゥグンッッッ!!!!!



 そして響くのは肉の潰れた様なあの音。
 そう、ちゃなの拳が魔者の腹側部に深々と突き刺さったのである。
 訓練施設で勇が受けた一撃以上の威力の拳が。

 この威力を体現したものこそ、先程の構えの賜物。
 その身を思いっきり伸ばす様にして拳を撃ち出す為に。

 ただそれだけで、拳撃の威力は格段に跳ね上がる。

「ゴガッ―――」

 その威力がもたらす結果は既に実証済み。
 オマケに命力も乗っているから障壁も通用しない。

 そうなればもう結果は言わずとも知れた事。

 たちまち魔者の体が打ち上がり、ブロック塀さえ砕いて景色の先へと消えていく。
 それ程の威力、それ程の衝撃。

 容赦なく打ち放った拳は、あの時を彷彿とさせる破壊力をしっかりと見せたのだ。

「やったぁ!」

 その破壊力に似つかわしくなく、喜ぶちゃなの姿はとても可愛らしい。
 小動物の如く小さく飛び跳ねる姿はいつも通りである。



 もしかしたら、魔者を倒すだけならちゃなに魔剣はもう必要ないのかもしれない。










 一方その頃、福留達はと言えば―――

「確かに、『やりたいようにやれ』とは言いましたが……これは山が丸裸にされそうですねぇ」

「ええ。 これ、収拾付きますかねー……」

 遥か彼方から立ち上る凄まじい業炎に、二人揃って唖然と立ち尽くしていて。
 想像を超えた惨状を前にして、漏れる声は先程と違ってずっと細々しい。



 赤々と容赦なく燃ゆる徳島の山。

 もしかしたら、この戦いで一番思い知る事になるのは―――責任を背負うこの二人なのかもしれない。


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