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第八節「心の色 人の形 力の先」
~帰還、さらば楽しい一時よ~
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夕暮れの空がミズニーランドをも照らし、深々と朱に染め上げる。
人の流れも昼間ほどには多くは無く、たくさんの来場客が退場ゲートへと向けて足を運んでいた。
もちろん、勇達もまた例外ではなく。
この時間ともなれば、エウリィもしっかり自分で動ける程に回復していて。
ここに至るまでに一体何杯のソフトクリームが消えた事やら。
ほんのちょっぴりお腹が膨らんでいる様にも見えるが、そこは敢えて放っておくとしよう。
だからといって、このまま遊び続行には至らず。
ナイトパレードを観たいという気持ちもあったが、エウリィを夜中まで連れ回す訳にはいかない。
それに帰りの時間を考えると、もうそろそろ出た方が良い頃合いだろうから。
勇達的にも、迎えに来る女性的にも。
という訳で。
今日最後の締めとして、四人で机を囲んで楽しく夕食だ。
あの後体験出来た事を、遊べなかったエウリィの為に語る。
いつかまた訪れる時まで、楽しみにしてもらう為に。
もちろん食事だけでは全てが終わらない訳で。
お腹を膨らせた後は当然、お土産購入も忘れない。
とはいえ、これはほんのちょっと難儀する事に。
勇やちゃなはお土産を買う相手が少ないから大した事ない訳だが―――
一〇〇名以上もの同胞を控えたエウリィの場合、話は別だ。
その買い物量はもはや常人のそれを遥かに超えて多量で。
勇やちゃな、莉那が代理でカゴを抱えても全く人手が足りない程。
果てには一軒どころか二軒三軒と店をハシゴして、目に付いた物を買って買って買いまくる。
店員が漏れなくドン引きするくらいに。
しかも予算が決まっているにも拘らず、それを軽くオーバーしてしまうというオチ付きで。
ただこれには勇としても目を瞑りたくもなるだろう。
今まで良くしてきてくれたフェノーダラ城の皆さんへのお土産ならばと。
そんな事もあって、勇が自分のクレジットカードを差し出して追加清算完了である。
なお、このお土産はほぼ全て発送予定となっている。
もちろん届け先は政府が用意したフェイクの住所へ。
専用集積所に全てを集め、フェノーダラ城に直接お届けとなっているので安心だ。
夢あり楽しさあり、不安ありに競歩あり、おまけにハプニングと騒動まで添えた。
そんなミズニーランド観光もようやく終わりを告げて、勇達がようやくゲートの外へと躍り出る。
後半はやはりゆったりとしていたもので、心なしか皆体が軽そうだ。
「莉那ちゃん、ここから一人だけど大丈夫?」
「行きも一人だったんだけど」
相手が莉那だけに、どうやら心配は無さそうだ。
そんな相変わらずの憎まれ口が返ってくるが、もはや馴れたもので。
勇も「アハハ」と笑い飛ばして受け流す姿が。
「そっか、じゃあ気を付けてね」
「莉那ちゃんバイバイ」
「お元気で!」
「……またね」
素っ気ない挨拶のままに踵を返し、莉那が去る。
でも馴れたのは勇だけじゃない。
ちゃなもエウリィも、もうすっかり莉那節には馴れたもので。
だからそんな愛想無い莉那の背中を前に、三人揃って笑顔で送り出す事が出来る。
「またね」って言われたから。
その一言だけで、彼女の気持ちは充分伝わったから。
言葉なんて、たったそれだけでちゃんと伝わるものなのだから。
そしてそんな勇達の気持ちを、もしかしたら莉那も察していたのかもしれない。
誰にも見せない彼女の口元には、ほんの少しだけれども―――笑窪が浮かんでいたのだから。
「さて、俺達も帰ろうか」
無表情プリンセスを送り届けた後は、本物のプリンセスを送り届ける番だ。
彼女の場合は栃木まで。
それが叶うまでが勇達の役目であり、仕事でもある。
計画ではここでちゃなとも一旦お別れなのだが。
それが瓦解確定なのはもはや言うまでもないだろう。
しかし二人がエウリィに付く理由は、ただ送り届けるだけとは限らない。
「よいしょっと……」
その掛け声と共に勇が持ち上げたのは大きな買い物袋。
でも、彼等が持つべき物はそれだけでは済まされない。
そんな彼等の足元には尋常じゃない量のお土産袋が。
これは決して送りきれなかった分だとかそういう物ではない。
何でも、エウリィが今日中に持ち帰りたい物なのだとか。
発送したお土産も確かに数日の内に届くだろう。
早ければ明日か明後日には。
でもそれでは今日の興奮が冷めてしまいそうなのだと。
今日体験した事なのだから今日中に興奮を伝えたいという、たっての願いがあって。
それを叶えようと、こうして一部のお土産を手荷物として持ち帰る事になったのだ。
これでもまだ全体の一割程度に過ぎないが。
「お荷物よろしくお願い致します」
「がんばりますっ!」
「忘れ物無いかな? よし、じゃあ行こうか」
こうして勇達は手一杯の荷物を抱えてミズニーランドを後にする。
大勢の来場客達の中に紛れて。
時々振り返ってはライトアップされた巨城を視界に納め。
ついさっき体験した思い出に想いを馳せながら。
とんでもない騒動に塗れたけれど。
それでも満足する程に楽しめた最高の一日はこうして幕を閉じた。
―――と美しく終われる程、世の中は甘くは無い。
何せこの日は平日で、しかも今の時間帯は帰宅ラッシュの真っ最中。
最初はミズニー客で満載だったとしても、一つ乗り換えればスーツを着た会社員達だらけとなる。
その中に手荷物を抱えた勇達が突っ込めばどうなるかなど、もはや言わずもがな。
満員電車には姫だろうが戦士だろうがそんな立場は一切関係無い。
詰め込まれたら最後、車内で容赦無く押し潰されて。
人の波に揺られ、顔が歪む程に押し退けられ、薄い空気が苦痛さえも催す。
例え経験した事があろうとも、耐えきれないのがこの特殊空間。
物理的許容量を遥かに超えた詰め込み具合を前には命力などもはや無力。
勇は二人を守る事も叶わず、人と人の間に押し潰されてまともな姿勢すら取れない。
ちゃなも座席と扉の境目で、まるで棒の様になるまで押し込まれ。
エウリィに至っては扉に押し付けられ、無様な潰れ顔を見せつける始末である。
泣こうが喚こうが脱出する事は叶わない。
それこそが満員電車という地獄なのだから。
この日、エウリィは知る。
人が多いからこそわかる現代の闇を。
多いから良いものではないのだという現実を―――身を以って理解したのだった。
人の流れも昼間ほどには多くは無く、たくさんの来場客が退場ゲートへと向けて足を運んでいた。
もちろん、勇達もまた例外ではなく。
この時間ともなれば、エウリィもしっかり自分で動ける程に回復していて。
ここに至るまでに一体何杯のソフトクリームが消えた事やら。
ほんのちょっぴりお腹が膨らんでいる様にも見えるが、そこは敢えて放っておくとしよう。
だからといって、このまま遊び続行には至らず。
ナイトパレードを観たいという気持ちもあったが、エウリィを夜中まで連れ回す訳にはいかない。
それに帰りの時間を考えると、もうそろそろ出た方が良い頃合いだろうから。
勇達的にも、迎えに来る女性的にも。
という訳で。
今日最後の締めとして、四人で机を囲んで楽しく夕食だ。
あの後体験出来た事を、遊べなかったエウリィの為に語る。
いつかまた訪れる時まで、楽しみにしてもらう為に。
もちろん食事だけでは全てが終わらない訳で。
お腹を膨らせた後は当然、お土産購入も忘れない。
とはいえ、これはほんのちょっと難儀する事に。
勇やちゃなはお土産を買う相手が少ないから大した事ない訳だが―――
一〇〇名以上もの同胞を控えたエウリィの場合、話は別だ。
その買い物量はもはや常人のそれを遥かに超えて多量で。
勇やちゃな、莉那が代理でカゴを抱えても全く人手が足りない程。
果てには一軒どころか二軒三軒と店をハシゴして、目に付いた物を買って買って買いまくる。
店員が漏れなくドン引きするくらいに。
しかも予算が決まっているにも拘らず、それを軽くオーバーしてしまうというオチ付きで。
ただこれには勇としても目を瞑りたくもなるだろう。
今まで良くしてきてくれたフェノーダラ城の皆さんへのお土産ならばと。
そんな事もあって、勇が自分のクレジットカードを差し出して追加清算完了である。
なお、このお土産はほぼ全て発送予定となっている。
もちろん届け先は政府が用意したフェイクの住所へ。
専用集積所に全てを集め、フェノーダラ城に直接お届けとなっているので安心だ。
夢あり楽しさあり、不安ありに競歩あり、おまけにハプニングと騒動まで添えた。
そんなミズニーランド観光もようやく終わりを告げて、勇達がようやくゲートの外へと躍り出る。
後半はやはりゆったりとしていたもので、心なしか皆体が軽そうだ。
「莉那ちゃん、ここから一人だけど大丈夫?」
「行きも一人だったんだけど」
相手が莉那だけに、どうやら心配は無さそうだ。
そんな相変わらずの憎まれ口が返ってくるが、もはや馴れたもので。
勇も「アハハ」と笑い飛ばして受け流す姿が。
「そっか、じゃあ気を付けてね」
「莉那ちゃんバイバイ」
「お元気で!」
「……またね」
素っ気ない挨拶のままに踵を返し、莉那が去る。
でも馴れたのは勇だけじゃない。
ちゃなもエウリィも、もうすっかり莉那節には馴れたもので。
だからそんな愛想無い莉那の背中を前に、三人揃って笑顔で送り出す事が出来る。
「またね」って言われたから。
その一言だけで、彼女の気持ちは充分伝わったから。
言葉なんて、たったそれだけでちゃんと伝わるものなのだから。
そしてそんな勇達の気持ちを、もしかしたら莉那も察していたのかもしれない。
誰にも見せない彼女の口元には、ほんの少しだけれども―――笑窪が浮かんでいたのだから。
「さて、俺達も帰ろうか」
無表情プリンセスを送り届けた後は、本物のプリンセスを送り届ける番だ。
彼女の場合は栃木まで。
それが叶うまでが勇達の役目であり、仕事でもある。
計画ではここでちゃなとも一旦お別れなのだが。
それが瓦解確定なのはもはや言うまでもないだろう。
しかし二人がエウリィに付く理由は、ただ送り届けるだけとは限らない。
「よいしょっと……」
その掛け声と共に勇が持ち上げたのは大きな買い物袋。
でも、彼等が持つべき物はそれだけでは済まされない。
そんな彼等の足元には尋常じゃない量のお土産袋が。
これは決して送りきれなかった分だとかそういう物ではない。
何でも、エウリィが今日中に持ち帰りたい物なのだとか。
発送したお土産も確かに数日の内に届くだろう。
早ければ明日か明後日には。
でもそれでは今日の興奮が冷めてしまいそうなのだと。
今日体験した事なのだから今日中に興奮を伝えたいという、たっての願いがあって。
それを叶えようと、こうして一部のお土産を手荷物として持ち帰る事になったのだ。
これでもまだ全体の一割程度に過ぎないが。
「お荷物よろしくお願い致します」
「がんばりますっ!」
「忘れ物無いかな? よし、じゃあ行こうか」
こうして勇達は手一杯の荷物を抱えてミズニーランドを後にする。
大勢の来場客達の中に紛れて。
時々振り返ってはライトアップされた巨城を視界に納め。
ついさっき体験した思い出に想いを馳せながら。
とんでもない騒動に塗れたけれど。
それでも満足する程に楽しめた最高の一日はこうして幕を閉じた。
―――と美しく終われる程、世の中は甘くは無い。
何せこの日は平日で、しかも今の時間帯は帰宅ラッシュの真っ最中。
最初はミズニー客で満載だったとしても、一つ乗り換えればスーツを着た会社員達だらけとなる。
その中に手荷物を抱えた勇達が突っ込めばどうなるかなど、もはや言わずもがな。
満員電車には姫だろうが戦士だろうがそんな立場は一切関係無い。
詰め込まれたら最後、車内で容赦無く押し潰されて。
人の波に揺られ、顔が歪む程に押し退けられ、薄い空気が苦痛さえも催す。
例え経験した事があろうとも、耐えきれないのがこの特殊空間。
物理的許容量を遥かに超えた詰め込み具合を前には命力などもはや無力。
勇は二人を守る事も叶わず、人と人の間に押し潰されてまともな姿勢すら取れない。
ちゃなも座席と扉の境目で、まるで棒の様になるまで押し込まれ。
エウリィに至っては扉に押し付けられ、無様な潰れ顔を見せつける始末である。
泣こうが喚こうが脱出する事は叶わない。
それこそが満員電車という地獄なのだから。
この日、エウリィは知る。
人が多いからこそわかる現代の闇を。
多いから良いものではないのだという現実を―――身を以って理解したのだった。
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